「新星(ノバ)」は、星が突然1万倍も明るく輝く現象です。明るく輝いたあとは急速に暗くなっていき、そのうちもとの明るさ(暗さ)に戻ります。

で、その新星がいつ起こるかは、ある程度予想できる場合があります。

その中での一つ、北斗七星の近くにある、ふだんは暗くてまるで見えない「かんむり座T星」が80年ぶりに新星になりそうだという報告があちこちであがっています。 ある研究者の予想では2024年4月±3ヶ月。

今じゃん!

ということで、この原稿を書いている時点ではまだだけど、今日にもなるかもしれない、新星になりそうな「かんむり座T星」について語ろうと思いますよ。

北斗七星の近くに現れそうな新星「かんむり座T星」

まずは、宵の東の空を見て下さい。例えば4月3日の夜9時の東京の空の様子を見てみましょう。

オレンジ色の星アルクトゥールスがよく見え、その左がわには、北斗七星が見えています。

新星になりそうな「かんむり座T星」は、北斗七星、アルクトゥールスの下にあたります。

  • かんむり座T星

新星が現れる場所のあたりをもうちょい拡大すると下のようになります。

  • かんむり座T星

新星が現れる場所はの上には、いつもアルフェッカという2等星、ちょっと明るめの星が見えていますが、これが、かんむり座のα星です。新星は同じかんむり座のT星。いつもは望遠鏡でないと分からないような暗い星ですが、新星「現象」がおこると2等級まで明るくなるのです。これはアルフェッカに匹敵するもので、アルフェッカが2つならんで見えるような感じになるはずです。

新星(ノバ)は爆発だ!

さて、新星は、夜空に突然明るい恒星が現れる現象です。

実際には、恒星が生まれるのではなくて、元々あった恒星が一気に1000倍から時に1億倍も明るくなるできごとです。新星という言い方ですが、新星「現象」なのでございます。英語ではnew starではなくラテン語の表現をとって“nova(ノバ)”と言います。どこぞの英会話教室みたいですな。

そして、その明るさはそれほど長持ちせず、短いものでは数日。平均的なもので数ヶ月~1年程度で暗くなっていきます。

ところで、新星はどうして突然明るくなるのか。というと、これは爆発的な発光が白色矮星という特殊な恒星の表面で起こるからでございます。

この白色矮星というのは、太陽なみの重さがあるのに、大きさは地球程度という、極端に小さくて高密度な天体です。太陽のような恒星が核融合反応で輝かなくなった後に縮んででき、余熱で輝いているものですが、当然ながらとても暗い天体です。

ただ、もともとは太陽のような天体なので非常に重く、表面の重力も大きく、燃料さえ補給できれば核融合反応を起こす環境がととのっているのでございます。なんか、ネット民がバズるネタを待っているような状況ですな。

で、そこに燃料投下が起これば、一気にバズる……いや核融合反応が起き、それも表面のむき出しの状態で起きるので1000倍から1億倍も明るくなるのです。そして燃料が消費されると暗くなる。これが新星です。燃料投下のイラストはこんな感じです。

あと、NASAのサイトに、想像のショート動画がありますのでごらんください。

なお、新星のあと、燃料がなくなっても、さらにまた燃料はゆるゆると投下されるので、そのうちまた新星が起こります。ただその間隔は数千年とか数百年がおおいのですな。

ところが、それが1年とか数十年で起こるものがあるのでございます。人間の一生の中でおなじ白色矮星がなんども新星になる。それを回帰新星・反復新星、Reccurent Nova(リカレント・ノバ)といいます。天文業界ではNRとひっくり返して表示されます。JRではなくNRでございますな。そしてNRは、精密にはわからなくても、一定の周期で新星になります。そして回帰新星の中で、肉眼でも見えるのはわずかです。そして「かんむり座T星」はその中で、80年ごとに肉眼で見える2等級まで明るくなるのが知られているのでございます。次に明るくなるのがへびつかい座RS星で20年ごとに4等級まで明るくなるものですが、これだと都心では見られません。北極星や北斗七星の星なみの2等級まで明るくなる回帰新星は「かんむり座T星」のみ、そしてその新星が間近に迫っているのですな。

かんむり座T星は、80年ごとに新星になる回帰(再帰・反復)新星、ぜひ見よう

さて、そんなかんむり座T星ですが、これまでに1866年と1946年に新星になった記録があります。しかし、そうなると次は2026年、再来年じゃね? ということになりますな。ただ、そこがそこまで厳密な周期でなく、ボチボチだという観測がでてきて、さらには予報が出て騒ぎになっているのですな。その理由をかいつまんで書くのはなかなか大変なので、高橋進さんによるこちらの記事がオススメでございます。

なお、高橋さんも書かれている通り1946年は3等で観測されていますが、実際にはその少し前に2等級になっていたはずで、見逃すとすぐ暗くなってしまいます。

見られればわかるので、とりあえる、アークトゥールス(これは0等級でとても明るい)や北斗七星(2等級の星でできている)の下に、2つ2等級の星がならんでいないか、時々はチェックしてみて下さい。写真も最近のスマホなら手持ちでも撮影できますよ!

余談:かんむり座T星

ところで、このかんむり座Tという名前、ちょっと違和感がありますよね。肉眼で見える星の名前なら、星座名+ギリシャのアルファベットで、オリオン座α星とか、おうし座β星とかつけるんじゃないのといいたいですよね。

んが、実はα(アルファ)~ω(オメガ)まで行ったら、次はb、c、dさらにA、B、Cとつけていくのでございます。(小文字のaはαと紛らわしいのか使われない習わしです)。さらに数字も使います。が、アルファベットのR以降は明るさを変える星、変光星につけるというルールがあります。アンドロメダS星とか、おうし座Rとかですね。TはまさしくR以降ですので明るさを変える(というか極端なので激変星といいますけど)ために、この名前が当てられています。