Google Geminiのような生成AIは文書の要約を生成するだけではなく、その内容について指示を出して特定のデータだけを抜き出すといったことができる。要約を生成させてから、特に知りたい部分についてGeminiに指示を出すことで特定の情報に素早くアクセスすることが可能だ。今回はそうした使い方やそのときの注意点などについて取り上げる。
連載「Google Geminiの活用方法」のこれまでの回はこちらを参照。
興味がある文書の内容を要約させる
今回も前回と同じ次の論文を題材として取り上げる。
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Efficacy of microcurrent therapy for treatment of acute knee pain: A randomized double-blinded controlled clinical trial - PMC
このWebページは直接Google Geminiを指示を出して要約を生成させることができないため、この論文のPDFをダウンロードしてGoogle Driveにアップロードすることで使えるようにする。Google GeminiはGoogle DriveにアップロードされているPDFを対象として利用することができるためだ。
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「Efficacy of microcurrent therapy for treatment of acute knee pain: A randomized double-blinded controlled clinical trial - PMC」のPDF
この論文はファイル名が「10.1177_0269215520965320.pdf」なので、Google Driveにアップロードした後、次のようにGeminiに指示を出す。
10.1177_0269215520965320.pdf というファイルの内容を要約してください。
これでGeminiから論文の要約を表示させることができた。ここまでが前回取り組んだ内容だ。
Google GeminiからGoogle Driveの文書を利用する機能はGemini特有の機能だったが、最近同様のことがOpenAI ChatGPT Plusにおいても利用できるようになった。このように生成AIサービスをめぐる開発は急ピッチで進められており、以前はできなかったことができるようになったり、あるサービスに特徴的だった機能が他のサービスでも利用できるようになったりと、短い期間で状況が変化している。
詳しく知りたい部分の詳細な説明を求める
Google Geminiの生成する要約は読みやすい方だと思う。ここで生成された要約を見てくと、マイクロカレント療法の実験に使われた時間に関する説明が行われていることに気が付く。次のスクリーンショットで指示している部分だ。
どのような理由で「1日3時間、4週間適用」というパラメーターが設定されたのか知りたいと考え、次のようにGeminiに指示を出す。
微小電流療法デバイスを1日3時間、4週間着用したとありますが、なぜ3時間だったのか理由を教えてください。
ここでGeminiは次のような回答を出している。
微小電流療法デバイスを1日3時間、4週間着用した理由は明確に示されていません。しかし、文献 には、3時間という着用時間は、微小電流療法の効果を最大限に発揮するために選択された可能性があると示唆されています。(略)過去の研究では、微小電流療法デバイスを1日3時間着用することで、痛みの軽減や機能の改善効果が得られたという結果が出ています。
不明瞭な言い回しになっているが、参考にした以前の実験が1日3時間でマイクロカレントカレント治療を行っていることから、それを踏襲したと取れる内容の説明が行われているように読み取れる。
詳しく知りたい部分の詳細な説明をさらに求める
参考にしたとみられる別の論文を読んだ方が良さそうなので、その論文を教えてほしいといった旨をGeminiに指示する。
微小電流療法デバイスを1日3時間、4週間着用した根拠として挙げられている参考文献を教えてください。
しかし、Geminiはこのプロンプト指示をこちらの意図通りに読み取らず、現在対象として利用している論文そのものを回答として示してきた。このあたりが無償で利用できるGoogle Geminiの能力の限界のように見える。他にも異なる質問で参考文献を出すように指示を出していったが、試みた中ではそこにたどり着くことはできなかった。
執筆段階でGoogleは有償版のGemini Advancedに最新機能を投入する傾向を続けている。他の生成AIサービスも同様の傾向を見せているが、有償版に導入した機能の古いバージョンは無償版に公開する取り組みが行われることが多いので、無償版のGoogle Geminiの性能もいずれ向上すると見られる。将来的には今回ここで示しているような参考文献の表示などもできるようになることが期待される。
手動で原文にあたる
生成AIが明らかに異なる回答をしたときや、疑わしい回答をしたときにはやはり自分で原文をあたる必要がある。今回のサンプルであれば「1日3時間、4週間適用」に関してGeminiの回答は不明瞭なので、このあたりから自分で調べる方が良いと考える。
今回のケースでは「3 hours」あたりで検索していけば該当部分が見つかりそうだ。調べていくと、次の文章が該当していると分かる。
The unit was attached to the electrodes, and the placebo or active microtens device was worn for 3 hours per day at home. Time duration per day was estimated from other microcurrent therapy studies. (ユニットを電極に装着し、プラセボまたは活性マイクロテンスを自宅で1日3時間装着した。1日あたりの時間は他のマイクロカレント療法研究から推定した)
やはり他の論文でこれに類似した時間で実験が行われていることから、それに基づいて「1日3時間、4週間適用」に決めたようだといったことが分かる。
必要になる他の文書をたどっていく
参考文献の19と20が関係しているようなので、今度はそちらの論文を調べていく。
19の論文は同じWebサイトに掲載されていて、すぐに読めることが分かる。
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Ultra-low microcurrent in the management of diabetes mellitus, hypertension and chronic wounds: Report of twelve cases and discussion of mechanism of action
ここから先でやることは同じだ。Google DriveにPDFをアップロードして、アップロードしたPDFファイルの要約を生成するようにGeminiに指示を出して内容を把握していく。
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「Ultra-low microcurrent in the management of diabetes mellitus, hypertension and chronic wounds: Report of twelve cases and discussion of mechanism of action」の論文
生成AIを使うことでこのように文書をざっくりと読み調べていく作業の効率を大きく引き上げることができる。詳しくない分野の論文は1本読めばよいというものではなく、関連するものも含めて、ある程度の数は目を通す必要が出てくる。しかし、生成AIの登場でこの作業はかなり効率よくこなすことができるようになった。大きな業務改善と言えるだろう。
Geminiを適切に使って調査の効率を改善する
根拠となるデータを調べていく場合には芋づる式にいくつかの論文を読んでいく必要が出てくるが、この作業にGoogle Geminiを使うのと使わないのでは、全体をざっと把握するまでの時間がかなり変わってくる。生成AIがない状態ではAbstractとあとは該当しそうな部分を当てずっぽうで読んでいくだけでも結構な時間がかかるが、生成AIを使うと全体から要約を生成し、気になる部分に関する情報をピンポイントで引き出し、さらに関連する論文を調べるといったことをシームレスに行うことができる。
とても効率の良いツールなのだが、まったく悪気なく嘘を混入させるという技術上の問題があることを常に念頭に入れておく必要があるというのが使いどころの難しいところだ。まったく知らない分野の資料だとGeminiの提示してくる回答が嘘なのか本当なのかが分からず、余計に時間がかかることにもなりかねない。
そういった場合にはまずGeminiの提供しているGoogle検索によるダブルチェック機能を使う。そしてそれでも不明瞭な場合にはChatGPTやCopilotといった他の生成AIを使い、最後は自分で原文を当たるといったことを行う。原文まで行くと自分で最初から読んで理解していく作業とそれほど手間が変わらなくなってくる。どこまで生成AIが業務に使えるかはケース・バイ・ケースで判断していく必要があるが、そのあたりのクセを捉えて効率化できる部分に使っていくのがポイントだ。