国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が2021年から、ロングショット(LongShot)という第4世代戦闘機や爆撃機から空中発射し、ミサイルで敵を攻撃できる無人航空機(UAV)を開発する計画を走らせている。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • ロングショットのイメージ 出典:DARPA

    ロングショットのイメージ 出典:DARPA

戦闘機から放つ空対空ミサイル搭載無人機

ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)の3社が名乗りを上げて、2022年にGA-ASIの採用が決まった。そして2026年2月に、同社が開発する実証機に「X-68A」という名前をつける話が決まった。2026年中に飛行試験を始める計画とされている。

さて。ロングショット計画は何を企図しているのか。要約すると「空対空ミサイルを搭載する無人機を空中発進させる」である。

まず、有人機から無人機を空中発進させるが、その無人機は空対空ミサイルを搭載している。そして、その無人機が敵地に向けて進み、敵機に向けて空対空ミサイルを放つ仕組みになる。

こうすることで、戦闘機や爆撃機といった有人機は現在よりも後方に引っ込むことができるから、その分だけ安全性が高まるのだと説明されている。まさに親亀小亀方式である。

この話を聞いたとき、「有人機を後方に下がらせたければ、長射程の空対空ミサイルを開発しても同じじゃないの?」と考えた。実際、そういう開発プログラムもあって、その一例としてRIM-174 SM-6艦対空ミサイルを空対空に転用したAIM-174がある。

直接、遠方から長射程の空対空ミサイルを放つのと比べると、親亀小亀方式をとるロングショットは迂遠に見える。それに、介在する要素が増えるから話がややこしくなるし、空対空ミサイルの射撃管制を誰がどういう形で実現するのか、という疑問もある。

もちろん、技術的に面白そうな話ではあるし、それだからこそDARPAが開発プログラムを立ち上げたのだろう。だが、わざわざこんな仕掛けにする戦術的な意味はあるのか。

  • 長射程空対空ミサイルの古典的名機、AIM-54フェニックスを発射するF-14トムキャット 出典:US Navy

    長射程空対空ミサイルの古典的名機、AIM-54フェニックスを発射するF-14トムキャット 出典:US Navy

発射・交戦のタイミングと、その自由度

ということでしばらく考え込んでしまったのだが、ひとつ思いついた話がある。

ミサイルというのはたいてい、ひとたび撃ったら「もはやそれまで」で、後は敵に向けて飛翔させるしかない。いったん撃ったミサイルを母機の手元に回収することはできない。

それに、撃った後で状況が変わっても修正が効きにくい。最近はデータリンク機能を備えた空対空ミサイルが出てきているので、目標の再割当ぐらいはできるようになってきている。といっても、それが役に立つのは、適当な目標が別にいる場合に限られる。

ところが、ロングショットみたいな親亀小亀方式をとると、事情が変わる可能性がある。とりあえず、空対空ミサイルを搭載した無人機を放って、敵地に向けて進撃・遊弋させておく。そして、脅威が現れたところで、そこから空対空ミサイルを放つ。そんな運用が可能になる。

つまり、リーチを伸ばすだけでなく、発射・交戦のタイミングに関する自由度が増す。そんな考えがあるのかも知れない。

また、X-68Aを発射するプラットフォームについては、当初はF-15を使用することになっているが、他の戦闘機や爆撃機、輸送機に載せることも、理屈の上では可能である。すると例えば、爆撃機が露払い役として空対空ミサイル搭載の無人機を放つ運用も考えられる。

また、輸送機から空対空ミサイル搭載の無人機を大量に放つと、戦闘機がいない、あるいは少ない場合でも、空対空交戦のための手駒を確保できる。

無人機の生残性がカギ

ただ、敵機の出現を待って空対空ミサイル搭載の無人機を遊弋させておくといっても、そこで無人機が敵に見つかって撃ち落とされたのでは役に立たない。すると、空対空ミサイル搭載の無人機は高い隠密性・生残性が求められる。

つまり、できるだけコンパクトにまとめるとか、ステルス性を持たせるとかいう話である。すると、空対空ミサイルは機内兵器倉に搭載しなければならないだろうし、冒頭の想像図でもそうなっている。その代わり、外部搭載のときよりも発射の際の課題が増える。

しかも、この無人機が使い捨てということなら価格を抑えたいだろうから、できる限り、複雑・高度な仕掛けは避けたいところ。安価かつシンプルに、生残性が高い、空対空ミサイル搭載の無人機を実現できるかどうかが、ロングショット計画の鍵を握ることになると思われる。

また、戦闘機、爆撃機、輸送機とプラットフォームが多様になると、それらについて個別に、安全な発進ができることを確認するための分離試験を実施しなければならない。

それに加えて、空対空ミサイルに対する射撃管制・目標指示をどうするかという課題もあるが、これはどちらかというと別連載「軍事とIT」の領域であろう。

搭載する空対空ミサイルは、コストとリスクのことを考えれば、できれば既製品にしたいところ。すると、都合のいいサイズ・重量・誘導方式を備えた空対空ミサイルの手持ちがあるかどうか、という課題も出てくるかもしれない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。