米国・イスラエルとイランとの紛争を受けて半導体材料の調達とコスト上昇への懸念が高まっている。韓国の電子業界専門メディア「The Elec」によると、韓国の半導体業界は、供給途絶がヘリウム(He)はじめ、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、シンナーといった主要原料に影響を与える可能性があるとの懸念から、状況を日々注視しているという。

韓国の半導体メーカー各社は現在、市場価格で十分な在庫を確保することを最優先事項としているという。これらの材料は、半導体製造コスト全体のごく一部のため、デバイス価格に直接影響を与える可能性は低いものの、供給途絶によって製造に支障をきたすことが懸念されるという。

ヘリウムの7割をカタールに依存する韓国

特に、ヘリウムの供給は喫緊の懸念事項となっており、スポット価格は50%を超えて値上がりすると業界では予測しており、仮に和平交渉が成立しても、イランにより攻撃されたカタール北部の世界最大級のLNG生産・供給基地であるラス・ラファンの復旧には数年かかる可能性があり、供給不足と価格変動は中長期的なリスクとなると見られている。

ヘリウムはLNGの副産物として生産され、世界の供給量の約3分の1をカタールが占めているが、イランによるラス・ラファンへの攻撃によるLNGインフラへの被害は長期供給契約を混乱させる可能性があり、カタール・エナジーのサード・アル・カービCEOは、同国のLNG輸出能力の約17%が影響を受けたと述べている。

半導体製造に不可欠な希少な不活性ガスであるヘリウムは、窒素、酸素、アルゴン(Ar)といった一般的なガスに比べて使用量は少ないものの、特定のプロセスにおいて重要な役割を果たしている。特にエッチングなどのウェハ裏面冷却に活用され、ウェハの変形を防いでいるほか、リーク検出にも広く活用されている。

韓国貿易協会によると、韓国の製造業者は2025年時点でヘリウムの64.7%をカタールから調達しているが、SamsungやSK hynixは、数ヶ月の供給途絶にも耐えるだけのヘリウムを確保済みであるものの、危機の長期化で供給が逼迫するとコストが上昇する可能性がある。そのため、代替供給源の調査を進めており、米国やロシアとの取引の可能性を探りつつ、約6か月分のヘリウム在庫を維持している模様である。

また、Samsungは2025年4月から一部の生産ラインで自社開発のヘリウム再利用システム(HeRS)を導入し、使用したヘリウムの再利用を進めている。初期の結果から年間約4.7トンのヘリウム削減が見込まれ、全ラインに導入した場合、総使用量を年間約18.6%削減できると予測しているという。

多角調達を進める台湾勢

一方の台湾は、調達先を比較的多岐にわたっている模様である。台湾メディアTechNews(科技新報)によると、ヘリウム輸入量の約30%がカタール、約30が米国、残りが中国などほかの地域からだという。TSMCも調達の多様化を進めており、在庫は2か月分を超えているため、リスクは管理可能であり、生産への影響はなさそうだという。

ただしTSMCとUMCはヘリウムのリサイクル率を60~75%へと高めることで輸入への依存度を削減しているが、それでも不十分と台湾メディアMoney DJ(理財網新聞)は指摘している。1日の消費量の約25%を輸入で補う必要があるほか、リサイクルシステムは電力消費が大きいが、LNG供給の途絶で電力制限が生じれば、その効率が低下するためだという。

中国は国内でヘリウム増産

こうした状況の中、中国企業は国内のヘリウム事業を静かに推進し始めていると、中国ijiweiが指摘している。山西泽丰达新能源の天然ガス(炭層メタン)液化・貯蔵・ヘリウム抽出プロジェクトの第2期工事が正式に開始され、プロジェクトの研究開発チームが2025年に99.9999%(6N)の高純度ヘリウムの生産に成功したという。広東華特ガスも6Nの高純度ヘリウム量産に成功したという。このヘリウムは、半導体製造におけるリソグラフィやエッチング工程に直接使用でき、同社はASMLの認証も取得済みで、ハイエンド半導体向けヘリウム市場の主要サプライヤーとしての地位を確立しているとする。

さらに、中科富海科技は回収率最大98%の独自のBOG(ボイルオフガス)ヘリウム抽出技術を開発したほか、杭氧は最近、半導体企業からヘリウム回収システムの受注を獲得したとのことで、ヘリウムが希少になるにつれ、「回収」が重要な戦略的方向性として浮上しつつあることが見て取れる。

また、現在の中国の高純度ヘリウム生産能力は年間約120万立方メートルに達しているとijiweiは指摘している。これは国内需要の約5%ほどだが生産能力は急速に拡大しており、中国ガス業界の推定では、2026年までに300万立方メートルを超え、国内供給シェアは約12%に上昇する可能性があるという。

ヘリウム以外にも発生しているコスト上昇圧力

なお、The Elecはヘリウム以外にも、原油やナフサ価格の上昇がそれら石油化学製品を原料とする半導体材料であるIPAやエタノール、シンナーなどといった半導体材料の生産コストも押し上げているとも指摘している。

シンナーはフォトリソ工程での残留フォトレジスト除去のために使用されるが、デュポン、ダウ、LG化学などのサプライヤが、原料の1つとなるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)に値上げ通知を出しており、PGMEAとPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の価格は40~50%上昇している。また、東進セミケム、ENFテクノロジー、東友ファインケム(住友化学の韓国子会社)などといった下流企業も値上げの一部を転嫁する準備を進めており、4月出荷分については約20%の値上げを計画しているという。

ウェハ洗浄やエッチング後の残留物除去に使用されるエタノールの価格も上昇傾向にあり、すでに韓国のサプライヤは値上げ通知を出しているというほか、ナフサ由来のIPAも値上がり傾向にあり、韓国の主要サプライヤであるLG化学も正確な金額は各隊していないものの値上げの動きを見せているとのことで、今後しばらくは半導体材料関連の値上がりが続くことが予想される。