「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。

近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。

本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。

第8回となる今回取り上げるのは、「セゾンカード」を展開する国内最大級のクレジットカード会社であるクレディセゾンの公式Vtuber「ぺんとす」。担当者である溝上崚平氏に話を聞いた。

  • ぺんとす

「ぺんとす」はどんなVtuber?

ぺんとすは、シリコンバレー出身で東京都世田谷区育ちのペンギンの男の子。現在はクレディセゾンのデジタルマーケティング部に属する編集部の新入社員として働いており、お金やクレジットカードにまつわる情報を届ける「キャッシュレス系YouTuber」として2022年10月にVtuberデビューした。

「元々、ぺんとすは、弊社のオウンドメディア『hintos』内のキャラクターとして2016年6月に誕生しました。現在、オウンドメディア自体は終了していますが、キャラクターマーケティングを行っていきたいという会社の方針もあり、今では、会社の顔として全社を代表する公式キャラクターになっています」(溝上氏)

  • 今回話を聞いた「ぺんとす」担当者の溝上氏

元々がオウンドメディア発のキャラクターということもあり、公式キャラクターになった当初は静止画のみでの登場が主だったという。

それを「動きのあるキャラクター」に進化させ、動画でも活躍させたいという方針に舵を切ったのが、ぺんとすのYouTube進出の第一歩になったという。しかし、ぺんとすを動かすのは一筋縄ではいかなかった。

「初めは、Vtuberではなくアニメーションに挑戦していました。ぺんとすを主人公にしたアニメを作り、YouTube上で公開していたのです。しかし、この作業は制作側に非常に労力がかかる上、準備に多くの時間を必要とするので、タイムリーな情報を届けることが難しく打開策を考えていました」(溝上氏)

【アニメ】キャッシュレス系ぺんぎんYouTuber誕生!?【ぺんとす】

そこで白羽の矢が立ったのがVtuberだ。Vtuberであれば最初に表情のパターン作りにこだわれば、どんな内容の動画でもタイムリーに対応することができる。また、動画の活動を続けていくことを考えると、資金面でもVtuberとしての活動は魅力的な要素だったという。

「アニメーションもVtuberもどちらも良いコンテンツを提供しようと思うとお金がかかるのは当然です。しかし、Vtuberは初期費用を除けば、アニメーションよりも圧倒的にコストを抑えることができます。長く良いコンテンツを作り続けていきたいと考えたときに、流行に乗れ、かつ、コストも抑えられて即時性も実現し、活動の幅が広がるVtuberという選択肢を取るのは自然な流れだったと思います」(溝上氏)

ぺんとすは社内で一番の有名社員

そのような背景からVtuberへ転身したぺんとすだが、Youtube上ではお金やカードに関しての情報を発信する内容の投稿を行っている。特に視聴者からの人気が高いのは「若年層への金融教育」系コンテンツだという。

「弊社は、ぺんとすを活用した金融教育に加えて、次世代を担う子どもたちが正しい金融知識を身に付けて自立した消費者となってもらうために、全国の学校で金融教育の出張授業を行う『SAISON TEACHER』という取り組みを行っています。『SAISON TEACHER』は、基本的にクレジットカードをまだ持つことができない中学生や高校生を対象に行われている講習なのですが、これらをすべて無償で提供するくらい若年層への金融教育に力を入れています」(溝上氏)

  • SAISON TEACHER「金融教育プログラム」の様子

アニメーションとして活動していた時代から「キャッシュレス系Youtube」を自負するぺんとすも、そんなクレディセゾンが重要視している金融教育に一役買っているそうだ。

【Vtuber】利用金額の1%が現金で戻ってくるかわいいクレカ?【ぺんとす】

「Vtuberに転身して大きく変わったのは他のVtuberの方とのコラボができるようになったということです。他のキャッシュレス系Vtuberの方のチャンネルにお邪魔して、カードのことやお金のことを話せることで、自チャンネルでは関われなかった視聴者の方にセゾンカードの魅力を伝えられるようになったのはVtuberに転身したメリットの1つです」(溝上氏)

そんな活躍を見せるぺんとすだが、上述したようにクレディセゾンの編集部の新入社員であるため、社内SNSにもアカウントが設置されているという。また、会社の公式キャラクターとして社内の至るところに登場するため、社内での知名度は非常に高いようだ。

「ぺんとすを一言で表すと『社内で一番有名な社員』だと思います。LINEのスタンプが販売されているのですが、プライベートでもそのスタンプを活用している社員も多く、とても愛されているのを感じます」(溝上氏)

  • オフィスに入ると目の前にはぺんとすの着ぐるみが! 溝上さんとツーショット

社員のみで構成された外注一切なしの「Vtuber運営チーム」

ここまでぺんとすの活躍について伺ってきたが、実はこの活躍の裏側を支える運営チームは社員のみで構成されている。つまり、クレディセゾンは自社Vtuberの完全内製を行っている企業なのだ。

「ぺんとすの運営は、私を含めたデジタルマーケティング部の2、3人ですべて完結しています。編集やデザイン、企画などを外注せずに社内ですべて行うことで、時間や費用の削減も実現できていると思います」(溝上氏)

社員2、3人のみでVtuberを運営するとなると大忙しになってしまいそうだが、チーム内にはデザインや編集などを行う専門の社員が在籍しているといい、この方の存在がクレディセゾンのキャラクターマーケティングを大きく前進させたのだという。

今後は、社内の知名度と同じくらい世間の認知度拡大に努めていきたいそうで、キャッシュレス系Vtuberとして今までチャレンジしたことがないようなさまざまな企画に挑戦していきたい、と今後の展望を語ってもらった。

最後に、社内でVtuberの導入を検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。

「新型コロナウイルスの流行で動画配信プラットフォームは大きく需要を伸ばしました。その期間に企業として公式のYoutubeチャンネルを開設した方々も多いと思います。そんな企業の中で今、コンテンツに困っている企業があれば、ぜひVtuberというジャンルに挑戦してみてほしいと思います」(溝上氏)