5年ほど前、ベルギーの独立系半導体・デジタル技術研究機関であるimecの研究者たちは、将来の相互配線(インターコネクト)材料として、微細化の限界が見え始めたCuを置き換えることを目的として、二元および三元化合物の探索を開始した。これは、新しい世界的な次世代配線材料研究の先駆けとなった。

実現に向けて、まず多数の候補をランク付けするためのガイダンスを提供する独自の方法論を設定した。本稿では、imecにおいて次世代半導体ロジックデバイスのBEOL(多層配線)研究の第一線で活躍する研究者自身が、提案した方法論を説明し、初期的に得られた結果を紹介し、将来の研究について展望する。

なぜCuが使えなくなるのか?

銅(Cu)は、1990年代半ばにロジックデバイスのBEOL(Back End of Line)アプリケーションに導入されて以来、相互接続する配線とビアを形成するための主流の導体金属となっている。デュアルダマシンプロセスにおけるCuの導電率と信頼性は、長年にわたって、きわめて優れた成果を発揮し、相互接続アプリケーションを実現するにあたって、ほかの金属に置き換える必要はなかった。

しかし、テクノロジーが世代を重ねるごとに、金属配線は縮小し続けており、まもなく、最も重要な配線の最少線幅がわずか10nmまたはそれ以下になる見込みである。残念なことに、このような小さな寸法では、Cuの抵抗率が劇的に増加し、電子回路の性能に影響を与えるようになることが明らかになってきた。

さらには、良好な信頼性を確保するために、Cuにはバリア、ライナー、およびキャップ層が必要である。これらの余分な層は、周囲の層間絶縁膜への銅の外方拡散(したがって、絶縁体破壊のリスク)を最小限に抑える役割をおっている。これらの通常は抵抗率が高い層の厚さが、相互配線の寸法にうまく対応できなくなってきた。その結果、それらはコンダクタンスにほとんど寄与することなく、配線の体積に占める割合がますます増加してしまうということが見えてきた。

このため、相互配線の研究者は、Cuに替わる金属配線材料を探索することを余儀なくされている。当初、脚光を浴びたのは純粋な金属(考えられる導体の中で最も単純なもの)であり、そのデータベースはすでに十分に文書化されている。

業界標準のCuは、超微細な寸法で最悪の挙動を示すと予測されているため、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)などが代替金属材料として提案されている[1]。より大きな寸法では、これらの代替導体の抵抗率はCuの抵抗率よりも高いので、Cuの代替金属とはならないが、相互配線の寸法が小さくなると抵抗率がCuよりもゆっくりと増加するため、寸法が小さくなるほどこれらの金属の見通しは良くなる。しかし、原材料費や環境負荷などを考えると、中には好ましくないものもある。

  • いくつかの元素金属のさまざまな膜厚に対する抵抗率

    図1 - いくつかの元素金属のさまざまな膜厚に対する抵抗率。膜が厚いときにはCuの抵抗率が最も低いが、薄くなるCuの抵抗率は急増する。ほかの金属の抵抗率上昇は比較的緩やかである (出所:imec、以下本連載のすべての図)

純金属の先を見据える新しい研究分野

約5年前、imecは、純金属から金属化合物へと新配線導体の検索範囲を広げることを決定した。小さな寸法で、抵抗と信頼性の点でCu(および他の純金属)よりも優れた、2成分および/または3成分の化合物(金属化合物)を見つけることができるできるだろうか? そして、理想的に拡散バリアまたは接着ライナーを必要としないのはどれだろうか? という観点を出発点として化合物配線材料の探索が始まった。

検索結果は、「2018 International Interconnect Technology Conference(IITC 2018)」にて初めて発表したが、この重要な探索研究の最初の結果は、非常に心強いものだった[2]。それ以来、世界中のいくつかの研究開発グループがこのアイデアを採用し、候補となる合金を探しており、今日では2成分系に探索の焦点が当たっている[3、4、5]

しかし、新しい金属の探索は容易ではなく、取り組むべき課題が数多くある。とりわけ、組み合わせ可能な材料のリストは膨大であり、しかも、多くの金属の小さな寸法における特性は詳細に研究されてはいない。多くの場合、それぞれの材料のバルクの性質でさえ詳細には報告されていない。

このような状況下で、実験を始める前にリストの候補材料をできるだけ少なく絞り込む最善の方法は何だろうか? 私たちの選択した材料が、持続可能で費用対効果が高いことをどのように確認できるだろうか? また、これらの合金は安定しており、実際に配線に使えるだろうか?

本稿では、第一原理計算、実験、およびモデリングに基づいて候補を絞り込み、ランク付けするための洗練されたimec独自の方法論を紹介することにしたい。次回は、潜在的な候補材料を選んで、次世代半導体デバイス構造への実装を試みる実験について説明する。

参考文献

[1] ‘Molybdenum as an alternative metal: thin film properties', V. Founta et al., IITC 2019;
[2] ‘Alternative metals: from ab initio screening to calibrated narrow line models',C. Adelmann et al., IITC 2018;
[3] ‘The search for the most conductive metal for narrow interconnect lines', (invited perspectives article; also: Editor's pick: "Featured Article")' D. Gall, J. Appl. Phys. 127, 050901 (2020);
[4] ‘Materials for interconnects', D. Gall et al., MRS Bulletin, October 2021;
[5] ‘Intermetallic compounds for interconnect metal beyond 3 nm technology node', J. Koike, IITC 2019;

Geoffrey Pourtois
Geoffrey Pourtois
imec フェロー。2002年にベルギーのモンス=エノー大学で化学の博士号取得学位を取得後、2003年にimecに入社し、材料の原子モデリングの分野の研究グループを率いている。ナノ電子関連材料の原子論的シミュレーションを使用したモデリングと、複雑な材料ゲートスタックに焦点を当て、相互接続、磁気メモリ、新型メモリ、2Dマテリアル用の新しい金属候補の特定などで成果をあげている。
Christoph Adelmann
Christoph Adelmann
imecのサイエンティフィックディレクター。2002年にフランスのグルノーブル・アルプ大学で凝縮物質物理学の学位を取得し、仏CEA(原子力及び代替エネルギ―庁)を経て2006年にimecに入社。High-k誘電体、金属ゲート、不揮発性メモリの誘電体、III-Vトランジスタ、相互接続用の新規金属、2D材料解析など、多くの分野の材料とプロセス、特に相互配線(インターコネクト)材料の課題と取り組んできた。
Zsolt Tőkei
Zsolt Tőkei
imecナノインターコネクトのプログラムディレクターおよびimecフェロー。1997年にハンガリーのコシュート大学で博士号取得後、ドイツのマックスプランク研究所を経て1999年にimec入社。スケーリング、メタライゼーション、電気特性評価、モジュール統合、信頼性、システム面など、さまざまな相互配線(インターコネクト)の課題に取り組み続けている。