千葉工業大学(千葉工大)、富山大学、国立天文台、立命館大学の4者は3月25日、約100億光年先(赤方偏移z=1.8)に存在する「活動銀河核」(AGN)において、可視光の明るさが約20年の観測で約20分の1まで減少する極めて希な現象を発見し、多波長・長期間のデータ解析から、超大質量ブラックホール(SMBH)へのガス供給の急激な減少が減光の主因であると結論付けたと共同で発表した。
同成果は、千葉工大 天文学研究センターの諸隈智貴主席研究員、富山大大学院 理工学研究科の川口俊宏教授、国立天文台の越田進太郎 PFS NAOJ Manager、立命館大の鳥羽儀樹准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
SMBHへのガス流入の急激な現象を観測
銀河中心のSMBHに多量の物質が落下することで、X線から電波までの広帯域で明るく輝く天体をAGNと呼ぶ。その活動によりSMBHの質量は時間と共に増大するが、現在のSMBHの質量や、AGNにおけるSMBHへの典型的な質量降着率を考慮すると、AGNとして明るく輝く期間は銀河の寿命のごく一部の期間に限られることがわかっている。つまり、AGNは永続的な状態ではなく、AGNとして輝き出した時期があり、いつかはその活動を終える時期も訪れるということである。
だが、AGNの活動状態は数十万から数千万年と推定されるため、SMBHのその劇的な変化を直接捉えることは容易ではない。そこで重要となるのが、広視野での掃天観測を行う「サーベイ観測」だ。多くのサーベイ観測により、現在では数十万のAGNが同定されるに至っている。これは、例えば10万個のAGNを10年間観測し続けた場合、1つのAGNを100万年にわたって観測したことに相当する。これはAGNとしての活動期間に匹敵するため、SMBHの活動状態が大きく変化する瞬間を捉える確率が飛躍的に高まるといえる。
そこで研究チームは今回、過去の大規模サーベイデータと、地上の大型望遠鏡による最新の観測データを比較し、短期間で活動状態が激変したAGNの抽出に挑戦。一般的なAGNの明るさの変動は数十%程度だが、活動状態そのものが変化すれば、数倍から数十倍の規模で明るさが変わる可能性がある。今回の研究では、こうした極端な明るさの変動を示すAGNを探索し、それらを詳細に調べることで、活動性が急激に変化しつつある天体の同定を試みたという。
初期のサーベイ観測として大きな成果を上げたスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)による2002年のデータと、すばる望遠鏡による2018年のデータを比較した結果、約100億光年先の銀河「J0218-0036」において、AGNの可視光輝度が約20分の1に激減していることが発見された。この減光は、観測装置が異なるといった理由では説明できず、天体そのものの変化であることも確認された。通常の変動幅を遥かに超える特別な現象を捉えたものと判断された。
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100億光先の銀河「J0218-0036」(黄色矢印)の可視光比較画像。2002年ごろのSDSS(左)と2018年ごろのすばる望遠鏡(右)を比較すると、約16年の間に、同銀河が大幅に減光している様子がわかる。(c)SDSS、HSC-SSP/国立天文台(出所:千葉工大プレスリリースPDF)
この異常な減光を受け、すばる望遠鏡、スペイン・カナリア諸島のGTC望遠鏡、ハワイ・マウナケア山のケック望遠鏡による可視光・近赤外線での追観測に加え、電波望観測も実施。さらに、X線や赤外線のアーカイブデータ、約70年前の天体画像乾板まで遡り、多波長かつ長期間にわたるデータを統合して詳細な解析が進められた。
解析の結果、可視光・赤外線の減光は、SMBH周囲の降着円盤からの放射が著しく減衰したことに起因することが判明。降着円盤への質量降着率、つまりガス供給量は、現地の時間でわずか約7年の間に約50分の1にまで急減したと推定された。なお、地球での観測期間は約20年だが、宇宙膨張に伴う時間の伸びを考慮すると、現地時間では約7年という短期間になる。
また、塵の雲が視線を遮った可能性も検討されたが、広帯域にわたる減光特性を同時に説明することはできず、この説は否定された。以上の結果から、SMBH周囲の物理状態が劇的に変化し、ガス供給が「シャットダウン」に近い形で大幅に弱まった可能性が高いと結論付けられたのである。
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活動銀河核の明暗変化を描いたイメージ。左は明るい活動期、右はガス供給が減少し暗くなった時期を示す。SMBH(中心部の黒い領域)を取り巻く降着円盤(青白い領域)やその周囲に広がるガスや塵のドーナツ状構造(トーラス)の輝きが失われることはガスの流入量の減少を意味し、銀河中心部が暗くなっている。(c)千葉工業大学(出所:千葉工大プレスリリースPDF)
今回の発見によって、SMBHの活動が数年という短期間で劇的に変化しうることが実証され、従来のSMBHの成長モデルやAGN進化理論に重要な制約を課す形となった。これまで、AGNにおけるSMBHへの質量降着は数万年以上をかけて緩やかに変化すると考えられてきたが、今回の成果はその定説を覆す結果とした。
広域を一度に観測できるサーベイ手法は、現代天文学の潮流である。今後、「ベラ・ルービン天文台」によるLSSTサーベイ、欧州宇宙機関(ESA)のサーベイ観測衛星「ユークリッド」、2020年代後半に打ち上げ予定のNASA主導の「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」など、次世代の広視野・高感度の地上望遠鏡や宇宙望遠鏡による高精度データが蓄積される。これらを通じて「活動休止状態にある銀河核」を多数特定できれば、銀河とSMBHの共進化の謎に迫る重要な鍵となる可能性があるという。
また、こうした天体を統計的に調査することで、SMBHへのガス供給の停止や再開を制御する物理メカニズムの解明が進むことも期待される。加えて、今回の観測結果を矛盾なく説明できる新たな理論モデルの構築も、今後の重要な課題としている。