前回はシコルスキーのH-53シリーズを取り上げたので、またヘリコプターの話になってしまうが、今回のお題はベル・テクストロンのH-1シリーズ。歴史が長いシリーズだけに、バリエーションも多い。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
発端はモデル204
ベル・ヘリコプター(当時)が、米陸軍の新形汎用ヘリコプター調達計画を受けて開発したのが、社内名称モデル204。これが首尾良くHU-1として採用を勝ち取ったのだが、実際に使い始めてみれば、いろいろと追加の要望が出てくるのはよくある話。そこで、胴体を延長したモデル204B(米陸軍の制式名称はUH-1B)も登場した。
その後、さらに改良を施したモデル205(UH-1D)やモデル205A(UH-1H)、モデル205Bも登場した。ここまでのモデルで使用していたエンジンは、ライカミング製T53ターボシャフトの単発。
ヘリコプターの業界では、エンジンやトランスミッションのような駆動系(ダイナミック・コンポーネント)を流用して、胴体を新設計のものにすげ替えることがある。H-1シリーズも例外ではなかったし、鉄のカーテンの向こう側でもミルMi-8のダイナミック・コンポーネントを流用してMi-24攻撃ヘリができた。
H-1の場合、きっかけはベトナム戦争で武装ヘリコプターの必要性が認識されたこと。ゼロから新規設計するよりも、すでに使用しているUH-1のダイナミック・コンポーネントを活用して機体構造だけ新設計する方が、リスクが少ないし、整備や補給支援の面でも都合が良い。そこで登場したのが、モデル209(米陸軍の制式名称AH-1G)。
UH-1にはヒューイというニックネームがあったので、派生した攻撃ヘリはヒューイコブラと呼ばれるようになった。人や貨物を載せることは考えていないので、視認性を低くするために胴体の幅を最大店細くして、その左右に武装搭載用のスタブウィングを取り付けた。だから外見は別物だが、中核となるダイナミック・コンポーネントは基本的にUH-1と共通している。
ここまで名前を挙げてきたモデルは、すべて単発である。
エンジンが増えた
普通、飛行性能の向上や搭載量の増加を図るためにエンジン馬力を増やしたいとなったときには、パワーアップした新型エンジンを開発して載せる。ところがH-1の一族では、エンジンの数を増やした事例がある。
UH-1とAH-1は「見た目は違うがダイナミック・コンポーネントが共通」だったが、双発型ができたら、今度は「見た目は同じだけどダイナミック・コンポーネントが別物」ということになった。
それがモデル205Aを双発にしたモデル212。米軍では、海軍、海兵隊、空軍がUH-1Nという制式名称で採用した。エンジンはプラット&ホイットニー・カナダ製のPT6T(米軍制式名称T400)が2基。ただしローター・ブレードは2翅のままである。
胴体部分は明らかに「UH-1の一族だな」と分かる形をしているが、エンジンまわりの外形が違ってくる(エンジンの数が増えているのだから、当然、そうなる)。
洋上飛行の機会が多い米海兵隊では、エンジンは2基にして冗長性を持たせたいと考えた。だから、攻撃ヘリを導入する話が出たときにも、米陸軍のAH-1Gをそのまま導入することはせず、双発化したAH-1Jを作らせた。
つまり、同じAH-1でも「見た目は似ていてもダイナミック・コンポーネントが別物」となる。その後、エンジンをパワーアップするとともに、モデル212の改良型・モデル214の駆動系を取り入れたAH-1Tも登場した。
抜本的パワーアップ型ができた
米海兵隊はさらに、AH-1TのエンジンをT700(陸軍のUH-60やAH-64が使用しているものと同系列)に換装してパワーアップした、AH-1Wを開発した。米陸軍のAH-1は途中からキャノピーを平面ガラスの組み合わせに変更したが、海兵隊は曲面ガラスのままという相違もある。
その後、AH-1Wの能力向上とUH-1Nの代替更新を図るため、攻撃ヘリのAH-1Zヴァイパーと汎用ヘリのUH-1Yを同時並行開発した。見た目は別物だが、ダイナミック・コンポーネントやアビオニクスを共通化することで、コスト低減と支援性向上の実を挙げている。
そして、外側には武装やセンサー機器をゴテゴテと取り付けている。こうなるともはや、最初のHU-1と同系列の機体とは思えない発展ぶりだが、あくまでH-1一族である。
さらに、H-1シリーズはアメリカ以外の国でも人気を博したため、さまざまなバリエーションができた。イタリアのアグスタや日本の富士重工(現SUBARU)が生産した派生型もあり、これらもH-1一族に含まれよう。陸上自衛隊がUH-1Jの後継機として導入計画を進めているUH-2も、その一つ。H-1ファミリーは大家族である。
どうでもいい話だが、米軍のH-1シリーズはシリーズ分類を「Z」まで使い果たしてしまっている。もしもこの先、H-1シリーズの改良型を開発することになったら、どうするつもりだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。