マイナビが向き合う、日本産業の新たな担い手育成
日本経済は、企業数では9割以上を占める中小企業が屋台骨として支えてきたが、近年、人口減少、後継者不足、付加価値創出の難しさといった中小企業を取り巻く構造的課題が顕在化し、次の成長を従来モデルで描けるのか、という問いが突きつけられるようになってきた。
人材ビジネスを中核に据えてきたマイナビにとっても、この問いは他人事ではない。企業と人をつなぐ現場に立ち続けてきたからこそ、日本産業の中で新しい挑戦が生まれにくくなっている現実が見えていた。
「次の成長」を担う存在としての大学発スタートアップ
そうした状況にあって、特に大学との結びつきが強い同社が強い関心を寄せてきたのが、大学の研究成果や博士人材などの活用が期待される大学発スタートアップという存在だ。
全国の大学と日常的に接点を持つ同社は、研究現場に世界水準の技術シーズが数多く存在する一方で、それが産業につながり切っていない現状を見てきた。
大学発スタートアップは、中小企業や大企業では取りにくいリスクを引き受け、新産業を生み出す担い手としての期待が寄せられているほか、国としても最初からグローバル市場を視野に入れて、高付加価値で勝負できる可能性を持つ存在となることを期待している。
大学発スタートアップに不足する「経営」
ただし、大学発スタートアップが直面する壁も明確だ。それが「経営」である。研究者が創業の中心となるケースが多い大学発スタートアップでは、技術や研究の独自性は強い一方、市場開拓、事業戦略、組織づくりといった経営領域が後回しになりがちだからである。
こうした、いわゆる経営面を担う人材をどうやって確保するのか。そうした課題の解決に向けて国としても動いており、その取り組みの一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、大学発スタートアップに経営を担う人材を供給することを目的とした「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)」を2023年度より推進してきた。
MPMは、大学の内外を問わず自らが起業またはスタートアップの経営者として参画することを志向する人材、いわゆる「経営人材」を発掘し、大学等の技術シーズ・大学発スタートアップとのマッチング等を実施することで、大学発スタートアップの経営人材獲得ルートを多様化し、その創出・成長を目指す事業である。
マイナビがMPMで挑戦した2つの事業
初年度の開催となった2023年度のMPMでNEDOはベンチャーキャピタル(VC)からの応募を想定していたが、実際にふたを開けてみると、VC以外の事業者からも多く応募があったということを踏まえ、2024年度は広く門戸を開放。その結果、インキュベーターやITコンサルティング、そして人材会社のマイナビといった多種多彩な8社が採択された。
マイナビが採択された理由は、「全国の大学との長年にわたって構築されたネットワーク」、「博士・ポスドクを含む研究人材のキャリア支援」、「CxO経験者や事業責任者層を扱ってきた人材事業の知見」といった人材視点の取り組みがMPMの思想と合致したため。
そのため、同社のMPMでの取り組みも単に人と企業をマッチングさせる、というだけに留まらず、人材育成という要素も含んだものとなった。
それを踏まえて大きく2つの取り組みが行われた。1つ目は、博士などの研究者層に向けて、マーケットの見方や事業戦略の作成方法などを含む経営者として必要とする知識を得てもらう実証実験的な事業としての「インキュベートプログラム」。もう1つが、同社が運営するプロ人材サイト「マイナビProfessional(旧スキイキ)」を活用した「人材マッチング」である。
教授含め33名がインキュベートプログラムに参加
同社が推進したインキュベートプログラムは、研究シーズを基とした事業化に必要な「教育」と「支援」を行うことで、事業化を目指す取り組み。
名古屋、大阪、福岡での現地募集のほか、オンラインでも実施する形で募集を行った結果、インキュベートプログラムには博士、修士、ポスドクのほか、助教や教授も含め、合計33人が参加し、マーケットの見方など経営者として求められる能力育成のための教育が実施された。参加者からは大学では実施の難しい取り組みであるといった反応を得たほか、教えるメンター側からも、研究を社会実装に向けるという側面で効果が高い取り組みであると感じたといった感想が出るなど、おおむね好評を得ることができた模様である。
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マイナビがMPMにて取り組んだインキュベートプログラムの全体像 (2026年1月27日開催のイベント「NEDO大学発スタートアップの未来を担う、技術と人。 ~経営人材の探索・育成・伴走の最前線~ 」にて撮影)
最終的なゴールを、起業を目的としたGAPファンドなどへの応募、案件通過などによる事業化に必要な支援金獲得に置き、プログラム参加者へのデモデイの設定や、メンタリングなどを実施。2026年3月11日時点で複数の案件が通過、合計1500万円以上の補助金獲得を達成したとするほか、現在もさらなる資金獲得に向けた取り組みが続けられているとする。
経営人材候補とスタートアップの双方に寄り添うことを目指したマッチング
一方の経営人材と大学発スタートアップのマッチング事業としては、同社が展開する各分野に精通したプロ人材を「必要な時に、必要な期間」活用できるサービスである「マイナビProfessional」を用いる形で人材募集を実施。ただし、単なる求人情報以外に、成長可能性やシーズによって解決できる社会課題などについての紹介を行うなど、大学発スタートアップの目指す方向性を応募前から理解してもらう工夫を取り入れたほか、実際の候補者選定から面談調整、条件調整、業務開始までのサポートの各ステップに応じた相談窓口の設置なども実施、知的財産の棲み分けや入社までの契約条件などといった、手厚いケアを経営人材候補者、大学発スタートアップの両方に展開することでミスマッチの低減を図っていったという。
その結果、17シーズに対して17人をマッチング(複数社にアサインや複数人のアサインのケース含む)があり、複数のステップを経て最終的に経営人材として実際に3名が最終交渉を行っている(2025 MPM中間・最終成果報告会が開催された2026年3月11日時点)とするほか、2つのシーズが創業に至ったという。
マイナビでこの施策の旗振り役を務めてきた経営企画本部 投資戦略統括部 産学連携推進部 部長の釜野千絵美氏は、「MPMに取り組むにあたっては継続性が重要であるという認識のもと、想定以上に素晴らしい方々が参加してくれ、素晴らしい研究シーズや経営人材に出会えました。とある参加者が、自身が副業的に取り組んできたCxOとしての仕事を、出会ったとある大学発スタートアップであればフルベットできるという感想を語ってくれたことが印象として残っています。この取り組みを通じた出会いによって、世界が変わる可能性があることにワクワクしました」とこれまでの取り組みを振り返る。
軸に据える大学との関係性強化
釜野氏は、2026年3月11日に開催されたNEDOの「2025 MPM中間・最終報告会」にて、これまでの取り組みを振り返りつつ、今後について大学やVCと深く連携する形でインキュベートプログラムに向けた博士人材などの呼び込みを行うなどが必要との見方を示しつつも、その取り組み単体でのマネタイズではなく、その先にある大学との関係性強化という付加価値について強調。あくまで大学あってこそのマイナビであり、大学がより元気になるための施策の一環としての研究シーズの事業化であり、博士人材の活用であるとの見方を示す。
大学発スタートアップが生まれ、育ち、成長していくことで、既存の中小企業との連携や技術移転、M&Aといった新たな産業循環が生まれる可能性が広がっていく。その起点にあるのは、大学に蓄積された研究成果と人材であり、大学そのものが元気でなければ、この循環は生まれない。
マイナビがMPMに参画した意義もそこにあるといえる。同社にとって大学発スタートアップ支援は、スタートアップ単体を成功させることだけが目的ではなく、大学が持つ研究シーズや博士人材を、事業という形で社会につなげられる環境を整備することで、大学の教育・研究活動そのものを後押しする取り組みであったと言える。
研究者が研究に集中でき、大学が社会との接点を広げ、必要なタイミングで適切な経営人材が関与できる。その仕組みを人材の側から支えることが、MPMという取り組みにおいてマイナビが果たそうとした役割であろう。さらに同社では、こうした取り組みを一過性のものに終わらせるのではなく、NEDOが公募を予定しているディープテック・スタートアップの創出の拡大とそれらの創出に繋がる環境整備、産学連携のすそ野の拡大を推進し、大学等を中心として科学技術・資金・人材が集結・循環する産学連携拠点の形成を目的としたプログラムなどへの参加も計画しているとのことで、大学を起点とした産業創出を中長期的に支援していく構えだ。MPMへの参画は、その第一歩に位置付けられる取り組みとなったといえるだろう。

