野原: ここまでは現状の建設産業が抱える問題と取り組みについてお話しいただきました。そういった話を踏まえ、改めて建設産業が魅力的になるためには何が必要なのかお伺いできますでしょうか。

村上: 先ほどの話に関連しますが、建物を作るだけでなく、建物を使うところも楽しめるようになるのが重要かと思います。完成した建物を見てガッツポーズできるのも喜びのひとつであるのは間違いないのですが、一方で建物を作って終わっている側面もあります。

ここをもう一歩踏み込んでいくと、新しい建設産業の魅力が見えてくるのではないでしょうか。

野原: 「作って、引き渡して、終わる」のではなく、使い始めた後の時間が素晴らしいものになるような提案もしていくと、お客様との関係がより密接になりますね。

村上: まさにその通りです。昔の大工の棟梁は自分が立てた家を訪問して住み心地や問題点を聞いて回っていたそうです。そういった対応は今のお客様もうれしいと思いますので、建設産業として仕組みを作っていかないといけないのではないかと思っています。

すでに社会が建築に求めるものは変化を始めており、社会における役割を意識した建築のニーズが高まっています。かつての大学は建築学科を工学部の一部としていましたが、近年は建築学という総合的な学問を学ぶための建築学部が創設され始めたのは、ニーズの変化を受けて発生した顕著な変化だと言えるでしょう。

われわれ建設産業も、より社会における建築物やインフラの役割を理解した建設を行うように変わっていく必要があり、完成後も役割を果たし続けられるように関わっていくことが、建設産業の新しい魅力のひとつになると考えています。

野原: 建設産業のDX推進と技術の共有化のために建設RXコンソーシアムを設立されたとおっしゃっていました。すでにさまざまな取り組みをされているかと思いますが、建設RXコンソーシアムとしての実用化が進んでいる事例はありますでしょうか。

村上: 冒頭で紹介しましたTawaRemoがひとつの例です。タワリモは、一言で言えば遠隔操縦が可能なタワークレーンです。

これまでのタワークレーンは高所で作業するため、オペレーターはタラップを上がってクレーンの操縦室に入ったら、仕事が終わるまで降りてこられません。食事やトイレも全てクレーンの中でしなければなりませんでした。しかし、タワリモは地上に設置した操縦席から建物上のクレーンを遠隔操作できるので、用事があればいつでも外に出られます。

導入当初はわれわれがクレーン会社さんへ操作方法の指導をしていましたが、今ではクレーン会社さん同士で使い方を教え合うような体制ができつつあります。

野原: クレーン操作は高所に上がる必要がありますので、使える方が非常に限られていました。これがリモートでできるようになると、オペレーターのなり手が増加しそうですね。

村上: そうですね。今までは女性がオペレーターになるのは難しいと言わざるを得ませんでしたが、タワリモの登場によって女性のなり手は増えると期待しています。

野原: それ以外の事例はありますか?

村上: もう一つがハンドトロウェル(下図参照)です。コンクリート打設(※5)という重労働からの解放をテーマに、最初は「コンクリート施工ロボット分科会」という名称の分科会を作りました。

しかし、メンバーから「ロボットを作るのが目的ではないから、名前を変更させてほしい」という意見が上がり、最終的には「コンクリート施工効率化分科会」という名称になりました。AI、ICTといったIT用語を一切使わない分科会名になりましたが、建設産業の魅力アップを目指すという建設RXコンソーシアムらしいエピソードだと思っています。

DXから離れた場所から生まれたハンドトロウェルは、おかげさまでレンタルサービスをスタートできたほど好評です。

建設RXコンソーシアム発の開発技術(2)

防音カバー付き電動ハンドトロウェル

左から、現場での使用状況(防音カバー付き)、カバーを外した状態


「コンクリート施工効率化分科会」の活動を通じて、竹中工務店と鹿島建設がCO2削減と生産性向上に寄与するコンクリート仕上げ機械として開発。高出力のモーターとバッテリー交換が容易なパワーユニットを搭載し、防音カバーで騒音を低減することで、市街地での夜間作業や工期短縮に貢献。ガソリンを使用しないため排出ガスがゼロで、1台1日の使用で約23kgのCO2削減にも寄与する環境配慮型の機械である。

※5 コンクリート打設:基礎などコンクリートで作る部分の型枠内に生コンクリートを流し込む作業のこと

野原: まさに建設RXコンソーシアムの姿勢が色濃く見えるお話だと思います。あくまでDXは手段であり、建設産業の魅力アップが目的であると。

村上: そうですね。ですので、いろいろな決め事はどこかに片寄ることがないよう、原則としてゼネコン各社の協議で決定するようにしています。

例えば、市販のドローンの採用を検討するとします。メーカー各社さんはどこも素晴らしいプレゼンを見せてくれるのですが、だからこそ検討は慎重にしなければなりません。そこで建設RXコンソーシアムでは比較表に性能や価格などの情報をまとめた上で検討するようにしています。

複数社集まって検討するとさまざまな意見が出ますし、特定環境での使用方法など独特の観点からの意見も出やすくなります。そうして集まった意見は建設RXコンソーシアムからの要望としてメーカー各社さんにお伝えしやすくなりますので、今のところうまく運用できていると思っています。

野原: 建設RXコンソーシアムからの要望という形になると、メーカー各社への影響力も強くなりそうです。

村上: そうなんですよ。1社が単独で「こんな風に修正してもらえませんか?」と要望を出しても「そちらで何とかできませんか」と断られてしまいます。しかし多くのゼネコンが共同で要望を出せば、建設産業の要望として受け取られ、対応してもらえる機会が増えますね。最近では墨出しロボットの修正を要望に近い形で対応してもらえるといった成果がありました。