今回も、イギリスのコスフォードにある英空軍博物館で拾ってきたネタ。お題は、グロスター・グラジェーターという複葉戦闘機である。初飛行は1934年9月12日、運用開始は1937年2月。もっと高性能の単葉戦闘機も出てきていたにもかかわらず、第二次世界大戦の前半には、意外と使われていた。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
機関銃の設置位置いろいろ
普通、単発のプロペラ機が武装として機関銃や機関砲を搭載する場合、設置位置は「機首」か「主翼」のいずれかに決まっている。
機首に設置する場合
まず、機首の上面に設置する形態。これはとてもポピュラーで、胴体の上面に銃口が突き出したり、撃った弾が通るための溝が胴体の上面に作られたりする。機関銃の本体は胴体上部のエンジン後方に設置され、その下方に弾倉。たいてい機関部のお尻がコックピットに突出する。
この場合、撃った弾がプロペラに当たると敵機ではなく自機を撃墜してしまうので、同調装置を設けて、プロペラの羽根と羽根の間で弾が出るようにする。たまにバリエーションとして、機首の上面ではなく下面に設置する事例もあるが、同調装置を必要とするのは同じ。
主翼の内部に設置する場合
次に、主翼の内部に設置する形態。片翼につき1挺だけということもあれば、2~6挺を設置することもある。弾倉も主翼の中に収容するため、複数の機関銃を設置する場合には、設置位置を前後にずらす。すると、各々の機関銃の弾倉が前後に並ぶことになる。
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チャンスヴォートF4Uコルセア。折り畳んだ主翼の下面に四角い開口が3カ所見えるが、これは薬莢の排出口。それが斜めに並んでいることから、機関銃を3挺、前後にずらして設置しているのだと分かる 撮影:井上孝司
主翼の中にスペースがないと、主翼の下面にポッド(ゴンドラと呼ぶこともある)を張り出させて、そこに機関銃や弾倉を収容することもある。
プロペラ軸の中を通す場合
次に、プロペラ軸の中を通す形態。これなら撃った弾がプロペラに当たることはない。また、機関銃を機体の軸線に近いところに設置できるので、反動によってピッチ方向の動きに影響が生じることもなさそうだ。
では、グラジェーターの機関銃の設置位置は?
といったところで、グロスター・グラジェーターである。
武装は7.7mm機関銃が4挺で、胴体内と主翼の下面に2挺ずつ設置している。だから左右の主翼の下面に、機関銃を収容するための張り出しが設けられており、そこから銃身が突き出ている。では、胴体内の方はどうか。てっきり、よくある形で胴体の上面に設置しているかと思ったが、コスフォードで現物を見てみたら違った。
機関銃の本体はコックピットの両側面付近にあり、銃口の前方では胴体側面に溝が作られている。それがエンジンのカウリングに入り、弾は最終的に、カウリングの両側面を通り抜けて、前面から飛び出す仕組み。
まず「なんで胴体の側面に溝があるんだ」と訝しんで、よくよく見たら「こんなところに機関銃がある」となった。グラジェーターは以前にも、スウェーデンのリンシェーピンにあるスウェーデン空軍博物館で見ているが、そのときには気付かなかったのだから間の抜けた話。
「では、他の機体はどうか」といって写真を確認してみた。すると、ホーカー・ハインドはグラジェーターと同様に、胴体側面に機関銃を組み込んで、その前方に溝を切っていた。これはホーカー・ハート軽爆撃機から派生したモデルで、初飛行は1934年9月だから、時期的にはグラジェーターと近い。
なぜこんな配置に?
問題は、どうしてこんな設計になったのか。そこであれこれ調べ回ってみたところ、グラジェーターのエンジンとコックピットの間は、燃料タンク、滑油タンク、オイルクーラーなどで埋まっている。この場所に燃料タンクを置くのは、他機でも一般的に見られる手法。
燃料はもちろんだが、機関銃も、弾を含めると結構な重量物である。そういうものは、重心位置のあたりに集中する方が好ましい。(鉛筆の両端に消しゴムをくくりつけたものと、鉛筆の中央に消しゴムをくくりつけたものを、それぞれ左右に振ってみて欲しい)
また、燃料を消費すればタンクは空になるし、機関銃を撃てば弾倉は空になる。どちらにしても軽くなっていく要素だから、それに伴う重心位置の変動は少ない方がいい。
仮に銃弾1発が28gとすると、胴体銃が1挺につき600発で合計1,200発、翼内銃が1挺につき97発で合計194発。1,394発の総重量は約39kg。燃料はメイン64gal・重力タンク20gal。1英ガロン=4.546リットルだから総重量は約305kg。
総重量2,000kgたらずの機体で、燃料と銃弾が344kgを占めれば、それが減ったときの重心移動の影響は大きい。すると、銃弾の搭載位置を後方に寄せれば、戦闘で燃料と銃弾の両方が減ったときの重心移動を減らせそうではある。
そんなこんなの事情を勘案した結果、この位置に機関銃を設置することになったのだろうか。それにしても、胴体の側面に「撃った弾が通るための溝」を作るのは、製造工数が増えて、嬉しい話ではなかったと思うけれども。
ちなみに機関銃の弾倉は、胴体内の機関銃は機関銃の下方に、主翼下面の機関銃は翼内に設けてあった。固定脚だから主脚収納スペースは要らないし、翼内燃料タンクもない。そして7.7mmという小口径だから、弾倉はそんなに分厚いものにならなかったのだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。