前回、ターンアラウンドタイムの短縮や地上側の支援機材に関わるフットプリントの低減に意を注いだ事例として、サーブの戦闘機を取り上げた。これは特に目立つ事例だが、ターンアラウンドタイムは、長いよりも短い方が良いに決まっている。なにも戦闘機に限らず、その他の軍用機でも民間機でも同じだ。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

軍用機は吊るしものに時間がかかる

どんな飛行機でも、まず燃料補給や点検、故障や破損が生じた機器の交換が必要になることに変わりはない。ただし、軍用機と民航機では用途が異なるから、「飛行機としての機能」に関わる部分以外では、ターンアラウンドタイムの長短に関わるファクターが違ってくる。

軍用機のうち戦闘機や爆撃機では、仕事をするのは搭載する兵装だから、射耗した兵装を積み込む、いわゆる再武装の作業が不可欠になる。小型で軽いものなら、前回にも書いたように人力で運んできて取り付けることができるが、大抵はドリーに載せて運んできて、吊り上げて、あるいは持ち上げて搭載する。

すると、その搭載作業をどれだけ迅速に行えるかが問題になる。爆弾1発を搭載する際の手順は、爆弾が小さくても大きくてもあまり違わないから、2,000lb爆弾を1発搭載するのと、500lb爆弾を6発搭載するのとでは、数が多い方が不利になりやすいだろう。

といった考えによるのか、米軍が開発した小型誘導爆弾GBU-39/B SDB(Small Diameter Bomb)では、爆弾4発をまとめて搭載するBRU-61/Aという兵装架が用意された。ここにあらかじめ、4発のSDBを取り付けておけば、あとはそのBRU-61/Aを機体に取り付けるだけで済む。

  • BRU-61/Aに4発のSDBを取り付けた状態。ただしこれは搭載訓練用のダミー 撮影:井上孝司

  • BRU-61/Aは、このように搭載する。爆弾を吊るすときに使うのと同じ機構を、兵装架を吊るすために使う 写真:USAF

輸送機や民航機では

では、軍用機のうち輸送機、あるいは民航機はどうか。もちろん兵装は搭載しないが、乗客や貨物の搭載・卸下をどれだけ迅速に行えるかが問題になる。

人間は歩いて乗降してくれるが、人数が多くなれば、それはそれで時間がかかる。ことに民航機の場合、携行している荷物を収容したり、出したりといったところで、意外と時間がかかる。これは、旅客機で旅したことがある方なら理解しやすいと思う。世の中、旅慣れているお出かけ大好き人間ばかりではないのだ。

では、貨物はどうか。

軍用輸送機では、463Lのようなパレットに貨物をまとめて載せるのが一般的。パレットごと載せたり降ろしたりすればよく、これは比較的迅速に行える。パレットはサイズが決まっている規格品で、機種ごとに搭載可能な枚数の上限は決まっているし、固定のための仕掛けも機体側に用意されている。もちろん、重量バランスへの配慮は必要だが、それは事前に計算しておける。

  • 463Lパレットに貨物を載せて梱包した状態。これならフォークリフトで揚搭できるし、輸送機における搭載・卸下はローラーの上を転がせばよい 写真:USAF

民間輸送機では貨物輸送の際に、コンテナを使用することが多い。バリエーションはいろいろあるが、サイズ・形状は決まっている規格品だ。そのコンテナを迅速に搭載・卸下できるように、ローラーの上を転がして移動できるようになっている。

  • 民間輸送機ではコンテナが多用される。コンテナの下に、移動用のローラーが並んでいる様子がお分かりいただけるだろうか 撮影:井上孝司

それと比べると、バラ積み貨物は手間がかかる。ボーイング737の一族、あるいはリージョナル機だとバラ積みしかできない。すると、預託手荷物が揃ったところで、それを機体の横まで運んでいって、一つずつ載せたり降ろしたりしなければならない。狭い貨物室内で荷物を出し入れするだけでなく、動かないように押さえるネットを張る手間もかかる。

あと、上級会員・上級クラスの乗客が持ち込む「PRIORITY」のタグが付いた荷物を、早く降ろせる場所に搭載する必要がある。コンテナなら「PRIORITY」タグが付いた荷物とそうでない荷物でコンテナを分ければ済む理屈だが、バラ積みの方が面倒そうだ。

機内整備もターンアラウンドタイムを左右する

また、民間の旅客機では機内の清掃・整備という作業が加わる。ゴミを片付けて機内を清掃して、さまざまな備品を整えて、座席のリクライニングやテーブルはすべて所定の位置に戻す。もっとも、座席の向きを変える手間がかからないだけ、飛行機は鉄道よりマシかも知れない。

もちろん、座席ごとに備え付ける備品が多くなるほどに、確認・補充・交換の手間がかかる。また、飛行時間が長い長距離国際線では、到着後の機内はなかなか大変なことになっている(察して)。だから、機内整備は短距離の国内線よりも長距離国際線の方が手間がかかるし、それも上級クラスほど作業量が増える。

逆に、いわゆるLCCであればサービスは必要最低限、備品も必要最低限だから、機内整備にかかる手間も少なくできる。なにしろ「飛んでいない飛行機は利益を生まない」から、LCCにとってターンアラウンドタイムの短縮は至上命題。

そして機内食や飲み物の類について、カート単位で迅速に揚搭できるように工夫しているのは御存じの通り。これもターンアラウンドタイムを短縮する工夫の一つとなる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。