「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。
近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。
本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。
第7回となる今回は、静岡県でWebサイトの制作やスマートフォンアプリの企画・設計を行うIT企業であるユピテルプラスの公式Vtuber「葵わさび」本人に話を聞いた。
「葵わさび」はどんなVtuber?
葵わさびは、2019年4月にユピテルプラスに「バーチャル広報社員」として入社したAGM事業部所属のユピテルプラス社員。YouTubeチャンネルでの動画投稿を中心に活動しており、ユピテルプラスも居を構える「静岡県」をもっと盛り上げるべくPR活動を行っている。
「葵わさびという名前は社内でいくつも候補を出して考えました。そして、静岡県の特産品である『わさび』と弊社のオフィスがある静岡県葵区の『葵』を名前に入れた今の名前に決定しました。静岡県の特産品の「わさび」ですが、漢字で書くと「山葵」と書き、こちらにも「葵」の文字が入っているため、ダブルミーニングで静岡県らしさを感じることができる名前になっています」(わさび氏)
普段の活動内容も、歌ってみた動画やゲーム実況など、Vtuberらしい活動もさることながら、「静岡あるある」や「静岡クイズ」、「静岡茶を120%たのしむ動画」など、静岡県にまつわる企画が多く投稿されている。
静岡 VTuberが語る!思わず共感する 静岡 あるある
また、地元の飲食店を紹介するCMに登場したり、リニューアルオープンした静岡の観光名所のレポートを投稿したり、と周りも巻き込んで地元を盛り上げている様子が伝わってくる。
ここまで静岡愛の感じられる葵わさびだが、なぜ一企業であるユピテルプラスが自社のPRのみならず、静岡全体を盛り上げるご当地Vtuberとして葵わさびをデビューさせたのだろうか?
企業として「ご当地Vtuber」を運営する理由
元々ユピテルプラスは、車載機器メーカーであるユピテルのグループ企業として、ユピテル関係のECサイトの運営やWebサイト制作、スマートフォンアプリの開発などを行う企業だったという。
「弊社は8割がユピテル関連の業務ということもあり、われわれの仕事内容があまり外部から認知されていないのではないかと思ったのが、葵わさび誕生のきっかけです。当時、ユピテルが車載製品開発の枠組みから飛び出してARやVRといった分野の研究開発を進めており、弊社としてもバーチャル領域で何かできないかと考えた結果、会社としてVtuberを運営するという考えにたどり着きました」(わさび氏)
こういった背景のもと、ユピテルプラスのVtuber事業はスタートした。そして、葵わさび自身をはじめ、静岡生まれ静岡育ちの社員が多く在席していることから、ぜひ静岡もアピールしたいと思い立ち、自社に加えて、静岡県に関するコンテンツも制作することになったのだという。
「また私の主観ですが、静岡県は企業所属のご当地Vtuberが特に多い印象があり、それにならったという側面もあります。リスナーの方も重複することが多いので、コラボ企画などは喜んでいただいていると思います」(わさび氏)
たまに会社の広報活動も行っているが、「すでに葵わさびの存在自体が会社のPRになっている」とユピテルプラスでは考えており、基本的には静岡のことをメインに紹介するVtuberとして活動しているようだ。
IT企業ならでは! 開発・運用のすべてを自社完結
静岡のご当地Vtuberという特徴を紹介したが、実は葵わさびにはもう一つ大きな特徴がある。それは開発の際の企画、キャラクターデザイン、3Dモデル、動画制作などすべての工程を自社で行ったという点だ。
「弊社は20名程度の少数精鋭の企業なので、葵わさびに関しても社員全員で運用しています。開発時もそうでしたが、IT企業としてのノウハウをフルで生かし、現在の活動も編集やイラスト、音声など全て弊社内で完結する形で運用を行っています」(わさび氏)
企業内で作業を完結させていることにより、AR/VR/3Dなどの技術獲得と開発への応用ができるようになったり、効果的に告知などが行えるようになりフォロワーおよびエンゲージメントの向上につながったり、という社員の成長にもつながっているという。
また、「面白いことをやっている会社」というイメージを持ってくれる人が多く、新卒の申込みが増加するなど、嬉しい効果もあったようだ。
最後に、今後社内でVtuberを導入するか検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。
「Vtuber活動を通して当社を知っていただけるようになったことが、一番の利点と思っております。弊社ではVtuberのキャラクターデザイン、3D制作、動画制作も自社で行っており、自分たちが出来ることを積極的に発信できるようになったことで、興味をもってくれる方や新たなつながりが増えたことが非常に嬉しいです。また、ご当地Vtuberとして地元の事を積極的に発信することで、企業と地元がつながるきっかけができたことも非常に良い点と感じております。迷っている方がいましたらぜひチャレンジしてください!」(わさび氏)



