当初の計画では、電動式マルチコプターの武装化など、順を追って話を進めていこうと考えていた。ところが2025年9月に、ロシアが放った自爆突入型無人機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)がポーランドの領空を侵犯する事案が発生した。そこで、この自爆突入型無人機の話を2回に分けて、先に取り上げてみようと思う。

ただし航空機のメカニズムを本題とする連載だから、「飛びもの」としての観点をメインにしてみたい。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

主翼と尾翼を折り畳んで発射筒に入れる

ロシアがポーランドに放った機体は、見た目は普通のUAVのようである。何をもって普通というかは議論になりそうだが、ここでは「一般的な飛行機の形をしている」と定義する。

しかし自爆突入型UAVの分野では、発射筒から撃ち出すタイプの機体が先行していた。このカテゴリーの製品では、エアロヴァイロンメント製の「スイッチブレード」と、UVision製の「Hero」が著名。これら以外にもさまざまな製品があるし、これからもいろいろ出てくると思われる。

  • AeroVironmentの「Switchblade 600」 引用:AeroVironment

    AeroVironmentの「Switchblade 600」 引用:AeroVironment

いずれにしても、個人で持ち歩ける程度のサイズ・重量にまとめることが多い。それは、この種のUAVが「個人向けの火力支援手段」として用いられることが多いから。そして携行性を考えると、「飛行機」の形をしたままでは具合が悪い。

そこで、主翼や尾翼を折り畳み式として、発射筒に収めることになる。圧縮空気か何かを用いて発射筒から撃ち出すと、バネ仕掛けで主翼や尾翼が展開して、それで浮揚や操縦が可能になる。

スイッチブレードは2枚の主翼と3枚の尾翼を持つ、いわゆる飛行機のイメージに近い形態。それに対して、Heroは4枚の主翼と尾翼をX型に展開する、どちらかというとミサイルのイメージに近い形態になっている。

UVisionの「Hero 120」

そのHeroのうち、末っ子にあたるHero 120を例にとって見てみる。

  • UVisionの「Hero 120」 引用:UVision

    UVisionの「Hero 120」 引用:UVision

Hero 120の胴体先端は円筒形で、そこに電子光学センサーが納まっている。その後方は絞り込んで角形になっており、かつ二段階の絞り込み。このことから、主翼を後方向きに畳んで、その内側に尾翼を前方向きに畳んでいるのだと分かる。そして、尾部に設けた電動式プロペラで推進する。

対してスイッチブレードは主翼と尾翼が2枚ずつで、これを胴体下面に畳み込む形になっている。やはり主翼は後方、尾翼は前方に畳む仕組みで、畳んだ状態で両者は重なり合う位置関係となる。

降着装置は要らないし速度も遅い

この種の自爆突入型UAVの場合、ロイターする場面があろうがなかろうが、最後は地上のターゲットに突っ込んで果てることになる。つまり片道切符が前提だから、離陸さえできれば良く、降着装置は要らない。その分だけ構造が簡素になるし、軽くなる。

片道切符が前提だから、安価に製造できなければ惜しげも無く使えない。よって構造はできるだけシンプルにする必要がある。例えば、先に挙げたHero 120の外観を見ると、4枚ずつある主翼と尾翼はいずれも同じ形で、同じ向きに展開する。すると部品の種類としては主翼と尾翼で1種類ずつとなり、コスト低減につながる。

また、いちいち丁寧に点検整備しなければならないようでは負担が大きいから、メーカーの工場から出てきたものを箱から取り出しただけですぐ使える、ぐらいが理想であろう。

すると、推進装置は蓄電池と電動機の組み合わせが最善となる。これなら充電する以外の手間はかからない。ガソリン・エンジンやジェット・エンジンを使っていると、メンテナンスの手間が増えてしまう。

それに、高い飛行性能を追求しているわけでもない。巡航速度は、スイッチブレード300ブロック20で101km/h、スイッチブレード600で113km/h、Hero 120に至っては公表されている主要諸元に速力の記載がない(そのことからすると、大した速度は出ないものと思われる)。速度で勝負する武器ではないから、それでよいのである。

軽くできているという点では、スイッチブレード300ブロック20が優れており、単体で1.68kg、発射筒込みで3.27kg。これならバックパックに何機も(何発も?)入れて持ち歩ける。スイッチブレード600は発射筒込みで29.5kgあるから、これは車両がないとつらそうだ。Hero 120はその中間で、発射筒込みで18kg、これなら、筋力を鍛えれば個人で持ち歩ける。

ただ、軽く作るために高価な材料を使うとお値段が上がってしまうので、安価な素材で軽く作るところが勘所となろう。そして飛びものであるからには、空力の話も無視できない。頑張って抵抗を減らすことまではしないにしても、飛行の妨げになるような形をしていては困る。

全体配置はみんな似たようなもの

スイッチブレードでもHeroでも、先端部に電子光学センサー、その後方に電子機器と弾頭、それから主翼、尾翼、推進用の電動機とプロペラ、という基本配置は同じである。

電子光学センサーは、視界を確保する観点からすると先端部に置かざるを得ない。すると、推進用電動機とプロペラは先端部に置けないから尾端になる。残る、電子機器、弾頭、蓄電池をどこにどう配置するか、という話になろう。

重量物を後方に寄せすぎると縦の静安定を確保するのが難しくなるから、重い蓄電池をどこに収めるかが難しい判断になる。あまり後方に配置するわけにもいかないのではないか。

小型で安価とはいえ、レッキとした飛行機であり、しかも無人だから自律的に操縦する必要がある。すると、機体の姿勢や飛行状態を知る機能は組み込まなければならず、それをいかにして安くシンプルにまとめるかが勘所になる。

スイッチブレード300ブロック20のデータシートを見ると、ターゲットに突入する際の角度を水平面に対して20度、33度、45度のいずれかから選択する機能がある。例えば、遮蔽物に囲まれたターゲットでは角度を大きくとらなければならないだろう。

飛行機を自律制御するには、機体の姿勢・針路・速力を把握する仕掛けが不可欠だから、そこから情報をもらってきて「何度の角度で突っ込め」と指示することになるわけだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。