産業技術総合研究所(産総研)は、電子情報技術産業協会(JEITA)をはじめとする産学官の関連機関と協調し、長年蓄積してきたウェハ品質評価およびデバイス信頼性評価の知見を結集。SiC(炭化ケイ素)パワー半導体の普及拡大に向け、「X線トポグラフ(XRT)法」によるSiCエピタキシャルウェハの欠陥試験方法を規定した国際規格「IEC 63068-5」の発行に寄与したことを、10月27日に発表した。
SiCが抱える課題と、規格発行までの道のり
さらなる電力損失の低減に向け、パワー半導体の需要が急増している。その代表格がSiCであり、その高効率性と高信頼性の両立が強く求められている。これまで、光学検査手法およびフォトルミネッセンス(PL)法の国際標準化により、SiCエピタキシャルウェハの品質評価手法が体系化され、ウェハ品質の向上とともにSiCパワーデバイスの社会実装が進展してきた。
しかし、デバイスの歩留まりや信頼性を一層向上させるには、SiC結晶中に従来手法では検出困難な「デバイスキラー欠陥」が存在するという課題が残されていた。XRT法は、同欠陥をウェハ全体で可視化できる点が特徴で、従来手法では捉えきれなかった信頼性阻害要因を明確化し、ウェハ品質評価の精度を飛躍的に高められるという。
これにより、ウェハ品質評価技術をウェハ製造プロセスへ適切にフィードバックできるようになり、SiCエピタキシャルウェハ品質のさらなる向上が期待される。その結果、欠陥に起因するデバイス性能のばらつきや信頼性低下が抑制され、高性能かつ高信頼なSiCパワーデバイスの実現が加速する。
さらに、国際的に整合した品質評価基盤の確立を通じ、電動車や電力インフラ分野におけるSiC製品の普及を促進し、電力利用効率の向上によるCO2排出削減や国内パワー半導体産業の競争力強化に寄与するとしている。
今回の研究成果
産総研は、SiCエピタキシャルウェハに存在するデバイスキラー欠陥がデバイスの歩留まりや信頼性に与える影響に着目し、2001年頃から長期にわたってウェハ品質とデバイス信頼性との相関に関する研究に取り組んできた。しかし当時は、欠陥の定義や検査手法が統一されておらず、機関・企業ごとに異なる基準が用いられていたため、欠陥起因の課題を共通基盤のもとで議論することが困難な状況だったという。
この課題を解決するため、2010年度に開始された新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトにおいて、欠陥分類の整理や光学検査手法、PL法、XRT法といった複数手法の相関評価、欠陥とデバイス特性の関係解明を進め、欠陥評価の基礎的枠組みを産学連携により構築。さらに2015年度以降は、経済産業省の委託事業のもとで結晶欠陥評価手法の国際標準化活動を本格化させ、JEITA規格の開発と並行して国際電気標準会議(IEC) TC 47/WG 5において海外専門家と協議を重ね、技術仕様の国際整合が進められた。
その結果、2019年に欠陥分類および光学検査手法、2020年にPL法、2022年に両手法の統合評価の規格が順次発行され、SiCウェハ品質の向上とデバイスの社会実装に大きく貢献した。一方で、新たな課題として顕在化したのが、これらの手法では検出しにくいデバイスキラー欠陥への対応だった。
そこで産総研を中心に、従来は困難だった欠陥を検出できるXRT法の研究開発と試験方法の標準化に向けた一体的な取り組みが行われた。その成果を基に、業界規格であるJEITA規格を制定し、その内容を国際標準規格原案としてIECに日本が提案。IEC TC 47/WG 5での国際審議を経て、「IEC 63068-5」が2026年10月に発行された。
今後、SiCウェハ・デバイスメーカーにおいて、同規格に準拠した品質評価手法の導入が進むことで、従来は検出が困難だった欠陥を含めたウェハ品質の可視化が可能となるという。これにより、品質のばらつきの低減、歩留まり向上、信頼性改善に向けた製造管理が進み、高信頼SiCパワーデバイスの安定供給とコスト低減を通じ、電動車や再生可能エネルギー機器への普及拡大に貢献できるとした。特に、自動車分野では低コスト化への要求が強く、本規格による品質改善を通じたコスト低減が期待されている。
また、耐圧10kVを超える超高耐圧パワーデバイスの実用化が期待される電力インフラ分野においても、ウェハの高品質化による信頼性向上が極めて重要であり、再生可能エネルギー機器の普及拡大と社会インフラの安全性・安定性向上に貢献するとしている。
さらに、この規格は日本で先行して整備されたJEITA規格を基に国際標準化されたものだ。国内企業が蓄積してきたSiCウェハ品質評価技術が国際的な共通基準として活用されることで、日本製SiC製品の信頼性を海外へアピールしやすくなる。これにより、海外市場での競争力向上や高品質なSiC製品の安定供給につながり、日本の半導体産業の強化と経済安全保障の確保にも寄与するとしている。
加えて、光学検査手法、PL法、XRT法の3つの試験方法を統合した欠陥判別法についてもJEITA規格として整備済みであり、この規格を基にしたIEC規格の新規プロジェクトが2026年7月に提案された。その後、2026年7月24日から10月16日まで実施された各国投票において承認され、新たなIEC規格開発プロジェクトとして正式に発足する予定だ。
今後は、IEC 63068-6の国際規格開発を各国専門家と連携して推進するとともに、IEC規格に準拠したSiCウェハ品質試験法を活用した産学官連携の共同研究や技術支援を展開していく。また、学会やセミナーなどを通じた普及活動を進めることで、国際標準の定着とさらなる高度化を図るという。これにより、SiCウェハ品質評価の国際標準体系の完成に向けた取り組みが大きく前進し、高性能・高信頼なSiCパワーデバイスの実現を支える品質評価基盤の強化が期待されるとしている。
