地上にいる飛行機を飛び立たせるためには、さまざまな支援機材を必要とする。そうした支援機材を地上側で用意すると、それだけ地上側のフットプリントが増える。旅客機ならまだしも、設備が整っていない飛行場を拠点とすることもある軍用機では、それはありがたくない。持って歩かなければならない機材が増えるからだ。
内蔵すれば地上側の道具立ては少なくなるが
例えば、ジェット・エンジンを始動する際に必要となる圧縮空気を供給するためのスターター。これを外付けにすると、まずスターターを持ってきて機体に配管をつなぎ、それからスターターを始動して、それでようやくエンジン始動の準備が整う。また、エンジン始動後にはスターターを止めて、配管を切り離す手間もかかる。
逆に、APU(Auxiliary Power Unit)を機体に内蔵させて電力や圧縮空気の供給源とする方が、地上側の機材が少なくなる。F-15のJFS(Jet Fuel Starter)やF-35のIPP(Integrated Power Package)も、考え方は同じといえよう。
艦上戦闘機はラダー内蔵が正解!?
その他の事例としては、乗降用のラダーやタラップがある。機体に内蔵していれば、乗降の際にいちいちラダーやタラップを持ってくる必要がなくなるし、それを機体につける際にぶつけて損傷する心配もなくなる。
特にこれが求められるのが、空母搭載機。昔は例外もあったが、今の艦上戦闘機を見ると、たいていラダー内蔵である。F-35を見ると、艦上運用を想定しているB型やC型は当然ながらラダーを内蔵にしたい。そして、共通性を追求すれば当然ながら、A型も同じ設計を用いてラダー内蔵ということになる。
米空軍は、F-15でもF-16でもラダーを別に用意しているから、それを見る限り、その次の世代の戦闘機でもラダー内蔵を強くは求めなかったかもしれない。
しかし近年の米空軍では、ACE(Agile Combat Employment)という話が出てきて、正規の空軍基地以外のところに迅速展開する運用に力を入れる傾向が出てきている。そうなると、ラダーを内蔵するF-35Aのやり方で正解だった、といえそうではある。
面白いのは、大統領専用機「エアフォース・ワン」のコールサインで知られるVC-25A。普段、大統領が乗降する際にはタラップを着けている。出発時、あるいは到着時に大統領夫妻が外に向けて手を振ってみせる場面をよく見かける。乗降の利便性だけでなく、こういうアピールのしやすさという観点からいっても、露天のタラップは便利そうではある。
しかし、いつ、どこに飛んで行くか分からない大統領専用機のこと。実はVC-25Aは床下貨物室にタラップを内蔵していて、そちらから乗降することもできる。通常は、着地の空港に対して事前にオープン型タラップの準備要請を出すそうだが、それが間に合わない、あるいは準備ができない場合でも、乗降ができるようにするための配慮といえる。
何でも内蔵すれば良いというものでもない
しかし、そんな調子で「あれもこれも」と内蔵するデバイスを増やせば、それは当然ながら機内でスペースを食うし、重量も増える。
すると重要なのは、「機内に組み込まないと困るもの」「機内に組み込む方が望ましいもの」「機内に組み込んであれば嬉しいかなあという程度のもの」「必ずしも機内に組み込む必然性はないもの」の篩い分けであろう。
そこでターンアラウンドの観点からすると、たぶんスターターは内蔵したいものの一つ。急いでエンジンを始動して緊急発進する場面で、これがあるのとないのとでは大違いになるからだ。
昔は、そんなときに火薬カートリッジ式のスターターを使用したものだが、これはどちらかというと最後の非常手段。エンジンの立場からすれば、普通に圧縮空気で始動してくれる方が嬉しいだろう。
あと、軍用機の場合、兵装の搭載はどうにもならない。だが、それ以外に補給する品目は少ない方がありがたいと思われる。理想は「兵装と燃料とエンジンオイルさえ補充すれば飛び立てる」であろうか。
すると、酸素供給系統が問題になる。酸素ボンベを搭載する機体では、そこに地上から酸素を補充しなければならないからだ。所要の機材と人手が増えるだけでなく、そもそも取り扱いが面倒くさい。その点、機上酸素発生装置(OBOGS : On-Board Oxygen Generation System)を搭載していれば、補給の手間が省ける。
アビオニクスの故障はできるだけ避けたいが、ゼロにできると断言するのも無理がある。しかしこれは、自己診断システムで不具合の有無を確認した上で、当該LRU(Line Replaceable Unit)をすげ替えれば解決できる。
以前に取り上げたサーブ39グリペンでも、迅速な再発進を可能にする仕掛けのひとつに、組み込み自己診断システム(BITE : Built-In Test Equipment)を挙げている。ちなみにグリペン、機体が小型だからか、乗降用のラダーは外付けだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。