岩手県・久慈琥珀博物館と早稲田大学(早大)の両者は3月30日、共同発掘調査を実施している久慈市小久慈の約9000万年前の地層「久慈層群玉川層」から歯化石計5点が発見され、そのうち4点は「イグアノドン類」(鳥脚類・国内18例目)、残り1点が「ネオケラトプシア類」(角竜類・国内4例目)であることを確認し、白亜紀の久慈には従来の理解よりも多様な鳥盤類恐竜が生息していたことが明らかになったと共同で発表した。
同成果は、久慈琥珀博物館、早大 国際学術院の平山廉教授らの共同研究チームによるもの。
鳥盤類から進化史が紐解かれる可能性も
今回の歯化石が発見されたのは、久慈琥珀博物館が運営する琥珀採掘体験場および、同館と早大が共同発掘調査を行っている場所から南に位置する堀内地区だ(現在は採掘中止中)。同地域に分布する久慈層群では、2012年3月から平山教授らによる発掘調査が実施されており、これまでに大型植物食恐竜の竜脚類や肉食恐竜の獣脚類、カメ類、ワニ類、コリストデラ類(絶滅した水性は虫類)、サメ類など30種類、3500点を超える脊椎動物化石のほか、植物化石なども発見されている。同館周辺は、恐竜時代の琥珀と化石が数多く共産する世界でも稀な地域だという。
発見された歯化石5点のうち4点は鳥脚類のものだった。鳥脚類は、ジュラ紀(2億140万年前~1億4310万年前)から白亜紀(1億4310万年前~6600万年前)末期にかけて、世界各地で繁栄した草食恐竜のグループである。鳥脚類の中でも進化的な種は、顎に歯が密接に並ぶことで1本の巨大な歯のような構造を形成しており、植物を効率的に咀嚼できたことが特徴だ。
歯化石の詳細な観察の結果、3点は1本の顕著な「一次稜線」を持つことや、その陵線が顎の後方にわずかに偏るという特徴を共通して持つことから、鳥脚類の中でもイグアノドン類の上顎歯と考えられるという。また、歯冠(歯の上部)が著しく咬耗(こうもう)していることなどから、すべて実際に使用されていた歯である可能性があるとする。
残りの1点は、比較的広がった一次稜線を持ち、顎の後方に向けて偏るという特徴から、イグアノドン類の下顎の歯(歯骨歯)であることが考えられるとした。また、この歯骨歯においては、上顎歯と同様に一部のみが残されているが、これは破損によるものだと推定された。
これまで、日本からは多くのイグアノドン類の化石が報告されており、頭骨なども産出した化石では、福井県勝山市からの「フクイサウルス」のように新たに学名がついた種も存在している。
イグアノドン類は、前期白亜紀(1億4310万年前~1億50万年前)にアジアにおいて繁栄し、後期白亜紀(1億50万年前~6600万年前)に一部が北米へと放散し多様化したことが知られている。一方、アジアに残存した種がいたことも示唆されているが、化石記録が限られているため、アジアにおける進化史についてはまだ多くの謎が残されている。今回発見されたイグアノドン類化石は、後期白亜紀初期の約9000万年前の化石であることから、アジアにおけるイグアノドン類の進化史において空白を埋める重要な資料になるとした。
そして、今回発見された歯化石の最後の1点は、角竜類のものだった。同恐竜は、後期ジュラ紀(1億6150万年前~1億4310万年前)から白亜紀末期までの北半球で広く栄えた、上顎先端に「吻骨(ふんこつ)」という特有の骨を持つことなどが特徴の草食恐竜のグループだ。角竜類はトリケラトプスのような大型で角を持つ種に代表されるが、小型で角を持たないものも多く存在した。
今回発見された角竜類化石は高さ約15mmの歯化石で、外形が葉状の形態を持ち、歯冠(歯の上部)の頂部は欠損している。同化石を、福井県立大学 恐竜学研究所でのCT撮影などを用いて詳細に観察した結果、歯冠の側方に深い窪みがある、歯冠と歯根(歯の下部)の境にある歯の帯が発達しU字型に広がる、そして歯の帯と歯根がなだらかにつながるといった特徴の組み合わせが確認され、角竜類の中でも「ネオケラトプシア類」に属すると考えられるとした。加えて、一次稜線が目立たないことや、歯の帯の反対側に控えの歯の成長によって吸収跡が存在することから、上顎の歯であると推定された。
これまで国内からの角竜類化石の報告は乏しく、兵庫県で頭骨を含む化石が発見されたほかは、福岡県と鹿児島県で歯化石が確認されているのみだ。今回の発見は国内4例目となる重要な成果であり、東日本からは初の報告となった。
ネオケラトプシア類は前期白亜紀に出現し、後期白亜紀にかけて急速に多様化したことが知られている。また、同時期にはアジアとアメリカで頻繁に種の移動が起こっていたことが示唆されているため、後期白亜紀初頭の地層である久慈層群から発見された標本は、その多様化や移動過程を理解する上での重要な鍵を握る。
久慈の化石は約9000万年前であることが明らかにされており、この時代は角竜類やイグアノドン類多様化が進行していた時期に当たる。そのため、今回の歯化石の発見は、その進化史を知る上で極めて重要だという。時代の両グループの化石記録は限定的であり、地質時代の信頼度の高い久慈産の鳥盤類の歯化石は、世界的にも重要な化石記録になるとした。
現状では歯のみの化石しか見つかっていないものの、今後のさらなる発掘で他の部位が見つかれば、ネオケラトプシア類やイグアノドン類といった高位分類より細かい系統関係を議論できるようになるという。また、同時代のアジア産鳥盤類との比較も重要だ。ネオケラトプシア類のような角竜類とイグアノドン類が同じ層から産出することは、当時の生態系や大陸間移動の議論に重要な証拠になるとした。植物化石や他の動物群との関連を総合的に検討することで、生態系の全体像を描くことができる可能性があるとしている。久慈層群には、今回の化石以外にも多様な動植物化石が保存されており、今後のさらなる研究成果が期待されるとしている。




