COOL Chips XVIIIにおいて、自動運転に関するパネルディスカッションが行われた。進行役兼モデレータは、名古屋大学の加藤 准教授、パネラーは、東芝のSoCを発表した宮森氏、デンソー基礎研究所先端研究部社会科学研究室長の鎌田忠氏、IntelのChief Advanced Service Architect and Directorの野辺継男氏、HEREのConnected DrivingのAPACのヘッドのMandali Khalesi氏の4名である。これらの4氏のポジショントークを紹介する。

パネルディスカッションのメンバー。左から、加藤准教授、宮森氏、鎌田氏、野辺氏、Khalesi氏

東芝の宮森氏は、運転支援システムのSoCの性能はどんどん上がっており、近い将来、10TOPS(10TFLOPS)の処理能力を持つようになり、自動運転のサポートが可能になる。しかし、SoCだけでなく、インフラ(高精度地図など)やクラウドとの連携が必要と述べた。運転支援SoCは厳しい環境で動作しており、消費電力を増やせない。電力効率の高いアーキテクチャという点で、認識は専用ハードウェア、中間の処理は並列度の高いGPGPU、SIMD、メニーコアなどが使われる。そして最終の判断と車の制御はCPUが担うが、CPUの処理をGPUなどにオフロードする方向になるという。

2004年の50GOPSから2015年には1.9TOPS。将来は10TOPSになり自動運転サポートが可能になる

ハードウェアアクセラレータとGPGPUなどとCPUを組み合わせたヘテロなアーキテクチャ。CPU処理をGPUなどにオフロード

デンソーの鎌田氏は、自動運転した場合の事故の責任をどのように考えるかが最も重要な問題であるという。テクノロジ的には事故を減らせるかどうかであるが、自動運転システムが原因で事故が起こることが社会的に許容されるか? 保険はどうなるのか? 法律はどうなるか? など解決していく必要がある重要な問題があると指摘した。

そして、事故もなく、運転の負担のないシステムの実現には、車の間のV2V(Vehicle to Vehicle)の通信、クラウドと連携して、車と周囲の状況などをアップロードし、運転に必要な知識や学習結果をダウンロードするなどを行う必要があると述べた。

自動運転車の事故の責任をどのように考えるかが最大の問題

車の自動運転には、車の間の通信による情報交換、クラウドのサーバによる支援が必要

運転に関する知識の学習は、センターの大型のマシンで行い車にダウンロードして実行する。ただし、間違った知識を学習してしまう恐れもあり、知識獲得の責任はどこに有るのかをはっきりさせておく必要があるという。

車の持つ機能に関しては、多種のデータを低電力で処理することが重要である。また、車の間の通信やクラウドとの通信は切れることがあり、その場合も安全性の低下は避けられないとしても、動作し続けられることが必要であり、最低限、どのような機能を提供し続けるのかを明確にすることが重要である。

まとめとして、車は、技術的には、再生可能エネルギーの使用、自動運転に向かう。自動運転は責任の所在を決めることが重要。事故と運転の負担のコストは試算では135万円であり、これより安いコストで無事故の自動運転システムを作ればメリットがでる。車の間の通信と多種の認識を組み合わせることが必要。そして、機械学習と車がどこまでの機能を持つかをはっきりさせることが重要と結んだ。

鎌田氏は、自動車メーカーに近い立場であり、自動運転を実用化する場合、不都合が起こった場合の責任の所在や対応をどうするかを法律や社会コンセンサスとして確立することが重要という立場である。

機械学習はセンターで実施。その時の誤った学習をした責任の所在が問題。車の通信機能が切れた場合、最低限、提供される機能の明確化が必要

自動運転で事故が起こった場合や、機械学習が誤った知識を学習してしまった場合の責任の所在の明確化が問題

Intelの野辺氏は、自動運転といっても、車の走行速度とどのような状況が起こるかによって困難さが異なる。現実の状況としては、走行速度は速いが、レーンを守って追突を避ければ走行できる高速道路、交通信号や標識があり、交差点での左折(日本では右折?)や歩行者がいるという状況が出てくる主要道路、各種の障害物や歩行者、自転車、オートバイも走る地域の道路では状況が異なる。

速度が遅く、状況も限られている渋滞時の運転や自動駐車は実用化に近い状態に来ている。しかし、野辺氏は、高速道路での自動運転の実用化は、2020年ころになると予想し、主要道路での自動運転の実用化は2025年以降になると予想している。

野辺氏も、自動運転には地図の提供や安全の関する情報の提供という点で、クラウドのサポートが重要という。また、ネットワークに侵入されて車の制御を乗っ取られたり、妨害されたりすると極めて危険であるので、ネットワークのセキュリティが重要であると指摘している。

自動運転といっても、周囲の状況と車速で難易度が異なる。高速道路の自動運転は2020年ころの実用化。一般の主要道路の自動運転の実用化は2025年以降になると予想

自動運転にはクラウドのサポートが必須である。しかし、通信ネットワークに侵入されると危険なので、ネットワークのセキュリティが重要

ほとんどの読者は聞いたことがないかと思うが、HEREという会社がある。携帯電話の通信機器の大手のNokiaの一部門で、通常のマップ機能も提供しているが、自動車用のマップの大手である。

HEREのKhalesi氏が会社の概要と、同社の「HD Map」と「Live Roadsサービス」について説明した。次の図にあるように、HEREは226カ国のマップを作っており、1.07T(1兆)箇所のプローブポイントを持ち道路状況の変化を観測している。工事や事故車が止まっているなど道路の状態が変わるので、1日に270万件の修正を行っているという。結果として、プローブデータの50%は 到着から1分以内というフレッシュなものであるという。

そして、Live Roadsというサービスでは、衛星を通して、最新の道路状況を配信している。次の図のように、曲がり角の向こうに事故車が止まっているのは車に搭載したセンサでは見えないが、事故車自体や対向車線の車が報告をあげると、その情報がクラウドから配信されて、曲がり角の先に事故車が止まっていることが伝わる。

HEREは1.07T箇所のプローブを持ち、道路状況を把握し、1日に270カ所の地図の変更を行っている

Live Roadsというサービスでは、衛星経由で最新の道路状況を配信するので、曲がり角の先に事故車が止まっていることが分かる

マニュアルあるいは自動で通知されたデータは、刻々とマップに反映され、次の図のV1と書かれたマップは逆S字だけの簡単なものであるが、V2では中央の部分がアップデートされ、V3ではさらに上下の枝分かれが追加されている。これらの変更は衛星を経由してニアリアルタイムで車に伝えられる。

HERE Live Roadsでは、報告された状況の変化を刻々とマップに反映し、車に通知する

また、HEREはHD Mapという車線レベルで記述された高精度の地図サービスも行なっており、 センサからの信号とのマッチングを行うことにより、10~20cmの精度で位置決めを行うができる。

このようなサービスは自動運転を行う上で、不可欠なインフラストラクチャである。