2016年は、火星にちょっと注目が集まりそうです。火星探査映画「オデッセイ(現代Martian)」の公開や、5月末の2年ぶりの火星接近~夏休みが観察しやすいこと。火星探査機の打ち上げなど話題がいろいろあるからでございます。

火星は、ときどき思い出したように、話題になります。ちょっと前には、地球にもどれない「片道切符」の民間の火星探査計画に応募者殺到なんてのがありました。火星の大接近だからどうの、なんてのもありましたなあ。で、そのたびに、ワーっと情報がでて、そんでしばらく忘れられるのが火星でございます。今回は、この火星について、これくらい知っておけば、いろいろ楽しめるよーってな話のまとめでございます。

1. 火星は、地球と同じく太陽をめぐる惑星である

基本なので押さえておきます。地球の外をまわっていて、太陽からの距離は平均2.3億km。地球の1.5億kmの5割増しってところですな。で、ほかにも、いろいろ違いがあるんですね。

まず、火星は小さい星で、地球の半分の大きさでございます。面積は4分の1、体積は8分の1となりますな。大きさはNASAの比較図がわかりやすいですねー。面積は小さいのですが、海がなくて全部陸地なので、陸地の面積でいうと、地球と同じくらいになります。ちなみに、陸地が全然ない惑星というのもあって、木星、土星、天王星、海王星がそうですな。水星、金星は火星と同じく、すべてが陸地です。いや、海がある星の方が特殊で、太陽をめぐる惑星では地球だけですな。

地球と火星の大きさの比較 (画像提供:NASA)

2. 火星の1日はだいたい24時間、1年は687日=1.88(地球)年、季節がある

これは、偶然なんですが、火星の一日は24時間です。正確には、24時間37分です。毎日同じ時刻に火星を観察すると、次にまったく同じように火星が見えるのは39日後ってことになります。逆に、今日と明日ではほとんど変わりがありません。また、火星にも地球と同じように地軸の傾きがあって、25度傾いています。この傾きのおかげで、火星には夏や冬があります。夏になると北極や南極の氷が縮小します。

火星の1年、つまり太陽をめぐる周期は地球の1.88年です。で、地球よりのんびりまわっているので、2年2ヶ月に1回、内側の高速レーンを走る地球に追い越されます。その時が火星と地球がサイドバイサイド「接近」するときです。

3. 火星と地球は2年2カ月に1度接近する。その前後は目立つ。距離はそのときによって倍近く違う

火星と地球は、平均して2.3億km離れていますが、接近のときはぐっと近づきます。一番近い6000万km弱から、1億km強まで、接近の度合いが変わります。2016年は5月末に最接近しますが、7500万kmと中程度の接近です。業界では「中接近」といっておりますな。ちなみに次の2018年は6000万km切りで、業界では「大接近」と言うならわしになっています。なんとも業界用語な感じですな。

ちなみに、この大接近のときは、火星はとびきり明るく見えます。その明るさは、マイナス3等級で、都会でもとっても目立ちます。ちなみに、東京や大阪などの都心で楽に見えるのが1等級。明るいなと思うのがマイナス1等級ですから、マイナス3等級は、なんだあの星は? ってな感じです。今年の中接近でもマイナス2等級で、十分よくみえますねー。

ちなみに、接近以外の時期、まあ前後数カ月以外は、火星は1等級程度です。明るいのですが、すごいってほどにはならない感じですな。これが、火星が「ときどき」話題になる原因ともいえますな。たまにめちゃくちゃよく見えるというね。さて、次は、ちょっと趣を変えたネタでございます。

4. 火星には月が2つある。でもちっちゃい

火星にはフォボスとダイモスという2つの月があります。大きさは、20kmと15km程度です。東京23区より一回り小さいって感じです。地球の月は、直径が3000kmもありますので、まあ本当に小さいですな。あまりの小ささに「火星人の人工天体じゃないか」なんて話もあったのですが、写真を撮影したら、間違いなく天然の天体でございました。

火星の"月"「フォボス」 (画像提供:NASA)

5. 火星に人類は行ったことがない

こういうと「え? そうなん?」という方が少なからずいるのです。映画でしょっちゅう登場するので、とっくの昔に到着しているような気分になってしまいますが、火星に人類は行ったことはございません。といいますか、ほかの天体に人類が最後にいったのは、1972年に月に行ったアポロ17号の乗組員です。40年以上も前なんですね。じゃあ、若田さんとか油井さんとかの宇宙飛行士はというと、地球上空500km程度の宇宙ステーション程度なのですね。もちろん宇宙に行くのは大変なのでございますが、距離だけ見たら、東京から大阪に行くのと変わらんわけです。月は38万km。火星は近いときでも6000万kmの彼方にあります。また、動いているので一直線にはいけず、火星に行くには1億km以上の旅行が必要です。1~2年の旅行で、補給ができないので、3日で行ける月とは難易度が格段に違うのでございますね。火星の有人飛行の計画は、現れては消えのくり返しです。民間でやるというのもありますが、どれもいつになることやらですね。

6. インドも探査成功。ものすごく沢山の情報が得られている

火星には、いままで、米・露・インド(!)・ヨーロッパの探査機が到達。日本もチャレンジしたのですが失敗しています。これまでに、ものすごく沢山の情報が得られています。インドのは2014年に火星に到達したマンガルヤーンという探査機ですな。で、探査データですが、最近の米国のマーズ・リコネセンス・オービター(火星偵察軌道衛星)の写真なんか、もうスゴイです。リアルというか、なんというか、ホントですか? って感じ。ヨーロッパ・ロシアもエクソマーズをこの春打ち上げ予定。ますます情報満載なんでございますな。だから、なんか「もう人間が行っているような」気分になっちゃうんですけどね。

ところで、映画オデッセイ(Martian)ですが、日本と米国のアオリ文句の違いがちょっとおもしろいですね。日本では「70億人が、彼の還りを待っている。」。米国では「Bring Him Home=彼を帰還させる」。待つか、行動か、同じ映画なのに違うんですな。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。