第485回に、米空軍のC-17A輸送機に空力付加物「マイクロベーン」を追加して空気抵抗を低減、結果として燃料消費の低減につなげる話を取り上げた。なにしろ「米軍で最も燃料代を多く使っている」米空軍だけに、他機種でも同様の取り組みが行われることに不思議はない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
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空気抵抗を減らすためのフィンを試しているMC-130Jとは、こんな機体。外見は輸送型のC-130Jと似ているが、敵地に隠密潜入する際に身を護るための道具立てがいろいろ追加されている 写真:USAF
C-130にフィンを追加
そして対象になったのが、MC-130J特殊作戦機。といってもこれはC-130Jスーパー・ハーキュリーズ輸送機がベースだから、MC-130Jに限らず、他のC-130J系列の機体でも同様に適応できる話となる。
追加するフィンの設置要領は、C-17Aで試行している「マイクロベーン」とは異なるようだ。そもそも後部胴体の形状がまるで違うのだから、同じデバイスを同じように取り付けても効果はあがらないだろう。C-130Jの機体形状に適したものを、適した位置に設置しなければならない。
そして具体的には、後部ドアと尾翼の左右に、アルミ製の小さなフィンを追加した。Vortex Control Technologies という会社がが製作と設置を担当しており、6~8%の抵抗低減につながる可能性があるとされている。
米空軍の第96試験航空団(96th TW : 96th Test Wing)が、試改修を実施したMC-130Jを使って2025年7月16日から、フロリダ州のエグリン空軍基地で飛行試験を始めている。この試験では、耐空性に関する検証を実施している。
それが完了した後はカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地に場を移して、物量投下の試験を実施する予定だという。これらの試験が順調に進めば、MC-130Jのみならず、C-130Jファミリー全体に展開する構想とのこと。
軍用輸送機ならではの難しさ
これが旅客機だったら、飛んでいるときはすべての扉が閉じた状態だから、その状態で試験を行えば済むと思われる。ところが軍用輸送機は事情が異なり、飛んでいる最中に扉を開けることがある。
側面の扉を開く場合
例えば、空挺隊員をパラシュート降下させるときには、側面の扉を開く。C-130Jではないが、具体例をひとつ。
このとき、機種によっては開いた扉の前方にデフレクターを張り出させて、風の影響を抑える設計になっているものもある。扉が開くだけでもなにかしらの影響はあろうし、デフレクターを展開すればなおのこと。
後部ランプを開く場合
また、物量投下の際には後部ランプを開く。こちらはC-130Jでやっている写真が手元にある。
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C-130Jが後部ランプを開いて、物量投下を実施するデモンストレーション 撮影:井上孝司
MC-130Jでテストしている追加フィンは後部ドアと尾翼の左右に取り付けるというから、後部ランプを開いた状態の方が、影響が大きそうではある。素人考えだが。
ともあれ、扉を開いた状態と閉じた状態とでは、なにかしらの空力的な変化があるはずだ。それでも機体が問題なく機能すること、安全な飛行を妨げないことを確認しなければ、どんなに燃費低減に効くといっても使えない。だから検証試験を行う必要がある。
機体だけでなく、そこから降下する空挺隊員や貨物に悪影響があってもいけない。もっとも、フィンを設置した扉は上部に引き込まれる構造だから、投下する貨物に対する影響はあまりなさそうではある。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。





