2022年にロシアのウクライナ侵攻が発生、そこでさまざまな無人機の活躍が喧伝されてからだろうか。「いまや有人戦闘機は時代遅れ、ドローンの時代である」との論を張る人が目につくようになった。
単純に、はやり物に乗っているだけではないか、といってしまえば身も蓋もないのだが、空の上でも無人化を追求する動きがあるのは事実である。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
ISRから戦闘任務に発展
陸・海・空を問わず、無人ヴィークルの利用については、まずISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance、情報収集・監視・偵察)から始まり、実績を積み上げたところで戦闘任務への展開を模索する動きが出てくる、という共通項がある。
これは無理もないことで、センサーと通信手段があれば一応は成立するISR任務と比べると、状況認識・状況判断の双方で複雑な話になる戦闘任務の方が、荷が重い。すでに無人ヴィークルを戦闘任務に使用している事例はあるが、それは基本的に“man-in-the-loop”すなわち人間による判断・指令・遠隔操作が前提となっている。
話を広げすぎると収拾がつかなくなるし、本連載のお題はあくまで「航空機」であるから、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を戦闘任務で使用する話にフォーカスして、論点や技術的課題などを整理してみたい。
そもそも、「ドローン」という言葉の幅が広すぎるのが問題である。掌に載るような小型無人ヘリコプター、例えばブラックホーネットみたいな機体から、ボーイング757並みに大きいRQ-4グローバルホークまで、これみんな無人機であり、「ドローン」の一員ということになってしまう。それをみんな一緒くたにしたのでは、話が拡散しすぎて議論にならない。
UAVを戦闘任務に使う際の三形態
これまでに実用化されている、あるいは実用化に向けて動いている事例を見ると、UAVを戦闘任務に使う場合の手法は、大きく分けて三形態あることが分かる。
自爆突入型
まず、エアロヴァイロンメント製の「スイッチブレード」やUVision製の「Hero」に代表される、自爆突入型UAV。基本的には片道切符である。それではミサイルと同じではないかという話になるが、ヴィークルの形態としてはUAVの一種であり、光学センサーを備えている。
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エアロヴァイロンメント製の「スイッチブレード」は、キャニスターから撃ち出す自爆突入型無人機。個人携行が可能な長射程火力という位置付け 写真:US Amy
そして、ミサイルとの大きな違いとして “loitering” がある。ミサイルは目標に向けて一目散に飛んでいくものが殆どだが、自爆突入型UAVは目標地域の上空を遊弋して、ターゲットが見つかったところで突っ込ませる、という運用ができる。つまり対地用に限定される。
また、簡素で安価な構造を追求する傾向は、ミサイルよりも自爆突入型UAVの方が強い。個人でも携行が可能なサイズと重量で、かつ、一般的な個人携行用武器と比べると長射程・大威力、といったところを狙う製品が多い。
ISR用途のUAVを武装化した形態
二番目の形態として、ISR用途のUAVを後から武装化した形態がある。RQ-1プレデターにAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルを載せて武装化したMQ-1プレデターが嚆矢で、その発展型であるMQ-9リーパーの一族は多くのカスタマーを獲得している。
この形態では、あくまでISRが起点にあり、見つけたターゲットをその場で攻撃できるように武装化した経緯がある。センサーの操作や、センサーで捕捉した情報をその場で判断する必要性、そして状況に合わせて機体を操る必要性から、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)を用意して遠隔操縦する運用になる。
無人戦闘機
三番目の形態が、「無人戦闘機」という言葉に似つかわしい、「人が乗っていないジェット戦闘機」といった外見の機体になる。当然、最初から戦闘任務に充てることを前提として設計される。
しばらく前の機体でいえばノースロップ・グラマン製のX-47Bがそれであるし、2019年頃から話題にのぼるようになった “忠実な僚機” (loyal wingman)もこれである。米空軍ではCCA(Collaborative Combat Aircraft)と呼んでいる。
無人機に求められる自律性のレベルは、他の二形態と比べると高い。地上のGCSに専任のオペレーターが付いているわけではないし、敵対的な艦橋(contested environment)に突っ込んで行く前提になるからだ。故に、研究開発や試験・評価に際してのハードルも高くなる。
どの形態で何を置き換えられるのか
「無人戦闘用機」とは、ISRみたいな「対象を見てるだけ」ではなく、業界用語でいうところのエフェクター、つまりターゲットを破壊する能力を備えた無人機という意味。ただ、それを実現するにしても、上で挙げたようにさまざまな形態・手法がある。
そこのところの定義、前提条件を明確にしないで「ドローンで有人戦闘機の代わりができる」も何もあったものではない。先に挙げた三形態はそれぞれ、代替できそうな対象が違うのである。
そこで次回から、形態ごとに、「飛びもの」として求められる要件や特徴を押さえていくこととしたい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


