メタバース事業に参入するにあたり、最初の一歩はどうすればいいのか。早くも4回目を迎えた今回は、メタバースに興味がある多くの方が悩むであろう疑問に答えていく。

「メタバースありき」の企画でないかを確認する

最初に問いたいのは、推進しようととしているメタバース事業が「メタバースありき」になっていないか、ということだ。

メタバースを用いること自体が目的化した事業は、高確率でユーザーに利用されない。それもそのはずで、そうした企画ファーストな事業は、ユーザーの需要を無視しているからだ。

メタバースを活用するほうが、既存のソリューションより優位であることを示せているかどうかをしっかり考えることが、メタバース事業への参入にあたり、まず取り組むべきことだ。

もちろん、何が求められているかを知るには、エンドユーザーの声を聞く必要がある。「メタバースにユーザーがいない」とは多くの人が持つ勘違いであり、『VRChat』や『Roblox』のような人気プラットフォームには、数千万人〜数億人のユーザーが存在し、日本国内に限っても数百万人単位のアクティブユーザーが存在することは、これまでにお伝えした通りだ。

であれば、担当者がやるべきことはひとつ。実地調査だ。人のいる既存プラットフォームを訪れ、プラットフォームの特性やユーザー属性、そして需要を知ることが必要になる。それも、「企業の担当者」としてヒアリングしに行くのではなく、いちプレイヤーとして遊び、そこで得られた友人に、何気なく聞いてみるのがベストである。

そして大事なのは、情報だけでなく、なぜそこにいるユーザーが日々楽しく暮らしているのか、肌で理解することだ。日常的に触れることでつかめる「メタバースの空気」にこそ、成功につながる糸口が隠されているからだ。その人にとっていかにその生活が重要であるか、優先度が高いものであるかは、対話をしたり、自身で実感したりしてみないとつかめないことも多い。

まずはスモールスタートでチューニングから

実地調査を経て、自らも住人の視点を得たところで、いよいよ事業を動かすフェーズに入る。その際、大掛かりなプロジェクトを立てるよりも、スモールスタートで1回チャレンジしてみることががおすすめだ。

その理由は、調査段階で得られた肌感が、コミュニティの肌感と合致しているとは限らないためだ。実地で得られた知見や、ユーザーの声をもとに立てた仮説が、企画を通して正しかったかどうかを検証し、肌感をチューニングしていくことで、より効果的な施策につながっていく。

メタバースに限った話ではないが、新しい領域で事業を展開する際は、プロダクトアウトではなくマーケットインで進める方が立ち上がりが早いし、数字もよくなるものだ。

こうした理由ゆえに、打つべき企画に正解はない。発信力の長けたコンテンツや人がいるならイベント開催が効果的だろうし、知名度が高い、あるいはユーザー人気が高い自社物品があるなら3Dアイテムの作成・販売が有効かもしれない。

もし、著名な空間を所有しているなら、それを3DCG空間化する方が注目されるだろう。自社の強みとコミュニティの肌感が合致したときこそ、多くの注目が集まる施策が生まれる。

需要を押さえ、ベンチマークとKPIを定める

より実践的な話へ移ろう。前節でもお分かりいただけたと思うが、思想だけでは事業を作れない。もちろん、大きな軸としての思想は重要だが、事業としてドライブさせていくには、それに頼りすぎてはいけない。

そのために、まずはターゲットセグメントに存在するユーザーの需要をしっかり調べ、見定めるべきだ。重要なのは、需要を調べることだけでなく、ユーザーづてに知った「本当にほしいもの」によって、自らの思想バイアスを除去することである。

また、実施企画のベンチマークは必ず定めるべきだ。ベンチマーク先のイベントやプロダクトを定めたらまずはそれをしっかりと焼き回すのが理想的だ。このとき、不用意にアレンジを施さず、ちゃんと焼き回すことを意識してほしい。もちろん、ベンチマークを見出す際に、実地調査の経験が生きてくる。

そして、KPIは事業の初期段階であっても、測定可能な定量的な数値の導入を検討してほしい。これはどちらかと言えば、社内における説得力を上げるためだ。「どんな数字を出せば次に進めるか」を示す指標は、どの業界の企業であっても重要なはずだ。

とはいえ、2021年から始まったメタバースブームに乗じて参入した結果、上記のような観点を持てないまま事業を続けてしまい、方針や戦略の再策定を余儀なくされている担当者も多いはずだ。ここからどうすればいいかお悩みの方は、ぜひ個別に相談いただければ幸いだ。現状を把握した上で、ベストな道を一緒に考えさせていただきたい。

新しい領域だからこそ、たしかな数字が重要

メタバース事業の担当者にとって、最初に重要となるのは社内信頼の積み上げだろう。まだまだ目新しい領域である以上、決裁を通すためには事業への信頼が第一になるはずだ。

そして、信頼を得るための最も確かな足がかりは数字だ。「この数字が出せたら次のフェーズへ進む」と社内コンセンサスが得られていれば、打つべきアクションも明確になり、事業推進もスムーズになる。

幻滅期を超えた2025年現在のメタバース領域は、人気のプラットフォームで、着実な成長が続いている。いまメタバース事業に取り組む担当者は、将来的に既存事業を超える、会社の新たな柱を作る立役者になるかもしれない。

だからこそ、最初の一歩で確かな数字を示し、社内の注目と信頼を集めることで、より大きな取り組みへとつなげていくことが大切だ。この原則さえおさえておけば、メタバース事業でたしかな一歩が踏み出せることだろう。

著者 株式会社V 代表取締役 藤原光汰

AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上げを担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、複数のコンシューマー向けサービスを開発。人気ゲームタイトルでアジア最大ユーザー数のコミュニティを運営。