FCV挿絵

今回のテーマは「FCV」だ。

前回「EV」(電気自動車)の話をしたが、ガソリン車にとって代わろうとしているのはそれだけではなかったのだ。

FCV(燃料電池自動車):燃料電池自動車とは、搭載した燃料電池で発電し電動機の動力で走る車を指す。(引用:「燃料電池自動車」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2018年2月26日 (月) 18:00)

燃料電池とは、水素と酸素を用いて発電する装置であり、それで作った電気によってモーターを回し走行する車がFCVだ。「水素自動車」と言えば、聞いたことがある人も多いのではないだろうか。厳密に言えば、水素自動車のうち燃料電池を使っているものがFCVで、水素そのものをガソリン代わりにしている車もかつて作られていたが、今はFCVに該当するものが主流だ。しかし、どちらにせよ、電気自動車以上に普及しているとは言い難い車である。

ではFCVのメリットはなにか。これがなければ、ガソリン車にとって代わる意味がない。

まず「有害な排出ガスがゼロ、または少ない」。つまり、地球に優しい、ということだ。EVの時も書いたが「地球のことを考えて生きる」という高みに到達している奴はそうそういないと思う。「あまりにも悩みがなさすぎる」という状況じゃないと、なかなか、大気とかオゾン層にまで気が回らないのではないか。

しかし、地球がダメになる=人類がダメになる、だ。個人の関心があろうがなかろうが、世界的には、とにかくクリーンエネルギーに移行しなければならない、という風潮だ。よって、アメリカなどでは車メーカーに対して、電気や水素などを使用することで温室効果ガスを出さない車を一定数以上販売しないと罰金、というような規制がすでに行われているという。

つまり、私個人が「むしろ世界滅べ」と頑なに軽のガソリン車に乗ろうとしても、そういった規制でガソリン車自体が生産されなくなる日が来るかもしれない、ということだ。

ガソリン車が存在しなくなったら、EVあるいFCVに乗るしかないが、それまでに、それらの車体価格が下がっていなかったらどうすれば良いのだろうか。

地球の前にこちらの生活が滅ぶ。

これは、車必需地域の人間には由々しき問題である。冗談抜きで一家に一台どころか、一人一台車を持っていないと働きにもいけない地域は多いのだ。それが全員一台、最低300万円ぐらいする物を保有しなければならないとなったら大ごとだ。

地球と我々、どちらが先に滅ぶか。クリーンエネルギー車の話だったはずだが、SF映画ぐらい壮大なストーリーになってきている。もちろん、すぐそうなるというわけではないので、その前にクリーンエネルギー車が100万円ぐらいになるか、地球が滅びていることを祈る。

その他のFCVのメリットとして「燃料充填時間が短い」ことがあげられる。スマホが3秒で充電できないように、電気自動車はすぐには充電ができない、急速充電でも30分はかかるという。

思ったよりは短いが「毎回充電スポットで30分待つ」というのは21世紀の人間がやることではない気がするし、みんなが電気自動車に乗り出したら、充電器の前に長蛇の列ができる。

その点FCVは、ガソリン車と同じぐらいの時間で充填が出来、燃費もよく走行距離が電気より長いという。また水素を作り出す法方は多様なため、石油など資源の枯渇問題にも対応できるらしい。

だが、もちろんデメリットもある。まず現時点で燃料補給場所が、電気よりはるかに少ないという。そして、水素ステーションを設置するコストが高く、取扱いも難しいため、ガソリンスタンドのような形態は難しいのではと言われている。

昔理科の実験で、水素に火をつけてみる、というのをやったが、軽い爆発のような現象が起こったと記憶している。よって「FCV」の話を聞いて「水素は爆発しないのか」と思った人もいるのではないだろうか。

少なくとも電気自動車のように、自宅に水素充填装置を設置することはできないだろう。技術上はできたとしても、「爆発する」というイメージがあるものを自宅に作りたくない。

そして一番気になる価格だが、現在トヨタが出しているFCV「MIRAI」は「約700万円」だ。もう、700万円出すなら、レクサスとか他人に一目で「高い」と思われる車を買いたい。

地球に優しくするのも大事だが、まずそこに住んでる人間に優しくしてほしい。

<作者プロフィール>

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年3月6日(火)掲載予定です。