京都大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の両者は4月6日、X線分光撮像衛星「XRISM」を用いて、地球から約1300万光年離れた「コンパス座銀河」の中心にある超大質量ブラックホール(SMBH)周辺の元素組成を精密に測定した結果、SMBHを取り囲むガスと塵の層(トーラス)から放射される「蛍光X線」を詳細に捉えることに成功し、鉄に対するアルゴンやカルシウムの割合が太陽系よりも低く、逆にニッケルの割合が高いという独特なパターンが判明したと共同で発表した。

また、この特徴的な組成が、太陽質量の20倍以上の大質量星の大半が、超新星爆発を起こさずにブラックホールに崩壊する「不発超新星(暗い超新星)」現象と整合することも合わせて発表された。

  • コンパス座銀河中心部のイメージ

    (枠内イラスト)コンパス座銀河中心部のイメージ。SMBH近傍の高温コロナから放出された連続X線(白色)が、それを取り囲むガスとトーラスに衝突し、さまざまな元素からの蛍光X線が発生している様子が描かれている。(c)JAXA (背景画像)ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたコンパス座銀河全体の可視光像。(c)NASA、ESA(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、京大 理学研究科の上田佳宏教授、同・植松亮祐大学院生(研究当時)、東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科の小川翔司助教、同・大学 理学部第一部 物理学科の福島光太郎助教らを中心とする、国内外の140名の研究者が参加する国際共同研究チームThe XRISM Collaborationによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

「不発超新星」現象にも整合する新発見

宇宙に存在する大半の銀河の中心にはSMBHがあると考えられている。このSMBHがどのように成長し、周囲の環境とどう関わってきたのかを理解するためには、その周辺にあるガスの元素組成を調べる必要がある。水素とヘリウム以外の元素の多くは、星の核融合で合成され、また超新星爆発時に合成され、周囲に放出される。その組成は、超新星爆発の種類や、超新星爆発を起こした親星の質量に強く依存するため、元素比率を調べれば、過去にどのような星が生まれ、どのように死んでいったのかという「銀河の履歴書」を読み解くことが可能となる。

しかし、銀河中心はガスや塵が非常に濃く、可視光では内部を見通せない。さらに、可視光で観測される放射は複雑で、解釈に不確かさが伴うという課題もあった。それに対し、X線は透過力が強い上に、物質との相互作用の物理が単純であるという利点がある。

極めて明るく輝く活動銀河核などの中心には、ガスを飲み込んで成長しつつあるSMBHが存在する。その近傍には、約10億度に達する極めて高温のコロナが存在し、強い連続X線光が放射されている。それが周辺物質に当たると、物質に含まれる元素固有のエネルギーを持つ蛍光X線が発生する。つまり、その強度を測定することで、元素組成を精密に調べることが可能となる。しかし、従来のX線観測では、他の輝線と区別して微弱な蛍光X線を検出できるエネルギー分解能が不足していたため、SMBH近傍の正確な化学組成は、長年ヴェールに包まれていた。

そこで研究チームは今回、従来にない極めて高い精度でX線エネルギーを測定できるXRISM搭載の軟X線分光装置「Resolve(リゾルブ)」を用いて、地球に最も近い活動銀河核の1つであり、最も明るい鉄の蛍光X線を放つコンパス座銀河を観測したという。

  • XRISMによるコンパス座銀河中心核のX線エネルギースペクトルと鉄輝線付近の拡大図

    (下段)XRISMによるコンパス座銀河中心核のX線エネルギースペクトル。アルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケルからの蛍光X線が確認された。(上段)同スペクトルの鉄輝線付近の拡大図。メインピーク左側の広がった成分は、一度放出された鉄蛍光X線が、別の場所にある電子により散乱された「コンプトンショルダー」。この解析から、蛍光X線が金属量の多く冷たいトーラス構造から放射されていることが判明した。(当該論文より改変して作成された図)(出所:XRISM公式サイト)

今回は、約30万秒(約3.5日)にわたる集中観測が実施された。その結果、これまでの衛星ではぼやけて見えていた鉄、ニッケル、アルゴン、カルシウム、クロム、マンガンといったさまざまな元素の蛍光X線を、1本1本明確に分離して捉えることに成功。これにより、SMBH周辺のガスの温度や場所、そして詳しい元素の割合を計算することが可能になったとした。物質分析に利用されるX線蛍光解析を遠方宇宙のSMBHからのX線に適用したという点で、今回の手法は画期的といえるとした。

鉄の蛍光X線の形状を分析したところ、その光を放っている物質はSMBHから約0.08光年(約5000天文単位)、太陽系なら「オールトの雲」に相当する極めて遠方にあり、冷たくて金属が豊富なトーラス(ドーナツ)構造にあることが判明した。これは、SMBHに飲み込まれる直前のガスを直接観察していることを意味するという。

さらに、その元素バランスも明らかにされた。太陽系近傍の元素組成と比較したところ、アルゴンやカルシウムは鉄に比べて少なく、ニッケルは鉄に対して多いという結果を得られたとする。超新星爆発の理論モデルと比較したところ、このパターンは、比較的最近の星形成によって供給されたガスであることが示唆された。加えて、金属量の多い環境では、太陽質量の約20倍以上に及ぶ大質量星の多くが、爆発せずにそのまま恒星質量ブラックホールへと崩壊すると考えると、自然に説明できることが確認された。

  • コンパス座銀河中心のアルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、ニッケルの鉄に対する組成比と理論モデル

    データ点(誤差付)は、コンパス座銀河中心のアルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、ニッケルの鉄に対する組成比。太い緑線は、最もデータをよく再現する理論モデル(青線:白色矮星を起源とする超新星の寄与、オレンジ:重力崩壊型超新星の寄与)。細い緑線は、太陽質量の20倍の星が爆発すると仮定した場合の計算結果(カルシウムやアルゴンの量が多くなりデータを再現できない)。(当該論文より改変して作成された図)(出所:XRISM公式サイト)

  • 太陽質量の20倍以上の大質量星の最終進化のイメージ

    太陽質量の20倍以上の大質量星の最終進化(左→中→右)のイメージ。(左)赤色超巨星。(中)中心部が重力崩壊するが、超新星爆発は生じない。(右)カルシウムやアルゴンなどの元素(赤)は爆発で飛散せず、そのままブラックホール(中心の黒丸)に飲み込まれる。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

今回の研究により、活動銀河核に、最近の爆発的星形成によって作られたガスが絶えず供給され続けているという描像が確立された。まさにSMBHと銀河が共進化している現場を捉えたといえるとする。

また、大質量星が超新星爆発を起こさずに恒星質量ブラックホールになる「不発超新星(暗い超新星)」現象は、これまで理論的には予想されていたが、実際の元素組成の観測からその強力な証拠が得られたのは今回が初めてのことだ。

大質量星の晩年は赤色超巨星となる。太陽質量の20倍以上の大質量星も同様に赤色超巨星となり、実際に天の川銀河内でも確認されている。それにも関わらず、そのような重い赤色超巨星を親星とする超新星爆発がなぜか近傍宇宙では観測されておらず、「赤色超巨星問題」と呼ばれている。今回の研究成果は、この問題を解決する可能性があるとし、宇宙における物質の循環や、ブラックホールの形成過程を理解する上で大きな一歩といえるとした。

今回の研究により、宇宙における元素合成の歴史を理解する上で、精密X線分光が非常に有効であることが改めて示された。研究チームは今後、別の活動銀河核に同様の手法を適用し、銀河の性質によって銀河中心部のガスの成因が異なるのかどうか、調査を行う予定としている。