
AIによる「見落とし防止」が事業の出発点に
─ 弊社主催の「財界BEST AI 100」で最優秀賞を受賞されたわけですが、そもそもAI(人工知能)を活用して法務分野で起業を考えた経緯を聞かせて下さい。
角田 起業を考えたのは2016年頃のことです。13年に弁護士となってキャリアをスタートし、4年ほど法律事務所で勤めた後、5年目に起業したという流れです。
要因はいろいろありますが、大きかったのは当時、AIが話題になり始めたことです。当時の技術は機械学習、ディープラーニングで、応用例が出てきていて、このAIを法律業務に応用したら、非常に可能性があるのではないかと感じました。
当時すでに、AIが世界トップの囲碁棋士に勝つといった事例が出てきており、相当高度なことができるのはわかっていましたから、あとは応用の問題だろうと考えました。まだその応用をしている人たちがいなかったので、自分たちでできれば面白いのではないかと。
─ 法律分野でAIを応用しようと考えたわけですが、弁護士事務所を辞める時に引き止めはなかったんですか。
角田 ありがたいことに引き止めて下さった先生もおられましたが、自分たちでやってみたいという気持ちは変わらず、森・濱田松本事務所の同期と2人で起業をしました。
─ 当初から仕事は順調でしたか。
角田 いえ、大変でした。まずお客様がいませんでしたから、同時期に設立した法律事務所のお客様を増やすところから始めました。AIの会社の方はプロダクトをつくらなければなりませんから、エンジニアを一生懸命探しました。非常に苦労をして、最初のCTO(最高技術責任者)が入るまで1年くらいかかりましたね。
─ 皆が試行錯誤をしていた時期ですね。この時期にAI活用のメリットをどう説いていきましたか。
角田 当時のAIは「人」の代わりに仕事をするということは相当高度だとわかりました。その代わりに「人」の業務を補助することはできます。当時我々が出していたAIがどういうところで人を補助できたかというと、契約書の見落としや、抜け漏れを瞬時に発見するという部分でした。
AIが人の代わりをする時に得られる経営上のメリットは効率化です。人が契約書を目視で確認するよりも、見落としや抜け漏れを、早く網羅的に発見できる。また、ベテランの社員でも若手でもAIを使えばチェックのクオリティは変わりません。
AIが100%見落とさないとは言い切れませんが、少なくとも人だけでチェックするより見落としが減り、契約書に潜むリスクをなくした状態で契約締結ができる。その結果、安心して事業を進めることができる。これが我々の法務に特化したAIの価値だと考えました。
─ そのAIに価値を感じて顧客が増えていったと。
角田 そうです。我々のお客様は日々契約書をチェックされている方々ですから。法務部門がある大手企業のお客様も多いですが、今は規模を問わず様々お使いいただいています。足元で顧客数は9000社以上です。
─ 起業当初の苦労の後はスムーズに行きましたか。
角田 いえ、毎年何かしら苦労をしています。17年に創業し、18年にプロダクトのベータ版を出し、19年4月に正式版を何とか出すことができましたが、今度は使っていただかなくてはいけません。期待に応えられるクオリティに仕上げていくことも、AIを精度を出すことも大変でした。さらにお客様が使い始めて1年経った後、2年目も継続して下さるお客様が多くいてホッとしたのもつかの間、コロナ禍に突入したという流れですから、毎年何かしら起きます。
皆様に平等に訪れている試練だと思いますが、毎年何かしら大変なことが起きているなというのが実感です。乗り越えたもの、いろいろもがいている状態が続いているものなど様々あります。
─ ここまで事業を進めてきて「よかったな」と感じるのはどういう時ですか。
角田 それは日々思っていますね。自分たちが生み出した新しい価値をお客様にお届けし、それを使っていただけるだけでも嬉しいですし、何かお役に立てたらさらに嬉しいですね。
─ 産業界全般でAI活用は必須になってきましたが、自社のプロダクトへの自信は深まっていますか。
角田 今もなお、環境変化についていかないと足元を掬われると日々思っています。多くの企業に使っていただいていますが、プロダクトもさらに磨く必要があり、絶対の自信はまだありません。
ビジネスは油断するとやられてしまいますから安心してはいけないと思います。自信がないくらいの方が、事業運営においてはいいのではないかと思っています。
ただ、個人としては様々な経験をしてきていますから、大体のことは起きてもハンドルができるという経営者としての自信は少しずつ付いてきています。
─ プロダクトを活用した顧客の声にはどういうものがありましたか。
角田 「リーガルオンのサービスがあるから、日々の法務業務を責任を持って果たせています」ということをおっしゃっていただけたり、「このプロダクトがあって非常に助かっています」、「便利ですね」といった何気ない一言が嬉しいですね。
7つの事業領域で10個のプロダクトを展開
─ 25年7月に約70億円の資金調達を実施していますが、やはり技術開発には資金を必要としているんですね。
角田 そうです。ただ、時代は変わり始めています。プロダクトもAIが開発するようになってきているんです。その意味では、我々が始めた時のソフトウェア開発と今とでは、同じものをつくるだけであれば、今の方が圧倒的に低コストでつくることができるはずです。
また、これまでは調達した資金を技術開発、マーケティング、営業などに使ってきましたが、今後はビジネスの作り方、どこにどれくらい投資をしなければならないかという考え方自体が、おそらくAIによって変わっていくと思います。
─ さらに今、法務分野だけでなく、事業領域を広げつつあるんですね。
角田 そうです。主要7領域と呼んでいますが、これまで手掛けてきた法務に加えて、ガバナンス、営業、HR、ITセキュリティ、マーケティング、経営全般に広げていきます。
それに加えて、「ドキュメントオン」というドキュメント特化AI、「リーガルラーニング」というオンライン法務学習支援サービス、AIキャラクターなど、10個のプロダクトで事業展開をしていくというのが、今の私たちの方針です。
コンセプトは、これらを活用して「AI駆動経営」を実現していくということです。お客様の企業経営をAI駆動化、AIで回るようにするということを実現していきたいんです。
─ 企業のAI活用を支援するコンサルティング会社に近くなりますか。
角田 コンサルティングもしますが、我々が提供するのはAIのプロダクトです。我々のプロダクトを組み込んでいただければ、AIを中心に経営が回るようになるということを提案していきたいんです。
先ほどお伝えした7領域はどの企業の経営にも必要な、共通する機能ですよね。経営のベースとなる機能をAIで支援出来たら、経営者の方々は独自の強みにリソースを集中させることができるので、より会社を成長させることができるようになるだろうと考えています。
まだ、実績はありませんが、このコンセプト自体には手応えを感じています。というより、企業経営がこの方向に向かうことは必然だと考えています。
─ まだ実績はないということですが、どのように実証していこうと?
角田 まずは我々が実験材料となって、経営のAI駆動化を進めるべく取り組んでいます。
事業のオペレーション、AIの進化など、このようにやればAIが中心となって経営が回っていくだろうという理論面は見えてきていますから、あとはそれを実現できるかだと思います。
例えば、当社には社員が約650人いますが、今のビジネスを回すだけならば、AI駆動経営が実現すれば本来必要なのは200人くらいではないかと思うんです。そうなると400人のリソースが浮くので、さらなる成長領域に投入することができるという考え方です。これは大きなポテンシャルではないかと思います。
今は採用が難しく、これがボトルネックとなって新しいチャレンジができないという企業は多いと思います。それが経営そのものをAI駆動化できれば、むしろ今のリソースで会社を成長させることができ、新たなチャレンジにリソースを振り向けることが理論上できるはずです。
─ 全産業的に人手不足が言われますが、採用はますます難しくなりますね。
角田 労働人口が減少する中、大企業も含め中途採用を強化していますから、採用競争は年々激化しています。ですから、経営という観点では採用に成長を依存するのはリスクが高く、コストがかかる状況になりつつあると思っています。その意味でも経営のAI駆動化は急務です。
─ 高市政権が打ち出した戦略17分野の中にAIが入っていますが、角田さんたちの仕事はここにも絡んできますね。
角田 ええ。AIもそうですし、IP(知的財産)も入っており、まさにAI×IPが戦略17分野の中で当社が関わる領域です。IPについては今、キャラクターのAIアシスタントアプリを開発しています。
経営者の仕事は事業を伸ばし続けること
─ 経営の基本軸をどこに置いていますか。
角田 当社のミッションは「全てのプロフェッショナルに驚きと感動を」です。専門性を持って働く人々を、我々のプロフェショナルAIで支えていくということです。
そして法務業務をAIで支える「リーガルオン」はグローバルプラットフォームとして作っています。日本だけでなく米国、欧州、APAC(アジア太平洋)に提供しており、クライアントは日本だけではなく外国のお客様も数百社います。
─ 法務分野以外にも事業領域を拡大しているわけですが、社名はリーガルオンテクノロジーズのままでしょうか。それとも変わる可能性がある?
角田 当社グループにはオンテクノロジーズというAIサービスを手掛ける子会社があります。法務サービスの「リーガルオン」以外は、オンテクノロジーズが提供主体という形にしているんです。リーガルオンテクノロジーズは、そのまま行くと思いますが、オンテクノロジーズのプロダクトが成長していくと、こちらが目立つようになっていくかもしれません。
─ 経営者として心がけていることは何ですか。
角田 経営者の仕事として重要なのは、事業を伸ばし続けることだと思っています。停滞しては駄目ですし、一度伸びたけれど、その後停滞でも駄目なんです。3年後、5年後、10年後も伸びている状態をつくらなければなりません。事業を伸ばし続けられるかというのが経営者の腕の見せ所ではないかと。
この考えは、最初に起業をした時から変わっていません。弁護士は法律のプロ、営業は売るプロですが、経営者の仕事は何だろうかと考えました。一言で答えるとすれば、どんなコンディションであっても事業を伸ばし続けることができる。これがプロの経営者としてのあるべき姿だと思うんです。ですから、会社を伸ばし続けるのが私の仕事だと考えています。
─ AI活用において日本の可能性をどう捉えていますか。
角田 日本はAIの世界で「応用」の領域でどれだけ頑張れるかだと思っており、ここには無限の可能性があります。
製造業、基礎研究、IP、そして今我々が取り組んでいる業務特化の応用もあると思います。労働人口が減少する日本は、AI活用による生産性向上の恩恵をより強く受けることができると思います。