
7人の素人集団による農業
本業はIT機器の検査・検証やシステム構築などを主軸とするシーズテクノロジー(神奈川県)。IT機器の検査会社である同社が種子島で農業に参入したのが2022年のこと。種子島と言えば、1543年の鉄砲伝来と国内唯一の大型ロケット打ち上げ施設があることで有名だ。
そんな種子島の南種子町にサッカーコート約3面分の農地を保有し、農業部門を独立させてシーズファームを設立。同町はサトウキビや安納いも、茶、米、ポンカン、レザーリーフファンなど、野菜や米、果樹、花きなど多様な農産物が生産されていることが特長だ。
「社員は7人だが、元役場職員や土木作業員、移住者、専業主婦など農業素人集団。地元の農家の指導を受けながら試行錯誤を繰り返していた」と同社社長の坂口浩太郎氏は振り返る。
同地で農業を始めた同社。選んだ農産物はスナップエンドウ。だが、そう簡単には行かなかった。「事務所から畑まで約10キロ離れており、水を撒くタイミングに頭を悩ませた」(同)。種子島特有の変わりやすい天候が水を撒くタイミングの難易度を高めたのだ。坂口氏によると、畑には水道がないため、貯水タンクに水を溜め、トラックで運搬していた。「畑に着くと雨が降っていることもしばしば」。時間と水の無駄が悩みの種になっていたという。
そんな坂口氏がたまたま目にしたのが農業AI/IoTソリューションの「e-kakashi」の記事。ソフトバンクの社内起業制度案件として開発をスタートさせ、2015年にPSソリューションズからサービスをリリース。その後、24年にソフトバンクがグリーンに事業譲渡した。
このe-kakashiはマイナス15度から55度までの温度環境下での動作が可能で、ソーラーパネルとニッケル水素電池を内蔵しているため外部電源なしで単独稼働ができる。温湿度、土壌温度、体積含水率、水深、日射、CO2などの検知が可能で、天気予報情報と組み合わせてAIが分析し、5日先までの土壌水分の予測もできる。さらにこれらのデータを集めてクラウドに直接送信する通信機器も内蔵している。坂口氏は実機や導入済の農家を視察した後に導入を決めた。
フルーツパプリカ栽培に導入した1年目は標準糖度11度をクリアし、年間出荷量4トンを記録。続く2年目は標準糖度11度を維持しつつ、年間出荷量は作付面積当たりの前年比で1.3倍となる8トンを達成した。「畑に行かずとも状態が分かるアラート機能が全てを解決してくれた」と坂口氏は語る。
南種子町では町内24戸の農家(パプリカ、オクラ、レザーリーフファン、マンゴーなど)にe-kakashiが導入されており、同年9月からはカボチャを栽培する6戸が加わって現在は合計30台の機器が稼働中だ。
e-kakashiは大手も導入している。カルビーポテトだ。北海道のジャガイモ栽培では昨今の干ばつに対応するため、土壌体積含水率などの数値データを分析。データと天気予報に基づいて適切なタイミングでの水やりを実施し、収穫量が最大1.6倍に増加した。
ソフトバンク時代からe-kakashiの開発に携わってきたグリーン代表取締役CEOの戸上崇氏はe-kakashiの機能拡張やサービスの高度化を図っていく方針だ。「農業にとどまらず、漁業といった他の一次産業や、工場や製造現場などでも活用できる可能性がある」と語る。
メーカー機能を有する技術商社
実はこのクラウドに直接送信する通信機器を手掛けたのが東京エレクトロンデバイスだ。同社は半導体装置メーカー・東京エレクトロンの電子部品部門を譲り受け、半導体と電子デバイスを販売するエレクトロニクス商社として1986年に誕生。
半導体やIT機器の取り扱いを手掛ける一方で、顧客の仕様に基づいた自社製品開発も行う。東京エレクトロンの名を冠してはいるが、半導体製造装置を販売しておらず、独自の経営を展開している。
同社の最大の特長は「超ハイテク御用聞き」(社長・CEOの徳重敦之氏=4月1日から会長・CEO)である点だ。顧客の商品コンセプトを聞き取り、全社員(約1383人、25年3月31日時点)の約4割を占めるエンジニア(管理職等を含む)がゼロから作り出す。顧客のオーダーメイドに対応したメーカー機能を持っている。
e-kakashiも当初は、農地での電源確保や親機・子機間の通信距離などに課題があった。また、当時の通信方式では、雨天時に電波が減衰して通信が途切れてしまう弱点があった。18年から同社が改良を施し、通信の安定性担保と外部電源なしでも稼働を可能にする機能を盛り込んだのだ。
副社長の長谷川雅巳氏は「担当したエンジニア自らがホームセンターで資材を買ってきて自宅で試作機を作り、テストを繰り返していた」と振り返り、「他の企業がやらないことをやり、産業の黒子の存在であり続ける」と話す。同氏はe-kakashiを農業のほかにも、医療・介護、製造業、物流といった領域でも活用することを視野に入れる。その点、同社は、メーカー機能の強化は利益成長に向けた取り組みと位置付けている。
農業や地方創生は人手不足などの社会課題に直面する一方、経済安全保障にも絡む。それだけに最先端技術とどのように融合させるか。それを誰が担うのか。東京エレクトロンデバイスの取り組みが今後の鍵になる。
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