航空分野におけるハイブリッド駆動システムは、以前にも何回か取り上げているテーマ。その後、さらに事例が増えているので、時事ネタとして、まとめて紹介したい。「全電動化」と大風呂敷を広げるよりも、(空を飛ぶものだが)地に足が付いた取り組みが主流になっているといえよう。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

ハイブリッド駆動システムに関するおさらい

充電スタンドを用意できる陸上と異なり、空の上ではホイホイと充電スタンドを設置することができない。そのせいか、航空の世界で「完全電動化」に走る事例は、小型無人機など、限定的な話にとどまっている。主役はどちらかというと、従来型のエンジンと電動機とバッテリを組み合わせた、ハイブリッド駆動システムの方だ。

自動車のそれと同様に、航空機でもシリーズ方式とパラレル方式がある。シリーズ方式では、エンジンは発電機の駆動に専念しており、プロペラみたいな推進装置は、エンジンとは機械的に切り離されている。だからエンジンと発電機の設置場所は比較的、自由度がある。

対してパラレル方式では、1つの推進装置にエンジンと電動機の両方を組み合わせており、その両方を併用したり使い分けたりしながら駆動する。すると必然的に、エンジンも電動機も推進装置の近くに設置しなければならない。

自動車や鉄道車両では、減速時に推進用電動機を発電機として作動させることで、制動力を発揮させると同時に運動エネルギーを電力として回収、それを蓄電池に溜め込んでいる。その電力を加勢させれば、その分だけ燃料消費を抑えられる。減速時に回収したエネルギーを加速の際に再利用しているわけだ。

ところが、航空機は事情が異なる。エンジンに余力があるときに、推進用電動機の駆動に加えて蓄電池の充電も行っておき。そして、パワーが欲しいときに、蓄電池からの電力を加勢させる。そんな運用になるようだ。理屈の上では、十分な前進速度があれば、エンジンの羽根に気流が当たって回転する(ウィンドミル)から、それで推進用電動機を発電機として機能させられそうだが、実際にはそうも行かないらしい。

DARPAのXRQ-73計画

まず、本連載ではしばしばネタを提供してくれている、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)。DARPAは6月に、SHEPARD計画の下で開発する全翼型の偵察機について、名称が「XRQ-73」に決まった、と発表した。

  • DARPAがSHEPARD計画の下で開発する全翼型の偵察機「XRQ-73」のイメージ 引用:DARPA

SHEPARDはSeries Hybrid Electric Propulsion AiR Demonstrationの略。つまり、シリーズ・ハイブリッド推進システムの実証機という意味になる。シリーズ・ハイブリッドだから、エンジンは発電機の駆動に専念して、推進力を生み出す直接の源は電動機のみとなる。

担当メーカーは、ノースロップ・グラマン、同社傘下のスケールド・コンポジッツ、コーナーストーン・リサーチ・グループ、ブレイトン・エナジー、PCクラウス&アソシエーツ、イーグルピッチャー・テクノロジーズの各社。機体は無人で重量1,250lb(568kg)、上昇限度18,000ft(5,486m)、速力100~250kt(185~463km/h)との数字が示されている。

なお、SHEPARD計画で使用するハイブリッド駆動システムは、米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory)が2011年から、グレート・ホーンド・アウル(XRQ-72)計画の下で開発した技術が母体となっている。

DARPA関連だと、以前に第437回で取り上げたANCILLARY(AdvaNced airCraft Infrastructure-Less Launch And RecoverY)計画でも、ハイブリッド駆動システムを使用することになっている。

ハイブリッド駆動のクワッドコプター

イスラエルの無人機メーカー、エアロノーティクス・システムズは2024年5月に、ハイブリッド駆動のクワッドコプター「オクトパーH」を発表した。これもシリーズ・ハイブリッド駆動で、エンジン駆動の発電機と、10分間の飛行が可能な容量を持つバッテリを搭載、電動機でローターを回す。

  • エアロノーティクス・システムズのハイブリッド駆動型クワッドコプター「オクトパーH」 引用:エアロノーティクス・システムズ

もともと基本型のオクトパーがあり、最大離陸重量25kg、ペイロード10kg、航続時間60分間、航続距離30km。それをハイブリッド化することで、航続時間を4時間、航続距離を100kmに伸ばすと説明している。

バッテリと電動機という余計な重量を背負い込むにもかかわらず、航続距離が伸びるというのが面白い。もっとも、そういうメリットがなければ、やる意味がないのだが。

EUのHECATE計画と、エアバスヘリコプターズのPioneerLab

アメリカ、イスラエルと続いたが、ヨーロッパでも新たな動きがある。それが、EUが進めている「クリーン・エヴィエーションHECATE(Hybrid-ElectriC regional Aircraft distribution TEchnologies)」計画。

この計画では、さまざまなメーカーが参画して、出力500kW級のハイブリッド駆動システムの開発を進めることになっている。主なメーカーの顔ぶれと担当は以下の通り。

  • コリンズ・エアロスペース : 電力変換システムと二次分配システム
  • サフラン : 一次分配システム、電力管制システム、電気配線
  • エアバス・ディフェンス&スペースとレオナルド : 機体、支援、検証

テーマとしては、一般的なバッテリや燃料電池を用いる電源供給の部分と、推進とその他の分野への電力分配が挙げられている。これら電力系統の開発に注力しているのが、HECATE計画の特徴。そして、2025年に地上試験を開始する計画になっている。

推進用電動機は電圧が800~1,500Vと高く、その他の系統は540Vの高圧系統と28Vの低圧系統を用意する考え。

ところで。この計画名称、ギリシア神話に出てくる女神ヘカテの名前にひっかけているのではないかと思いそうになったが、ヘカテのつづりは「Hekate」だ。それに、ヘカテには「浄めと贖罪を司る」「犯罪の現場に詳しい」といった話がついて回るが、ハイブリッド駆動システムとはあまり関係のなさそうな話ばかりだ。

一方、エアバス・ヘリコプターズは、H145をベースとするハイブリッド電気駆動システムの技術実証機「PioneerLab」の計画を進めている。エンジンはプラット&ホイットニー・カナダ(P&WC)製のPW210エンジンを1基、電動機はコリンズ・エアロスペース製の電動機(出力250kW)を2基使い、これらを共通ギアボックスに組み合わせてローターを駆動する仕組み。

  • エアバス・ヘリコプターズが開発したハイブリッド電気駆動システムの技術実証機「PioneerLab」 引用:エアバス・ヘリコプターズ

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。