前回に取り上げた「自爆突入型UAV」は、個人で持ち歩けるぐらいに小型の機体という前提だった。そして、(一応の建前としては)単に目標に突っ込んで自爆するだけでなく、その前に目標の上空をロイターして、偵察することもできる。と、そういう建て付けだった。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

片道切符

ところが最近、それとは違う種類の自爆突入型UAVが出てきた。イエメンのフーシ派やイランが、そしてロシアが多用している種類のものである。

例えば、フーシ派が使用しているサマド(Samad)がそうだが、外見は軍用として多用されている偵察用UAVに似ている。しかし弾頭を組み込んであり、指示された目標に突っ込んで爆発する。片道切符である。

サマドには複数の派生型があるが、サマド2を例にとると全長2.8m、全幅4.5mもあって、個人携行できるサイズ・重量ではない。航続距離は1,200~1,500kmと伝えられているが、イエメンからイスラエルまで到達させようとすれば、それぐらいの能力は要る。

  • イエメンのフーシ派が使用している自爆突入型UAV「サマド2」 Photo:JINSA

    イエメンのフーシ派が使用している自爆突入型UAV「サマド2」 Photo:JINSA

円筒形(?)の細長い胴体に、アスペクト比が高い主翼、それとV尾翼を組み合わせており、エルビット・システムズ製ヘルメス450と似た外見である。ただし、ヘルメス450は自爆しないし、片道切符でもない。

サマドのエンジンはドイツ製の3W-110i B2 CSと伝えられている。これは水平対向(もしかすると180度V型)の2気筒エンジンで、排気量は110cc、出力は12.8hp、メーカー直販価格(?)は約1,400ユーロ。

出力12.8hpのエンジンでプロペラを回すのでは大した速度は出ないが、市販のありものを活用して安価に大量生産するという観点からすると、理に適った選択といえる。その性能の話はともかくとして。

有翼巡航ミサイルの歴史は長い

実は、長射程の弾道ミサイルがモノになる前に、戦略核兵器として大形・長射程の有翼巡航ミサイルを開発する事例が相次いでいた。

例えばアメリカ製のSM-62スナークがそれで、全長20.47m、全幅12.88m、全備重量27.2t、J57エンジン・1基で最大速力1,050km/h、射程10,000km超と伝えられている。大陸間巡航ミサイルとして開発されたので、こんな大がかりな機体になった。

  • 米空軍博物館に収蔵されている、ノースロップSM-62スナーク。一応は “ミサイル然” とした格好 Photo:USAF

    米空軍博物館に収蔵されている、ノースロップSM-62スナーク。一応は “ミサイル然” とした格好 Photo:USAF

それと比べると、射程の面でも飛行性能の面でも桁違いに見劣りするが、サマド2も、使われ方は有翼巡航ミサイルみたいなものである。ただし、いわゆる有翼巡航ミサイルと比べると激安である。命中精度はさほど良くないだろうが、それでもイスラエルやウクライナの市街地に着弾して何かを破壊してくれれば用は足りる。

スナークみたいな“神代の時代の巡航ミサイル”に対して、RGM/UGM-109トマホークに代表される“ハイテク派巡航ミサイル”もある。小型軽量、隠密性が高い、命中精度が高い、お値段も相応に高い、といった点に特徴がある。高い命中精度を実現するため、眼下の地形と地図データを照合したり、目標の映像を確認・照合したりといった技を使う。

そして、この手の巡航ミサイルがはやり言葉に乗っかって「ドローン」と呼ばれることはないようだ。有翼の無人の飛びモノで片道切符、というところはみんな同じであるはずだが。

  • 先日、ポーツマスの英海軍潜水艦博物館に行ったら、トマホークの実大模型が天井からぶら下がっていた 撮影:井上孝司

    先日、ポーツマスの英海軍潜水艦博物館に行ったら、トマホークの実大模型が天井からぶら下がっていた 撮影:井上孝司

ミサイル=高級品という概念?

1950~1960年代の有翼巡航ミサイルにしても、1970年代以降のハイテク巡航ミサイルにしても、それぞれの時代に利用できる技術・製品を活用して、「高性能」かつ「一発必中」を目指したところは共通している、といえるのではないか。実現できたかどうかは、また別の問題として。

つまり、ひとことでいえば「武器としては高級品」であるし、実際、お値段も相応に高い。いまどきの巡航ミサイルなら、1発で数億円はする。

それに対して、フーシ派やイランやロシアが多用している片道切符の自爆突入型UAVは、「迎撃されて撃ち落とされても構わないから、安価に作って数を頼んで押し切って、命中してくれればめっけもの」ぐらいの意識があるように思える。レーダー探知を避けるために地形に紛れて低空飛行、なんて手の込んだ真似はしない。

よって、航法・誘導の機能をやたらと高度化させることはないだろうし、必要な航続性能は実現するにしても、速度性能にもこだわらない。構造も簡素で済むに越したことはない。使えるものは市販品・民生品のありものを活用して、安く迅速に大量生産する。

そういう、実現に際してのマインド・セットの違いが、「ドローン」と呼ばれるかどうかに影響しているのではないか。無人ヴィークルは損耗を前提とするべき、とは筆者の持論であるが、それを極端に突き詰めた形で具現化した存在といえよう。

ただ、被探知を避ける立場からいうと、速度が遅いことはかえってプラスに働く可能性がある。以前に別連載「軍事とIT」でも書いたが、速度が遅いとレーダー反射のドップラー・シフトが少なくなるからだ。これは、地面や海面、背後の建物や山岳地帯といったところからの反射波に起因するクラッターと、本来の探知目標の区別を難しくしてしまう。

武器開発におけるパラダイム・シフト

実のところ、この「損耗を前提として安価に造り、数を頼んで押し切る」というところで、従来の武器開発・航空機開発とは真逆となるパラダイム・シフトが起きていると思える。

ことに空軍の軍人は「ハイテクはセクシー、ローテクはダサい」という意識を持ってしまうことがあるらしい。それに、お役所としての観点からすれば、高価な高級品の方がウケがいいし、予算をいっぱい取れる。そういうマインド・セットと、「安くて数を頼む片道切符の自爆突入型UAV」は、あまり相性がよろしくなさそうでもある。

ちなみに、ミサイルの分野にも「安価に作って数を頼んで押し切って、命中してくれればめっけもの」の事例はある。第二次世界大戦中にドイツで造られたフィーゼラーFi103(いわゆるV1号飛行爆弾)は、実現に際しての考え方の部分で、サマド2みたいな機体に通じるものがある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。