-

大質量原始星G06.795-0.257の解析結果。(左)上段は、検出されたゼーマン分裂の大きさと、先行研究の実験室分光で得られたゼーマン分裂係数を用いて換算した磁場の強さ。下段は、5年間の観測データを平均して得られたスペクトル。赤と青の枠は、それぞれ右図の赤矢印と青矢印が指す領域に対応。(右)先行研究による、メタノールメーザーの放射領域の空間分布。大質量原始星の周囲を回転する円盤上から発する円盤風から放射されていることが明らかにされている (クレジット:Moriizumi et al.) (出所:NAOJ WebサイトニュースリリースPDF)
太陽質量の8倍以上の大質量星は、周辺環境に大きな影響を与えるため、銀河の進化を理解する上で非常に重要な天体と考えられている。しかし、大質量星の形成領域は観測が難しく、その形成過程には未解明の部分が多く残されていた。
茨城大学と国立天文台は、前者が運用する日立32m電波望遠鏡を用いて、大質量星の形成領域にある原始星「G06.795-0.257」近傍から放射されると考えられている周波数6.7GHzの「class II メタノールメーザー」の「ゼーマン分裂」(磁場の影響による左右の円偏光のスペクトル周波数におけるずれ)を観測。大質量星形成領域内において、近年、星の形成で重要視されている磁場の検出に成功したことを、10月29日に共同発表した。
同成果は、茨城大大学院 理工学研究科の森泉怜大学院生、国立天文台 水沢VLBI観測所の廣田朋也准教授、タイ国立天文学研究所 電波天文学工学センターの杉山孝一郎マネージャー、茨城大 理学部附属 宇宙科学教育研究センターの米倉覚則教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
“太陽より重たい”原始星の周りの磁場構造を解明へ
茨城大では、大質量星の形成領域にある原始星近傍から放射されているとされる、6.7GHz classII メタノールメーザーの観測を2013年から毎日実施している。なおメーザーとは、レーザーのマイクロ波版であり、位相・周波数・波形の揃ったコヒーレントなマイクロ波を指す。
ゼーマン効果とは、磁場が存在することで左右の円偏光のスペクトルに周波数のずれが生じる現象を指す。このずれは磁場の視線方向成分の強度に比例するが、メタノールの磁場への応答が微弱なため、6.7GHzメタノールメーザーではこの周波数のずれが非常に小さく検出が困難だった。
そうした中で研究チームは今回、2017年から2022年の5年間にわたって行われた、左右の円偏光の同時観測で得られた2つの偏光モードのスペクトルをそれぞれ平均することで、ノイズの極めて少ない高品質なスペクトルを取得することに成功。双方の平均スペクトルの類似性を表す「相関関数」の計算手法を用いて、ゼーマン分裂の検出を試みることにしたという。
今回の研究成果
研究の結果、メタノールメーザーを十分な明るさで検出できた103天体のうち、62天体でゼーマン分裂が検出された。このうちの38天体は、今回の研究で初めて検出された天体である。また、一部の天体では、異なる放射領域間でゼーマン分裂の大きさが顕著に異なることが確認された。
大質量原始星「G06.795-0.257」においては、2016年時点でメタノールメーザーが大質量原始星の周囲を回転する円盤上から吹き出す円盤風から放射されていることが確認されていた。2か所から検出されたメタノールメーザーは、その2か所がそれぞれ異なる方向に運動しているため、ゼーマン分裂の符号が異なっていることが確認された。
また、先行研究で得られたゼーマン分裂係数を用いて磁場への換算を行った結果、磁場の視線方向成分の符号も異なることが判明し、大質量原始星の周囲を回転する円盤の影響で磁場がねじられ、複雑な磁場構造が形成されている可能性が示されたという。
しかし、別の先行研究では、理論化学的手法を用いてメタノールのゼーマン分裂係数の導出を行い、メタノールの超微細構造を考慮することで、放射領域ごとに異なるゼーマン分裂係数を持ち得ると主張されていた。そのため、磁場の強さや向きが同じであっても、領域によってゼーマン分裂の大きさや符号が異なる可能性があるとした。従って、今回検出されたゼーマン分裂から磁場の強さや構造を推定する際には、ゼーマン分裂係数に由来する不確定性を考慮する必要があるとしている。
研究チームは今後、日立32m電波望遠鏡を継続して使用し、6.7GHzに加え12.2GHzなどの他の遷移のメタノールメーザーについても観測を行う計画だ。複数の周波数でゼーマン分裂を同時検出できれば、それを比較し、実験的に求められたゼーマン分裂係数と理論的に求められたゼーマン分裂係数のどちらが観測結果をよりよく説明できるかを検証でき、不確定性の解消につながるとした。これにより、大質量原始星の周辺環境における磁場構造の理解がさらに深まることが期待されるとしている。