国立天文台(NAOJ)は3月30日、2560×1万ピクセルの解像度で10fpsによる撮影が可能な「広視野高速CMOSカメラ」が、米・アリゾナ大学スチュワード天文台が運用するキットピークのBok望遠鏡(口径2.3m)の主焦点に搭載され、2025年9月にファーストライトを達成、2026年1月から本格的な観測を開始したと発表した。
同カメラは、NAOJ 先端技術センター(ATC)と法政大学 理工学部 創生科学科の小宮山裕教授らの研究チームを中心に、浜松ホトニクス、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の高橋忠幸特任教授の研究チーム、シマフジ電機らの協力により共同開発されたものである。
純日本製のオリジナル天文用高速カメラが始動
カメラの焦点面には、浜松ホトニクスとNAOJが共同開発した2560×1万ピクセル(画素サイズ:7.5μm/ピクセル)の実サイズ2cm×8cmの大型可視光CMOSセンサが採用され、これを1列に6枚並べることで総画素数1億5000万画素が達成された。視野は、すばる望遠鏡の初代主焦点カメラ「Suprime-Cam」(0.57×0.45平方度)を大きく上回り、1.06×0.63平方度が確保されている。
読み出し速度はフルフレームで毎秒10枚、部分読み出しでは毎秒1000枚と極めて高速だ。従来の同サイズの天体観測用CCDが読み出しに15~20秒を要するのと比較すると、100倍以上の高速化が実現されたことになる。これは、画素の各列に出力アンプとアナログデジタル変換器を搭載することで実現された。
このカメラはCMOSセンサに加え、専用読み出しエレクトロニクス、デュワー(真空断熱容器)、冷却装置、周辺機器(温度コントローラ、真空ゲージなど)、画像取得用計算機、データ転送用ネットワーク機器、データ保管サーバで構成される。
このうち専用読み出しエレクトロニクスは、Kavli IPMUの高橋特任教授の研究チームと、シマフジ電機によって開発された「SPMU002」を基盤とする。デュワーは、NAOJの技術者や研究者らが設計したものをATC 製造設計グループが所有する5軸マシニングセンタで内製された。観測アプリや読み出しプログラムは、NAOJ 天文データセンターの技術者の手によるものだ。また、法政大の学生達も参加し、カメラの状態をモニターするための温度コントローラや真空ゲージなどの周辺機器を設置するフレームの設計と組み立て、そして周辺機器データの取得を担当したという。
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ネットワークスイッチを取り付ける前のカメラの全体像。中央の赤い物体が冷却用のデュワー。黒い円形部は望遠鏡に取り付けるインタフェースで、ここにカメラ本体(わずかに見える緑色)が挿入されている。(出所:NAOJ ATC Webサイト)
大フォーマットで高速読み出しのCMOSセンサは大量のデータを生成する。フルフレームで最速モードの10fpsで読み出すとセンサ1枚当たり毎秒500MB、カメラ全体だと毎秒3GBに及ぶ。この大量のデータを高速で取り扱う必要があるため、ネットワークとデータストレージ機器の選定には大きな苦労が伴ったとした。
こうして完成した広視野高速CMOSカメラは2025年8月、多数の望遠鏡が集合していることで知られるアリゾナ州の観測サイト「キットピーク国立天文台」にあるBok望遠鏡に送られた。同望遠鏡は、主焦点に観測装置を搭載可能な世界でも希少な望遠鏡の1つであり、補正光学系やフィルタ交換機構、焦点調整機構などを備える。同望遠鏡への搭載を目標としてカメラを開発することは、将来すばる望遠鏡の主焦点撮像装置にCMOSセンサを採用するための重要なワンステップとなるとする。カメラは現地で組み立て・調整が行われた後、2025年9月に同望遠鏡の主焦点に搭載され、ファーストライトを達成し、アンドロメダ銀河が撮影された。
ファーストライト時は天候が不安定で観測は数時間しか確保できなかったという。しかし本格稼働を開始した2026年1月からの観測では天候が安定し、多くの画像が取得されたとした。現在、これらのデータを用いてカメラの性能評価や観測天体の解析が進行中だ。高速読み出し性能を活かした観測データがどのような結果をもたらすか、開発チーム一同大きな期待を持って解析に取り組んでいるという。
すばる望遠鏡の2代目主焦点カメラである「HyperSuprime-Cam」などで使用されるCCDは感度の良さでは優れるが、電荷転送を必要とするため高速化に限界があることが課題だ。現在、近年の米国・欧州の広視野探査計画の急速な進展や重力波光学対応天体の観測成功により、時間変動をする天体への注目が高まっている。そのため、高速読み出しが可能なCMOSセンサへの移行は、世界的な流れになりつつあるという。広視野かつ高速という特徴を併せ持つこのカメラが、今後どのような新しい天文学的成果をもたらすのか、国内外の研究者から大きな期待が寄せられているとしている。







