既報のように、H3ロケット3号機の打ち上げは1日延期され、新たな実施予定日は7月1日となった。いつもならば、筆者の現地レポートの1本目は種子島からお届けするところなのだが、じつは種子島への飛行機が天候不良で欠航になってしまい、まだ辿り着けていない。今回もドタバタしそうな雰囲気であるが、順次記事をアップしていきたい。

  • 心配はしていたものの、やはりというか欠航に

    心配はしていたものの、やはりというか欠航に。筆者は以前、アリアン5の打ち上げ取材の帰り、パリで欠航になったことがあったが、まあ国内なので気は楽である

  • 鹿児島市内の天文館付近の様子

    というわけで種子島の写真がないため、鹿児島市内の天文館付近の様子をお楽しみください。ちなみにこの記事を書くため遊ぶ時間は無く、夕食はコンビニ弁当です

主衛星を搭載しての初成功なるか

H3ロケットは、まだ記憶に新しいだろうが、2023年3月7日、初号機の打ち上げが失敗。原因の調査は難航したものの、対策を反映させた2号機が2024年2月17日に打ち上げられ、ミッションを完璧に達成、待望の初成功に、関係者は歓喜に沸いた。3号機はそれ以来、約4カ月ぶりの打ち上げとなる。

  • 成功したH3ロケット2号機の打ち上げ

    成功したH3ロケット2号機の打ち上げ

思わぬ難産となったH3ロケットであるが、本当のスタートは今回の3号機から、と言える。初号機には先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載したものの、打ち上げ失敗により喪失。2号機には当初、先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)を搭載する予定だったが、この失敗を受け、計画を変更。ダミーペイロードを搭載することになった。

3号機には、本来2号機で打ち上げる予定だった、このだいち4号を搭載する。主衛星を搭載しての初成功がかかっており、この成否が、今後の商業打ち上げの受注に大きく影響してくるのは間違いない。H3ロケットは、失敗という最悪の出だしとなってしまったが、一度失われた信頼は、成功を続けて挽回していくしかない。

なお、前号機までは「試験機1号機」「試験機2号機」のような正式名称になっていたが、今回からは「試験機」の名称が外れ、単に「3号機」となった(英語の略称は、TF1/TF2→F3となる)。この名前からは、前回までが「開発」で、今回からが「運用」であることが分かる。運用機としての幸先の良いスタートが切れることを期待したい。

今回は初のスロットリングを実施

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は6月28日、プレス向けのブリーフィングを開催。打ち上げの準備状況などについて説明した。ロケット側から登壇したのは、JAXA宇宙輸送技術部門の有田誠氏と、MHI防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部の志村康治氏。両者とも、この4月にH3プロジェクトマネージャ職を前任者より引き継いだばかり。

  • JAXA宇宙輸送技術部門の有田誠氏

    JAXA宇宙輸送技術部門の有田誠氏

  • MHI防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部の志村康治氏

    MHI防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部の志村康治氏

プロマネとなって初の打ち上げということで、両者ともやや緊張した面持ち。有田氏は、「H3は最終的なゴールまで、まだやるべきことがたくさんあり、これから磨きをかけていきたい」と気を引き締めつつ、「子供の頃から大好きだったロケットに関わる仕事。これを楽しみながら、みなさんに使ってもらえるロケットに育てたい」と笑顔を見せた。

3号機の機体構成は、ブースタ2本を使用する「H3-22S」形態で、これは前の2機と同じ。一方で、少し異なっているのは第1段エンジン「LE-9」だ。2号機では、初号機で使われたタイプ1と、一部を改修したタイプ1Aを1基ずつ搭載していたが、3号機は2基ともタイプ1Aが使われる。

  • 3号機までの機体の比較。LE-9の構成が毎回異なっている

    3号機までの機体の比較。LE-9の構成が毎回異なっている (C)JAXA

注目したいのは、今回初めて、LE-9のスロットリングを行うということだ。スロットリングというのは、エンジンの推力を100%から落として使うことである。エンジンの推力が一定の場合、推進剤が減ってくると機体の加速度がどんどん増加してしまう。これは衛星にとって大きな負荷なので、推力を絞って加速度の増加を抑えるというわけだ。

  • 3号機の打ち上げでは、第1段の最後の約20秒間だけ、推力を落とす

    3号機の打ち上げでは、第1段の最後の約20秒間だけ、推力を落とす (C)JAXA

今回の打ち上げでは、LE-9の燃焼フェーズにおいて、最後の約20秒間だけ、推力を約66%に絞るという。有田プロマネによれば、「世界標準だと5.5G程度までかかるロケットが多いが、このスロットリングにより、今回は4Gちょっとまで抑えられる」そうだ。

当初、H3ロケットの2号機はだいち4号を搭載し、ブースタ無しの「H3-30S」形態で打ち上げる計画だった。スロットリングはもともと、H3-30Sでは必須の機能。H-IIAの半額という大きな目標を実現するのはH3-30Sであり、有田プロマネが冒頭で述べた「やるべきこと」の1つだ。その技術を今回、3号機で飛行実証する。

  • H3ロケットのバリエーション

    H3ロケットのバリエーション。最も特徴的なのがブースタ無しの「H3-30S」形態だ (C)JAXA

今回も気がかりなのは天候

H3ロケット3号機の新たな打ち上げ日は7月1日。打ち上げの時刻は変わらず、12時6分42秒~12時19分34秒のままだ。機体の準備作業は全て順調に進んでおり、今後、6月30日の20時30分より機体移動を行い、射点にその姿を現す予定だ。

  • 打ち上げ前日と当日のスケジュール

    打ち上げ前日と当日のスケジュール。今回は夜の機体移動となる (C)JAXA

今回、延期となった理由は天候の悪化。当初、機体移動を行う予定だった29日は、終日、発雷の可能性があった。また打ち上げ日だった30日は、上空の高層に氷結層が発生する恐れがあった。この2点の問題から、30日の打ち上げは見送る判断となった。

  • 種子島宇宙センターの気象予報

    種子島宇宙センターの気象予報。29日のところに発雷のマーク(△)が見える (C)JAXA

ただ、新たに打ち上げ予定日となった7月1日も、風が強いのは気がかりなところ。今のところ、打ち上げに支障は無いとみられているものの、JAXAは29日以降、天候状況を再度判断するとしている。