大学や研究所で、高校生がガチな研究体験できる取り組みが増えています。最近では天文台など研究所でも広がってきました。本物の研究者の指導で、本物の実験・測定器を使い、本物の議論をしての研究。大学の最終学年か大学院まで進まないとやれなかった体験が、いまや可能。いいなあイマドキの高校生。というお話でございます。
ずいぶん前ですが、パリに行った時、思い立ってカルチェ・ラタン地区の近くのパリ天文台に行きました。観測研究はほぼ郊外や国外の天文台(たとえばハワイにフランスの望遠鏡がある)に移っているのですが、いまでも研究所として機能しています。そして、そんなプロの現場ですが、メートル法やアラゴーの円盤のアラゴーや、土星のカッシーニの隙間のカッシーニ。海王星発見のルベリエ、フーコー振り子のフーコーなどいくたの天文学者が出入りした伝統の天文台を見てみたいと思ったのでした。
そして、門まできて“しまった!”と思いました「XX曜日に一般公開しています」とそこには書かれていたのです。その日はパリを離れている予定だったので、ぐぬぬぬと思ったのでございました。
さて、このパリ天文台なのですが、あとで知り合い(ごく一般の人)に聞いたら、その人はたまたまパリに行って、天文台まできて「ここ、見てみたいなあ」と守衛にいったら「どうぞどうぞ」と見せてくれたんだそうな。見学日とかではなかったんだそうな。ああ、そうだった欧米では意思表示が重要であったと、さらにぐぬぬとなったのでした。
ちなみに、今パリ天文台のサイトを見ると、一般の見学者を迎えるのは休止中で、準備作業してます的なことが書かれているので、ちょっとまてば見学できそうではありますな。
ところで似たような経験をした人は結構いるようで、日本の国立天文台の前の副台長で、有名な天文学者の渡部潤一さんは、著書のなかで「高校生の時に東京天文台(当時、現在は国立天文台)の門前まできたら、年に1度の公開日以外は見学はできないといわれてがっかりした」ってな体験談を書かれています。まあ、いまは、まさしく中の人になった渡部潤一さんたちの努力で「年中いつでも(年末年始以外は)見学でき」、見学コースもあり、さらに3Dシアターの体験も可能になっています。
同じようにオープンなところとしては、長野県の国立天文台野辺山宇宙電波観測所もありますね。牧草地の中の巨大アンテナ見学はなかなかよいものでございまして人気サイトです。最近は予算削減でいろいろ大変なようですが、そういう施設は応援したいものですな。また、欧米ではこういうのはずっと進んでいて(パリ天文台も本当は毎週公開日があったのに知らなかっただけ)、
さて、私もいちおう大学で研究もしていて、研究のために観測施設などに滞在したこともあります。見学というレベルではなく、中に入り込んで、宿泊してということだったのですな。それは研究者の教官のお供として行ったというレベルです。大学に入って、研究ゼミに所属して、いい子にして(いやほんと)、ようやくちょっとチャンスがあったわけです。ただ、あくまでオペレーターとして行ったのであって、自分で研究計画をたててとか、研究結果を出すために頭を使ってといったことはしなかったし、できなかったのですな。高校生の時に憧れていたのは、まあ、そのレベルであったのです。実力と努力の結果ですけれど。
ところが、今の高校生は、ずっとスゴいのでございますな。たとえば、日本天文学会や物理学会では、学会の開催にあわせてジュニアセッション(天文学会)、(物理学会)があり、そこでは高校生や中学生! が研究発表をしているのです。
天文学会の方を見てみるとその中身は普通のクラブ活動や自由研究のレベルを凌駕して、大学、大学院生の研究レベルのものも多数見られます。中には「野辺山45m望遠鏡を使って」「(国立天文台の)石垣島天文台むりかぶし望遠鏡による」なんてタイトルまで入っています。完全にプロ用の研究機器を使っているですな。
さらに、高校の垣根を越えて、広域であつまった高校生が共同で発表しているものも結構ある。これはどういうことやろ? というと、大学や天文台などの研究施設が主催する泊まりがけの研究合宿があるのですね。全国から集まった高校生と、大学や天文台の先生の指導のもと、本物の観測機器でガッツリ研究体験ができる。私のようになんちゃってで終わらない高校生も大勢いるようなのでございます。いいなあ。
その一つが、東大がやっている「銀河学校」です。なんと20世紀の1998年から毎年行われていて、シュミットカメラという特殊な望遠鏡を使っての観測研究が行えるというものですな。今年は3月に実施で、2月1日で応募締め切りがされたようですが、毎年行われているので、我こそはという高校生や中学3年生は準備をしておくとよいのではないかと思います。なお、この銀河学校の「卒業生」がScience StationというNPO法人を作って、銀河学校の活動をサポートしているようです。銀河学校を切っ掛けに、東大に進んで研究者になった方もいらっしゃるようで、いや、若い時の体験の力はスゴいですな。
そのほかリストを見ると「美ら星研究体験隊」というのがありますな。2023年の8月に沖縄の石垣島天文台で行われたものです。高校生が主人公のアニメ「恋する小惑星」の舞台で、まさにアニメの主人公たちのような研究を実際に行えるという、マンガのような企画ですが、本当に行われ、全国の高校生が学会で発表するまでの研究を行いました。
ところでこの「美ら海研究体験隊」は、予算として、国の外殻団体である、日本学術振興会の競争的資金「ひらめき☆ときめきサイエンス」をゲットして数年間おこなわれたものですな。今年も行われるかはわからなかったですが、ひらめき☆ときめきサイエンスでは、毎年多数のプロジェクトが行われていますので、おもしろそうなのがないか、チェックするとよいのではないですかね。いやー、高校生がうらやましいぜ。
東北では、「もし天」があります。東北大学・宮城教育大学と仙台市天文台が一緒になり行われているもので「もしも君が杜の都で天文学者になったら」というものですな。今年度は12月に行われました。1週間近い合宿ですので、かなりガッツリと取り組めそうで、天文学会でも発表がされていますな。
さらに、JAXAも宇宙探査計画を考える体験ができる「きみっしょん(君が作る宇宙ミッション)」を行ってきました。星や宇宙じゃなくて、探査機やロケットだぜという方はぴったりですな。今年度は実施されなかったようですが、来年度開催されればいいですね。
さて、現在募集中のプロジェクトもあります。岡山県の美星天文台が行う「星の学校」で、2月中応募ができ、3月20日から2泊3日で行われます。受験が終わった3年生も参加しやすいですな。参加費も食費・宿泊費込みで9300円とこれまたリーズナブル。美星天文台のそばにある、JAXAの協力機関、美星スペースガードセンターの研究者も協力するようです。
他にも同様なプログラムは、さきほど紹介した「ひらめき☆ときめきサイエンス」の予算をゲットしたものなど多数あります。また受入側も、未来の研究者や、研究に興味を持ってもらう高校生を育てるぞという意識でやっているので、よいのではないかと思います。
しかし、今の高校生はいろんなチャンスがあってうらやましいなあ。