KPMGコンサルティングは10月9日、「人流・物流データの利活用の現状と今後の展望~AI・デジタルツインが変える意思決定と防災を支える地域運営~」と題した記者勉強会を開催した。登壇したのは同社 Business Innovation Smart City アソシエイトパートナーの大島良隆氏と、同 シニアマネージャーの平田篤郎氏だ。
データに基づく意思決定の重要性
冒頭、大島氏は、現在データ分析が求められる理由を説明した。社会の変化に伴い、勘や経験だけに頼らないEBPM(Evidence-Based Policy Making、証拠に基づく政策立案)が求められているという。
一例として挙げたのが、地域交通が直面する社会課題だ。人口減少が続くなか、従来の交通サービスを維持できなくなる事態も生じている。その際、「あそこはあまり使われていないよね」というような勘でサービス継続の可否を決めるのではなく、データに基づき、自治体や住民が合意形成をしていくことが重要なのだ。
地域交通の課題は人口やドライバーの減少だけではない。人口減少に対応し、地域をどのようにコンパクトにネットワーク化するかという課題もある。ワーケーションやインバウンド観光といった新たな移動ニーズへの対応も必要だ。
「このような課題の解決に際し、客観的なデータに基づくEBPMが重要になるのです」(大島氏)
では具体的にはどのようなデータがあるのか。同氏はレシートなどの個人の購入記録や、店舗の販売記録、交通手段の運行記録などを挙げた。これらのデータから行動変容のきっかけを捉え、地域の需要を探ることが大切だと強調した。
データを掛け合わせ、分析からアクションにつなげる
ここから話題は人流データに移った。人流データとは、人の移動や滞在に関するデータを指す。主に、ある地点を通過する人数を把握する「カウントデータ」、ある地点に一定時間留まっている人数を把握する「滞留データ」、ある地点からある目的地まで移動した人数を把握する「ODデータ」、一人ひとりの移動軌跡を把握する「移動軌跡データ」がある。取得方法には、ビーコンやセンサー、GNSS(GPS)、携帯電話の基地局などが用いられる。
大島氏はここで「最近のホットトピックとして、三次元人流データがある」と話した。GPSデータなどから得る緯度と経度に高度を加えることで、建物内や地下空間での移動をより明確に把握できるという。
「まだ一般的な活用には至っていませんが、データの取得はある程度できるようになっています。(従来に比べ)より現実の動きに近いデータが取れるようになるのではないかと期待されています」(大島氏)
前述した地域交通の課題解決には、人流データや公共交通利用実績といった人の動きを捉えるデータに加え、国勢調査データ、施設データなどの町の構造を捉えるデータ、消費データや天候データといった人の活動を捉えるデータ、さらにアンケート調査や現地の人、関係者の声といった定性データも重要になる。同氏はこれらのデータを掛け合わせることで、単独のデータからは見えなかった課題が浮かび上がると述べた。そのうえで、「分析だけで終わらせず、具体的な行動、アクションにつなげることが重要」だとした。
鳥取市での実証事業で分かったこと
KPMGコンサルティングでは「令和5年度 国土交通省人流データを活用した不動産分野等の課題解決実証事業」の一環で、鳥取市で「中心市街地活性化に向けた空き店舗・遊休不動産活用」に取り組んだ。
鳥取市は中心市街地の人流の減少とそれに伴う空き店舗等の増加、ひいては経済活力の低下が課題となっている。課題解決の糸口を探るため、まずオープンデータを基に、人流データを活用して解決する課題を選定。そのうえで、来訪者や回遊者の年代、移動目的などの人流傾向の測定を実施した。
その結果、中心市街地の人流が駅周辺と鳥取県庁周辺の二つの核に集中していることが分かった。また、平日と休日のいずれも、50代以上が半数を占めていた。これを受け、第2弾では中心市街地の中でも空き店舗が多い2つのエリアにおける20~30代の動向に絞って調査を行った。さらに中心市街地の周辺人流の調査も行い、傾向分析を実施したという。
調査から、20~30代は自宅や職場と用事先を往復する移動が多いことが分かった。一方で、一部には「まちなか回遊行動」も見られた。また、通勤前後の買い物や食事を徒歩圏内で済ませる人が多いことも明らかになった。
これらを踏まえ、今回の取り組みでは地域人材やワーケーション人材が参加する遊休不動産活用プログラムを実施。そこから生まれたアイデアを基に、通勤客向けの朝食ブースを平日の朝に設置した。これには町を通過するだけだった人々の滞留を促す狙いがある。加えて、店舗所有者らの不動産活用に対する意欲を高める相談会も開催したという。
また、勉強会では物流データ利活用の例も示された。地場企業の既存輸送ネットワークの余力を起点に、新たな地域輸送需要を取り込み、最適なハブ立地と輸送ルートの決定を目指す取り組みだ。大島氏は「既存ビジネスにAIなどを活用し、新規ビジネスを創出する」と説明。輸送ネットワークを最適化するシミュレーションのデモンストレーションも披露した。
被災地支援にも生きるデータ
地域の課題には、災害発生時の被災地支援もある。平田氏は、能登半島地震で道路の寸断や停電、断水、通信不全などが発生し、被害情報の把握が遅れた例を挙げた。そのうえで、「どこに何があり、どのくらいの配送能力があるのかといった情報がステークホルダー間で共有されていて、あらかじめシミュレートできている状態が理想」だと話す。
このような課題の解決に有用なのが、宇宙や空からのアプローチだ。例えば、衛星画像を撮影・伝送し、被害情報を把握すべきエリアの特定に活用することが考えられる。また、対象エリアへのアクセスルートの被害情報を重点的に調べる際には、ドローンも有用だ。
平田氏は今後、地理データや災害データといったオープンデータと、倉庫データなどの企業データを入力情報として活用する構想を示した。これらのデータを基に、輸送ルートの最適化やデジタル発注システムの統一化を図ることが考えられるという。
「被災地支援の仕組みにはまだまだ改善の余地、伸びしろがあると想定しています」(平田氏)
データを生かした取り組みを進めるために
勉強会の最後に大島氏は、人流データの活用が観光や地域活性化、交通などの分野に偏っており、十分には広がっていないと指摘した。活用のすそ野を広げるには、データを扱える人材の育成が必要になる。コスト面の課題を解消することも欠かせない。さらに、データの取得条件や粒度の整備も求められるという。
「人口が減るなか、今後は地域の中で意思決定をしていくことが重要になります。そのためにも、データを活用できる人材と組織横断の連携が必要なのです」(大島氏)


