ブラックホールの撮影に史上初めて成功した! というニュースが飛び込んで参りました。各紙一面トップの扱いで、SNSでも軽い祭りになったようですな。ということで、今回は話題のブラックホールについて、カンタンにお話しする入門編でございますよー。

2019年4月。200人の研究者からなる国際研究チームが、史上初めてブラックホールの撮影に成功という成果を6本の論文で発表しました。日本では国立天文台が論文発表と同時に記者会見を行いました。写っていたのはドーナツのような写真でございます。

  • ブラックホール

    史上初めて撮影されたブラックホール(の影) (C) EHT Collaboration

捉えられたのは5500万光年かなたにある、M87銀河の中心にある巨大ブラックホール。南極点も含む世界中に散らばった8天文台の望遠鏡群を結合した「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:事象の地平線望遠鏡)」というプロジェクトでの成果でございました。国立天文台からの日本語のリリースにくわしーく載っておりますよ。あ、マイナビニュースにも記事が掲載されていますな

ここで面白いのは、この写真には「ブラックホールそのものは写っていない」のです。というか「写らない」のでございます。というのは、ブラックホールが一切の光(というかあらゆるもの)を出さないし、反射もしないからなんですねー。ブラックホールからは光がやってこないのです。ちなみに、この写真は電波望遠鏡によるもので、電波をとらえた写真ですが、電波も光と同じ電磁波なのでやはりブラックホールからは放射されないのです。X線だろうが放射線だろうが、赤外線だろうが、これは同じことです。

じゃあ、なんでブラックホールの写真があるの? と思いますよね。何が写っているのかというわけです。ということでこの写真を楽しむには、ブラックホールについてチョイと知っておいたほうが良いのでございますね。

ブラックホール周辺からは、光すらも出られない

ブラックホールというと掃除機みたいに「何でも吸い込む」というイメージがあります。実際そうなのですが「吸い込む」というより、ブラックホールに接近すると「そこから離れられない」「光すら放射されない」ということになります。どっちかというと掃除機というより「脱出できない落とし穴」という方が近い感じです。

ブラックホールの大きさ

ブラックホールそのものは、光が脱出できない領域を作るだけの「重さを持った点」です。重さがあるのに点=体積がないというのは、常識では考えられません。実際そのために「ブラックホールなどあり得ない」と考えられていた時代も長いのです。

なお、ブラックホールは点と言いましたが、光が脱出できない影響エリア -提唱した科学者の名前をとってシュワルツシルト半径と言う- の中をブラックホールの大きさという場合もあります。もっともシュワルツシルト半径の境界にあたるところ(事象の地平線(イベント・ホライズン:Event Horizon)と言います)に何か実体があるわけじゃないのです。地平線に実体がないのと同じで、あくまで影響「範囲」なのでございます。

なお、シュワルツシルト半径はブラックホールの質量だけで計算できます。掛け算と指数といくつかの数値がわかれば、地球がブラックホールになったら…とかいって遊べますので、記事の最後におまけとして書いときますねー。

4種類のブラックホール

さて、この非常に不思議なブラックホールですが、現在までに3種類が発見されており、さらにもう1種類の存在が予想されています。ただし、基本的に重さが違うだけで、性質は変わりません。

恒星ブラックホール

太陽の数倍から数10倍の質量のブラックホールです。太陽より10倍以上重い恒星が超新星爆発をするときに誕生すると考えられています。また、最近では重力波の観測から恒星ブラックホール同士が合体して太陽の数十倍というブラックホールができることもわかってきました。さらっと書いてますがこれノーベル賞が受賞された発見でございます。有名なものとしては、太陽から6000光年離れたところにある、はくちょう座X−1や、知られている中で太陽にもっとも近いブラックホールの3000光年の距離のいっかくじゅう座X−1などがあります。

巨大質量ブラックホール

太陽の数百万倍〜数十億倍もの質量を持つ、巨大質量ブラックホールが知られています。何千億、何兆個という恒星とガスの集まりである銀河の中心にあります。恐らくは大量の物質が長年衝突合体を繰り返してできたと考えられています。

今回撮影されたのもM87銀河の中心にあるもので質量は太陽の65億倍。事象の地平線のサイズは400億kmと太陽系の最果ての惑星 海王星の軌道半径の10倍にも達します。私たちの住む銀河系=天の川銀河の中心(太陽から距離2.6万光年)にも巨大質量ブラックホールがあることがわかっており、いて座A*(いてざエースター)と呼ばれています。重さは太陽の約400万倍とM87のものに比べると小ぶりです。そのためこっちが近いのですが、見かけの大きさは同じで撮影はされていますが解析がしやすいM87が先の発表になりました。

中質量ブラックホール

恒星ブラックホールと巨大質量ブラックホールは、あまりにも質量がかけ離れています(何十万倍以上違う)。その中間のものは発見されていませんでしたが、2009年に発見されたHLX−1は太陽の9万倍程度の質量を持つ、まさに中間の質量を持つブラックホールです。距離は3億光年で別の銀河の中の星団の中にあります。宇宙の初期にあったとされる巨大恒星のなれの果てという説と、星団の星を食って成長したという説があります。最近では日本の慶応大のチームが天の川銀河の中心付近にそれらしきものを発見していますなー

マイクロブラックホール

まだ発見されていませんが、非常に小さく、地球よりも軽いブラックホールが、宇宙誕生の頃に大量に生成されたという考えがあり、発見できないかと試みられています。これらはミクロン以下のシュワルツシルト半径しかなく、しかも100億年で「蒸発」すると考えられています(ブラックホールの蒸発は、真空からの粒子の対生成というへんちくりんな話が絡み、ホーキングなどが研究しておもしろいのですが、マイクロブラックホール以外では考慮しなくて良いとだけ書いておきますね)。

ブラックホールの影響はよく見える

ブラックホールは質量(+回転の運動量)だけをもつ摩訶不思議な存在ですが、周囲には影響を与えます。見えないくせに、近寄るとえらい事になる。ホント落とし穴のようなものですなー。

ただ、私たちは太陽からたったの1.5億kmしか離れていない(光の速度で500秒の距離)のに、太陽に落ちたりはしません。太陽がブラックホールになったところで、何も影響はなく…はないですね。だって、地球は太陽の影響で太陽の周りを回っているのですから。

そうなんです。ブラックホールがあると周囲のガスなどはブラックホールを周回します。そして、ブラックホールは質量だけの存在なので、いくらでも近づけるんですね。太陽に近づいたら熱で溶けちゃいますが、ブラックホールはそういうことがない。

なので、ブラックホールにガンガン物質が近づき、猛烈なスピードで公転できちゃうのです。その結果、物質が押し合いへし合いをして…図のように摩擦で光り輝く円盤を作り、さらにブラックホールによって猛スピードに加速されたものが飛び出すジェット噴射が起きたりと、周りは激しいのでございますね。

そもそもが、こうした激しいできごとが発見され、それを説明するにはブラックホールが実在するときて、ブラックホールの存在が確かなものだと確信されるに至ってきたわけでございます。

  • ブラックホール

    ブラックホールとその周辺の想像図 (C)Jordy Davelaar et al./Radboud University/BlackHoleCam

で、ブラックホールの影ってなんなん?

さて、ブラックホールの影響の最たるものは、光の進路がレンズに入ったように曲げられることです。いや、質量があると光は曲げられ、太陽のそばを通った光線が方向を変える「重力レンズ」効果は100年も前に発見されておりますよ。

ただ、ブラックホールは小さくて質量が大きいので、モーレツに光を曲げることができるのですな。その結果として、周囲で発光しているモノの分布ではなく、ブラックホールの周囲にドーナツのような形に光が見え、真ん中がぽっかりと影のようになるのでございます。この影はシュワルツシルト半径より大きいので、あのドーナツの穴の中のさらに一部分がブラックホールなんですな。これがブラックホールシャドウ(影)で、M87の場合は半径1000億kmでございました。これが見えた! のが今回の写真だったのでございます。

うーむ、カンタンにと思ったのですが、結構長くなりましたねー。読了感謝でございます。ではまたー!

地球からM87中心ブラックホールへのズームイン映像 (C)ESO/L. Calçada, Digitized Sky Survey 2, ESA/Hubble, RadioAstron, De Gasperin et al., Kim et al., EHT Collaboration. Music: niklasfalcke

おまけ:シュワルツシルト半径の計算方法

質量M(kg)のブラックホールのシュワルツシルト半径Rs(m)は、次の式で計算できますよ。掛け算と割り算だけですね。

Rs=2GM/c2

ここで、Gは万有引力定数で、6.67408×10−11m3kg−1s−2。cは光速度で、299,792,458m/sですが、まあ数字はここまで細かくなくていいので、G/c2は、7.4 ×10-28m/kgということでいーでしょー。

上の式をカンタンにすると、

Rs=2×7.4×10-28M(m)

です。

地球をあらわすMですがグーグルで「地球の質量」と検索すると出てまいります。

5.9742×1024kgですねー。

上の式のMにこれを入れると、

Rs=88×10-4(m)、つまり8.8mmとなります。

地球を1.9cm以下に押し縮めれば、ブラックホールになりますね。

木星は地球の330倍の重さなので6m。

太陽は33万倍なので6kmほどですね。

太陽の10倍の質量のオリオン座のベテルギウスやさそり座のアンタレスといった恒星なら一生の最期に燃料が突然切れて星が一気に崩壊すると知られています。そこでブラックホールができても直径数10km程度ということがわかりますなー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。