インフラ構造物やプラント・工場設備の維持管理では、現場の状態を正確に記録し、その情報を発注者(施設管理者)、点検事業者、施工事業者など、複数の関係者で共有する必要がある。しかし、従来の写真撮影では位置や向きがわかりにくく、図面では複雑な現況を十分に表現できないことがあった。特に、橋梁下面や地下構造物、狭あい部、配管・機器が複雑に配置された設備空間では、確認のたびに現地へ赴くことも大きな負担となっているという。

東北大学とXMATは、360度カメラやドローンなどで撮影した画像から、現場を高精細な三次元空間として再現する「3Dガウシアン・スプラッティング(3DGS)技術」の開発・実用化を進め、同技術が「ガウシアンスプラッティング法による高精細3Dモデル生成」として、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に全国で初めて登録されたことを、10月6日に共同発表した。

  • 点群(左)と3DGS(右)のイメージと特徴の比較一覧 (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    点群(左)と3DGS(右)のイメージと特徴の比較一覧 (出所:東北大ニュースリリースPDF)

同成果は、東北大 未来科学技術共同研究センターの吉川彰教授、同・佐藤浩樹特任准教授、同・井上憲司特任准教授と、XMATの面政也代表取締役らの共同研究チームによるもの。

現場を手軽に高精細3Dモデル化する技術開発へ

社会インフラ設備や各種プラントなどの点検・調査・補修では、従来は画像、図面、動画、点群データなどが活用されてきた。しかしこれらの技術は、撮影位置や周辺との位置関係のわかりにくさや、複雑な現況を十分に表現できないなどの課題を抱えていた。また、レーザースキャナなどによる高精度な三次元計測には、高価な専門機器や計測作業が必要となる場合があった。

こうした背景から研究チームは今回、より手軽に現場を三次元化し、撮影時点の構造物や設備、周辺環境などを臨場感のある空間として記録・共有する技術として、3DGSを活用した高精細3Dモデル生成技術を開発することにした。

3DGSは、点の集合で形状を表現する点群データとは異なり、撮影画像の色彩や質感などを活かして三次元空間を表現するため、実際の現場に近い高い視認性が得られる。また、高密度な点群と比較してデータが軽量で取り扱いやすく、専門的な三次元データに不慣れな利用者でも、構造物や設備の状態、周辺との位置関係を直感的に把握しやすいことも特徴だ。

今回の研究成果

今回開発された、3DGSを活用した技術は、高価な専用3D計測機器を前提とせず、市販の360度カメラや一般的なカメラで撮影した画像から3DGSモデルの生成が可能だ。そのため、機材面での負担を抑えられ、容易にデータ取得を行えることから、三次元技術導入のハードルを大幅に下げることができる。

さらに、独自開発の無料ビューワーを利用することで、高性能な専用ワークステーションや専門的な点群処理ソフトウェアを必要とせず、市販の一般的なノートパソコンでも3DGS空間の閲覧や操作を行えるようにした。これにより、三次元データを一部の専門技術者だけでなく、発注者や施設管理者、点検事業者、設計事業者、施工事業者などの幅広い関係者の間で利用・共有できるようになった。

  • 今回開発された技術の運用イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    今回開発された技術の運用イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

一方で、画像から生成される3DGSモデルは、そのままでは実空間に対応した寸法基準を持たないという課題もある。そこで今回の技術では、撮影時に寸法が既知の基準寸法治具を空間内に配置し、その寸法を基準として3DGS空間全体のスケールを整合させる独自手法が採用された。これにより、ビューワー上で、対象物の長さや距離などを実寸法として計測することも可能となっている。

加えて今回の技術では、3DGSモデルをビューワーで閲覧するだけでなく、点検画像、損傷記録、非破壊検査結果、コメントなどを三次元空間上の位置と関連付けて管理・共有できる点も特徴だ。

従来は、関係者がそれぞれ二次元ベースの報告書や図面を作成・管理してきた。それに対し今回の技術では、それらの成果を3DGS空間上の位置を共通の基準として関連付けることで、複数の事業者が作成した情報を1つの三次元空間上で確認できる仕組みとなっている。

これにより、「報告書から現場の場所を探す」情報管理から、「三次元化された現場から、その場所に関連する情報を確認する」情報管理への転換が期待できるとしている。また、関係者が同じ3DGS空間を共有することで、現場状況の共通理解や遠隔での協議にも活用できる見込みだ。

  • 今回開発された技術の具体的な適用イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    今回開発された技術の具体的な適用イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

さらに、3DGS空間からは任意の視点で「オルソ画像」(遠近法による見かけ上の大きさの変化を抑え、対象を一定の縮尺で表現する正射投影画像)を出力でき、点検図や補修設計図などを作成する際の素材として利用できる。応用例として、出力したオルソ画像を生成AIなどに適用し、構造物の輪郭やライン特徴を抽出することで、図面作成を支援する基礎資料として活用することも可能にした。

今回の技術の主な活用シーンとしては、現地踏査、点検、補修設計、施工計画・施工管理、維持管理、施設紹介、防災教育などを想定している。

  • オルソ画像出力機能を応用した図面作成支援イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    オルソ画像出力機能を応用した図面作成支援イメージ (出所:東北大ニュースリリースPDF)

研究チームは非破壊検査技術とAR技術を組み合わせ、計測結果を位置情報とともに可視化する技術を、2022年にNETISに登録済み。今回の3DGS技術は、こうした現場情報を位置と結び付けて記録・共有する研究開発を、三次元空間へ発展させるものとなる。

今後は、ARを「現地で情報を取得・表示する技術」、3DGSを「現場をデジタル空間として保存・閲覧・共有する技術」としてそれぞれ高度化し、両技術を連携させていくという。これにより、現地踏査や点検、調査、補修設計、施工、維持管理の各段階で得られる情報を継続的につなぎ、非破壊検査・AR技術と3DGS技術を融合することで、インフラ構造物や各種設備の維持管理に新たな付加価値を創出することをめざす。