IEEE主催の半導体デバイス国際会議「IEDM 2025」が2025年12月6~10日にかけて米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。今回のメインテーマは、「FET誕生100周年:デバイス・イノベーションの未来を築く」である。このメインテーマに沿ったパネル討論や昼食会が企画されている。

IEDM 2025広報委員長であり、伊パドヴァ大学情報工学部長のガウデンツィオ・メネゲッソ氏は、「今年のIEDMは次世代コンピューティングパラダイムの先駆けとなる。原子スケールの半導体製造技術、3次元集積化、ニューロモーフィック設計の融合が進み、従来の技術や古典的コンピューティングを超越しつつある。トランジスタ密度を再定義するモノリシックCFETから、フォン・ノイマンのボトルネックを緩和できるインメモリコンピューティングまで、より知的で効率的な技術が紹介される」と見どころを紹介するほか、「AIが前例のない効率性を要求する中、デバイスコミュニティはこの課題に立ち向かっている。IEDM 2025では、電力供給用GaNチップレット、データ転送用シリコンフォトニクス、インメモリコンピューティング用3D DRAMやFeFETなど、次なる10年を支える技術を紹介する。これらのデバイス技術が、未来のアルゴリズムを可能にするだろう」と次々と新たな技術が登場してきていることを強調している。

Qualcomm、IBM、GFが基調講演

IEDM 2025では基調講演が3件行われる。まずQualcommのChidi Chidabaram氏が「Electron Device Challenges and Opportunities to Center AI Around the Individual Using Edge-Devices(エッジデバイスを活用したAIを個人中心に据える電子デバイスの課題と機会)」と題した講演を行う。スケーリング/電力削減からより多くの利益を引き出すための機会と、最適なエッジシステムを実現するために、近年の高度なパッケージとメモリ帯域幅の改善をエッジデバイスに拡張する必要性の両方について説明する。

次にIBMのHillery Hunter氏が「Inside Enterprise Mission-Critical Computing(エンタープライズ・ミッションクリティカル・コンピューティングの内部)」と題してシリコンダイ技術やパッケージング技術を紹介する。最後にGlobalFoundries(GF)のTed Letavic氏が「Essential Semiconductors: Technology Innovation and Impact(エッセンシャル半導体: 技術革新とインパクト)」と題して、トランジスタを高密度するのではなく、性能、電力効率、信頼性を最適化した基本的な半導体技術の重要な役割について考察する。今後10年を左右する要素技術、すなわちRF(無線周波数)、超低消費電力、SOI(Silicon On Insulator)、埋め込み不揮発性メモリ、相互接続、シリコンフォトニクスなどの最先端相互接続技術、そして従来型および量子コンピューティングシステムの両方における材料統合の進歩について議論する。

初心者に向けたチュートリアルは6件

チュートリアル・セッションでは、「CMOS技術の進歩と論理セル高さの微細化」「大規模言語モデル処理を高速化するためのインメモリコンピューティング」、「BEOLロジックとメモリに向けた原子層堆積による極薄酸化インジウムトランジスタ」「量子コンピューティングの概念、現状と課題」、「ウェハスケールシステムに向けたチップレット」と「機械学習と高性能コンピューティングに向けた高速メモリ・ソリューション」の6件の講義が行われる。

ショートコースは「Advanced Logic and System Technologies in the AI Era(AI時代の先端ロジック技術と先端システム技術)」と「Advanced Memory Technologies for Energy-Efficient AI and HPC(高エネルギー効率のAIとHPCに向けた先端メモリ技術)」の2テーマについてそれぞれ6人の専門家が講義する。

フォーカスセッションはAIやフォトニクスなど4テーマ

特定の次世代技術に焦点を当ててその分野の6~8名の先端研究者に集中的に招待講演をしてもらうフォーカスセッションは、以下の4テーマが選ばれた。

  • Efficient AI Solutions: Advances in Architecture, Circuit, Device & 3D Integration (効率的なAIソルーション:アーキテクチャ、回路、デバイス、3次元集積の進歩)
  • The Invisible Revolution in Thin-Film Transistors (薄膜トランジスタの人目につかない大改革)
  • Beyond Von Neumann, from Physics-inspired Solvers to Quantum Hardware Implementation (フォンノイマン計算機を超えて物理に根差した解法から量子ハードウェア実装へ)
  • Silicon Photonics for Energy Efficient AI Computing(エネルギー効率の高いコンピューティングのためのシリコンフォトニクス)

昼食会では岩井洋氏がFET誕生100年にちなむ講演

昼食をとりながらのランチセッションでは、岩井洋氏(ニューヨーク市立大学および東京科学大学)が「A Century of Miracles: From the FET's Inception to the Horizons Ahead(奇跡の100年: 電界効果トランジスタ(FET)の誕生と未来への展望)」と題して今回のIEDMのメインテーマにふさわしい講演を行う。同氏は「1世紀前のFETの発明から今日の超高性能CMOSに至るまで、その道のりは、あり得ない偶然の連続によって彩られ、今日の技術的奇跡へと繋がってきた。この講演では、これらの驚異的なマイルストーンを検証し、FETの性能限界を再び覆す可能性のある次なるブレークスルーについて考察する」と述べている。次に、Bob Johnson氏(米ガートナー)が「Semiconductor Market Outlook: Speedbumps on the Road to a Terrabuck(半導体市場の展望: テラバック(=1兆ドル)に至る道への障害物は?)」と題して講演する。

FET誕生100周年記念パネル討論にはChatGPTも参加

パネルディスカッション・セッションでは、「FETs at 100: Yesterday's Sparks, Tomorrow's Arcs -- Human Wisdom Meets AI Insight(FET誕生100年: 昨日のスパークと明日のアーク、人類の叡智とAI(人工知能)の識見との出会い」と題する討論を行われる。パネリストはベルギーimec、韓Samsung Electronics、米UC Berkeley、米Stanford大学、AMDの研究者に加えて、生成AI技術の代表である「ChatGPT」がパネリストとして名前を連ねている。

1925年、ジュリアス・E・リリエンフェルドが電界効果トランジスタ(FET)のコンセプトの特許を出願した当時、FETが1世紀後に甚大な影響を与えるとは誰も予想できなかった。長年にわたり、数え切れないほどのイノベーションを通して、FETは驚異的な耐久性と汎用性を示してきた。トポロジーと材料は進化を続け、コンピューティング、メモリ、ストレージからセンサ、RF、電力管理まで、幅広いアプリケーションに適応してきた。パネル討論では、この100年間のFETの驚異的な歩みを振り返り、祝うとともに、今後の刺激的な発展を予測するため、AIによる知見も活用しながら、活発で示唆に富む議論と討論を行うことになっている。

30余りのセッションで行われる295件の一般講演

ここまではIEDM実行委員会が企画し設定したセッションであるが、このほか、応募論文の中から選ばれた295件の一般講演が行われる。

この一般講演は、「先端ロジック」、「NAND」、「組み込みメモリ」、「強誘電体メモリ」、「2D材料トランジスタ」、「酸化物半導体デバイス」、「高周波FET」、「光検出器」、「スピントロ二クス」、「MEMSセンサ」、「画像センサ」、「GaNデバイス」、「不揮発性メモリ」、「画像センサ」、「インメモリコンピューティング」、「大規模言語モデル処理」、「オンチップの機械学習」など30余りのセッションが割り当てられており、8つ前後のセッションが同時並行で開催される。

なお、主催者は295件の一般論文の中から特に注目される論文を16件ほど選出している。その中には次世代ロジックデバイス構造であるCFETや次世代メモリ構造である3D DRAM、高移動度2Dデバイス、先端イメージセンサなど、多彩な新規デバイスが含まれていることから、次回以降、これらの注目講演の紹介を行う予定である。

(次回に続く)