最近、大型の台風が来襲すると、電車が予防運休する場面が多くなってきている。もちろん、飛行機も天候の影響は受けるが、それに対してどんな備えがあるのか、という話をいくつか取り上げてみようと思う。題して「飛行機とお天気」。

前面の窓にワイパー

自動車や鉄道車両なら、雨や雪が降っている時に前方の視界を確保する目的で、前面の窓ガラスにワイパーがついている。実は飛行機でもワイパーをつけている機体が案外と多い。

例えば、空港の展望デッキに行って、スポットにつけている機体を見下ろしてみると、よくわかる。以前は、使用しない時はワイパーのアームが横向きの位置で止まっている機体が多かったが、最近は空気抵抗を減らすために縦向きの位置で止める機体が増えている。

  • ボーイング777の風防をアップで。ワイパーが横向きの状態で停止しているのがわかる。たまたま、この時にパイロットが窓を開けて、そこから手を出して「窓拭き」をしていた(もちろん飛行中にそんなことはできない)

  • こちらはエアバスA350-1000。背景が黒いのでわかりにくいが、停止しているワイパーは縦向きになっている。最近はこちらが主流のようで、ボーイング787や三菱MRJも同様である

というわけで、旅客機にワイパーがついていても驚くことではないのだが、これを書くために手持ちの写真をいろいろ調べてみたら、旅客機以外でも出るわ出るわ。米空軍のB-52H爆撃機でも、ちゃんとワイパーがついていた。

さらに調べてみたら、固定翼機はいうに及ばず、ヘリコプターでもワイパーが付いている。手持ちの写真で確認できたのは、米陸軍のCH-47Fチヌーク、米海軍のMH-60Rオーシャンホーク、航空自衛隊のUH-60J、米海兵隊のUH-1Yヴェノムなどといった面々。

面白いのはV-22オスプレイで、ワイパーがついているのだが、その前方にカバーを取り付けて、ワイパーに気流が直撃しないようになっていた。クルマの業界でいうところのコンシールドワイパーみたいなものか。普通のヘリコプターと比べると速度が速いからだろうか?

ワイパーがないのを確認できたのは、F-15イーグル、F-16ファイティングファルコン、F-22ラプター、F-35ライトニングIIといった戦闘機。それと、大型機ではB-1Bランサー爆撃機やB-2Aスピリット爆撃機。

そもそも、当節の戦闘機の風防は平らではなく、2次曲面だったり3次曲面だったりするので、ワイパーをつけたところできれいに拭き取れない。B-1BやB-2Aも事情は同じだろう。それに、F-22やF-35やB-2みたいなステルス機の場合、風防の前面にワイパーなんぞ取り付けたら、それだけでレーダー反射が急増してしまう。

戦闘機や攻撃機の中には、ワイパーはないものの、風防の下のところから高圧空気を吹き出して水滴を吹き飛ばす仕掛けをつけているものがある。もっとも、これも風防が2次曲面だったり3次曲面だったりすると、効果は薄れそうではある。結局、飛んでいる時の空気の流れで水滴を吹き飛ばすのが現実的ということだろうか。

エンジン空気取入口にワイパー

ちなみに、窓と関係ないところにワイパーをつけている飛行機が1つある。F-117Aナイトホークである。

F-117Aはステルス性を高めるための工夫の1つとして、エンジン空気取入口にメッシュ状のカバーを取り付けた。メッシュの隙間はレーダー電波の波長より小さいから、そこを通ってエンジンにレーダー電波が飛び込むことがなく、結果としてエンジンからのレーダー反射を防げるという理屈。どこかで聞いたような話だと思ったら、電子レンジの扉についているメッシュと同じロジックである。

ところが、そんなものをつければ当然ながら空気吸気の効率が悪くなる。しかも、メッシュの表面に雪や氷、あるいはその他の付着物がついたら、ただでさえ良くない空気吸入の効率が、ますます悪くなってしまう。

そこでF-117Aでは、空気取入口の表面についた異物を取り除くためのワイパーをつけた。これもある意味、「お天気対策」ではある。ちなみに、F-117Aの風防にはワイパーはついていない。

氷結検知センサー

主翼まわりの氷結に備えた対策については以前に書いたが、それ以外のところでも氷結が問題になることがある。

F-117Aに限らず、そもそもエンジン空気取入口の辺りに氷結が発生すれば、その氷をエンジンが吸い込んでしまう危険性がある。開発の際にテストはしているが、だからといって氷が飛び込んでもよろしいということにはならない。

そこで機体によっては、氷結検知用のセンサーをつけている場合がある。米空軍のHH-60Gや航空自衛隊のUH-60Jといった救難ヘリコプターが一例だが、氷結を検知する方法が面白い。

この機体、エンジン空気取入口の中に氷結検知用の棒がついている。その棒の固有振動数は、素の状態と、そこに氷が付着して重くなった状態では、当然ながら違いが生じる。それを利用して氷結の有無やその度合を検知して、機内に設けた計器に表示する仕組みなのだという

(これについては以前に「軍事とIT」でも取り上げたことがある)

面白いのは、この氷結検知センサーの計器が正副操縦士席ではなく、その背後のフライト・エンジニア席についていること。そして隣接する形で、除氷装置の操作パネルも設けてある。ついでに、米陸軍の汎用ヘリコプターUH-60Lの機内写真も確認してみたが、同じ場所に氷結検知装置の計器や除氷装置のパネルはついていなかった。

こうしてみると、気候条件が厳しい時でも出動しなければならない救難ヘリコプターだからこそ、氷結に遭遇する可能性が高いので、そこで事故にならないように氷結検知装置を備えているという話になるのだろう。同じ理由で、救難ヘリコプターは航法機材や気象レーダーも充実している。

この辺の事情は特殊作戦ヘリコプターも同じである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。