航空機で使用する燃料や、航空機に対する燃料補給の話は、だいぶ前に取り上げたことがある。ところが最近、「空港における燃料不足」がニュースになる場面を見かけるようになった。そこで問題になっていることのひとつが、「空港までの燃料輸送」である。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 米空軍横田基地では現在でも、鉄道によるジェット燃料輸送が行われている。出発地点は鶴見線の安善駅で、そこの南に米軍の貯油施設がある 撮影:井上孝司

燃料供給の流れ

ジェット燃料に限らず、石油製品の原料はすべて、地中あるいは海底から掘り出される原油である。それを蒸留塔に入れて加熱して、温度の違い(=分子の大きさの違い)によって、さまざまな成分に分ける。

温度が高くなるほどに蒸留塔の上の方から出てくる仕組みで、いわゆる「軽質」な燃料になる。上から順番に並べると、「石油ガス」「ガソリンやナフサ」「ジェット燃料や灯油」「軽油」「重油」「アスファルト」となる。

さらに、出てきた各種燃料油に対して脱硫・分解・改質といった作業を行うことで、我々が日常的に消費している石油製品ができる。そのプロセスを受け持つ施設が「製油所」となる。

ジェット燃料も当然ながら、製油所で作られているので、それを飛行場まで運んでくる必要がある。あいにくと、製油所が隣接している飛行場は聞いたことがないから、両者を結ぶ、何かしらの輸送手段が必要になる。安全であることはもちろんだが、同時に、低コストであることも求められる。

製油所は、タンカーで原油を運び込んでくる関係で、たいてい海岸沿いにある。だから、出来上がった石油製品を搬出する際にもタンカーを使用することが多い。ただし、横浜市根岸にあるENEOS株式会社の根岸製油所みたいに、直接、鉄道で搬出するルートを備えているものもある。

タンカーから直接陸揚げ

海岸沿いにある飛行場なら、専用の施設を用意することで、タンカーで運んできたジェット燃料をダイレクトに、空港内のタンク施設に送り込める。それをやっているのが羽田空港で、A滑走路(32L/16R)南端より少し西側に、陸揚げ用の桟橋がある。

この施設は、D滑走路(05/23)に向けてタキシングする機体の窓からよく見える場所にある。また、首都高速湾岸線(西行)を走っていると、左斜め前方に現れる。

  • 羽田空港の燃料タンク施設に、タンカーからジェット燃料を陸揚げしている様子 撮影:井上孝司

しかし、こんな恵まれた条件にある飛行場は少ない。多くの場合、タンカーから陸揚げしたジェット燃料を、別の手段で飛行場まで運んでいる。

パイプラインによる輸送

ジェット燃料は液体だから、パイプラインで運ぶのがもっとも分かりやすい。

成田空港の場合、当初は貨物列車で輸送していたが、後にパイプライン輸送に切り替えられた。現在は成田空港給油施設株式会社(NAAF : NAA Fueling Facilities Corp.)という会社があり、ここが成田空港の航空機給油施設を運用管理している。

パイプラインの起点となるのが、千葉港頭石油ターミナル。そこでタンカーから荷揚げしたジェット燃料は、四街道石油ターミナルを経由して成田空港内のタンク施設まで送られる。その距離、47km。パイプラインは、ポンプが故障でもしない限り運用可能で、人手も少なくて済む。

参照 : https://www.naaf.jp/business/transportation/

ところが、その成田空港でも「燃料不足による増便見合わせ」が発生しているという。その原因は、千葉港まで運んでくるタンカー輸送にあるようだ。

沖縄の米軍基地では、天願桟橋に近い、うるま市の昆布に、米陸軍が管理する貯油施設がある。そこからパイプラインでジェット燃料を嘉手納基地や普天間基地に供給する仕組み。辺野古に新しい飛行場ができたときには、どうするのだろうか。海辺だから、タンカーで直接運び込む手もありそうだが。

過去には那覇港から北上するパイプラインもあり、その名残で、県道251号那覇宜野湾線に「パイプライン通り」という別名がある。

タンクローリー輸送

成田空港よりも先に燃料不足がニュース種になった新千歳空港や、厚木基地など、タンクローリーでジェット燃料を運んでいる飛行場は多い。

パイプラインという「不動産」を設置・運用できるのは、そのための投資に見合った輸送需要があり、かつ、パイプラインを設置できる場合。そういう条件が揃っていなければ、タンクローリーで運ぶ方が実現しやすいし、需要の変動に合わせた輸送の増減もやりやすい。

ただし人手は要る。タンクローリー1両で運べる燃料の分量はそれほど多くないから、需要が増えると大変だ。最大容量は消防法の定めにより30,000リットルとされており、ガソリンや軽油の輸送では8,000~20,000リットル程度の容量が一般的であるという。

では、30,000リットル積みのタンクローリー1両で、どれぐらいの給油ができるか。ジェット燃料の比重は0.76~0.8だから、30,000リットルで22.8~24t。これでは、F-35Aを3機、カラの状態から満タンにしたら終わりである(F-35Aの機内燃料搭載量は18,250lb / 8,278kg)。

鉄道輸送

飛行場まで鉄道で燃料を運んでいる事例もある。先に挙げた成田空港は「過去の事例」だが、このほか厚木基地や百里基地も、過去に鉄道輸送をしていた基地だ。

日本国内では現在、横田基地で依然として鉄道輸送が行われている。起点となるのは横浜市の鶴見貯油施設で、そこまでタンカーで運んでくる。そして、鶴見貯油施設でタンク車にジェット燃料を積み込んで、安善駅から鶴見線~南武線~武蔵野線~南武線~青梅線というルートで拝島駅まで、そこから専用線で横田基地に入るルートとなっている。

  • 鶴見貯油施設から安善駅に向かう、ジェット燃料輸送用のタンク車。側面の「JP-8」標記が特徴 撮影:井上孝司

そこで使われているのが、タキ1000形というタンク貨車。もともとは「ガソリン専用」のタンク車だが、横田基地の燃料輸送では、中身はガソリンではなくジェット燃料である。

タキ1000形の荷重は45tだから、それがまるごとジェット燃料なら、F-35A×5機を満タンにできる。「えっ、その程度?」と思われそうだが、タンクローリーと違って連結運転ができるのは鉄道輸送の強み。10両連結すれば450tを運べる計算になる。

これがいわゆる「米タン」だが、定期便が主体の民間空港と異なり、軍用飛行場のフライトの数は決まっていない。オプテンポ(作戦任務のテンポ)が上がれば需要が増えるし、オプテンポが下がれば需要が減る。だから、通常は火曜日と木曜日に走っている米タンだが、それすら走らないこともあるし、火曜日・木曜日以外の日に走ることもある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。