imecは、 DNAデータストレージのパイオニアである米Atlas Data Storageと合成DNAを用いたデジタルデータストレージの開発を加速することを目的とした戦略的パートナーシップを締結したことを発表した。これにより、AtlasのASIC設計知識とDNA合成技術が、imecの高度な半導体に関する専門知識と一体化することとなり実用化に向けた流れが加速することになるという。

DNAデータストレージの仕組み

爆発的に増加するデータを保存する磁気テープやHDDといった磁気メディアは密度、持続可能性、コスト、長期的な信頼性などで課題がある。また、NANDフラッシュメモリも、絶縁膜中の電荷保持という原理上、そもそもデータの長期保存には適さないという課題がある。

これらの課題に対して近年、DNAの新たな応用例であるDNAデータストレージの活用が期待されるようになってきた。これは合成DNA分子を用いて、テキストや画像などのデジタル情報を符号化、保存する手法だという。

DNAは、自然界で最もコンパクトで耐久性に優れた情報記憶媒体であり、その生化学的な4文字コードの中に数十億年にわたる生命の進化を保存してきた。DNAデータストレージでは、バイナリコードをアデニン、シトシン、グアニン、チミンというヌクレオチド(DNAの基本個性単位)を表す遺伝記号A、C、G、Tに変換。1gのDNAで数百PBクラスのデジタルデータを符号化できる可能性があり、劇的なフットプリントの縮小とエネルギー効率の向上を実現するという。磁気媒体では劣化によって新しい媒体へのデータ移行が必要だが、DNAは適切にカプセル化することで数千年、数万年間単位で安定状態を保つことができるようになるとする。

  • 合成DNAを用いたデジタルデータストレージのイメージ

    合成DNAを用いたデジタルデータストレージのイメージ (出所:imec、以下すべて)

また、DNA分子の合成は、多数の異なる鎖を同時に成長させる高密度な小型電極アレイを備えたシステムで行えるため、高い費用対効果を得ることができ、この実現に向けてimecでは超高密度マイクロ電極アレイのアドレス指定を可能にするスマートな高精度流体制御と先進的なCMOSエレクトロニクスの開発を行っているという。

すでにimecではAtlasが設計した制御用CMOS ASIC上に高密度なナノスケール電気化学セルアレイを配置し、統括・制御できる手法を考案したという。imecによると、実現への課題は大きく2つあり、1つめはプラチナ製デバイスを微小サイズでエッチングすること、もう1つは、隣接する素子間のリーク電流を最小限に抑える必要があることであり、解決に向けて高密度アレイ全体にわたって電気的絶縁と安定した動作を確保するための独自のプロセスフローを開発したとしている。

  • 16384個の微小な電極を備えた試作チップ

    16384個の微小な電極を備えた試作チップ

  • 高密度な微小電極アレイを形成

    高密度な微小電極アレイを形成

Atlasへの出資も実施

今回のパートナーシップでは、より深い戦略的協力関係への移行を目的にimecによるAtlasへの出資も行われる。このアプローチは、imecのベンチャー戦略の一環であり、選定された企業は、imec自身のスピンオフ企業と同様の支援と戦略的連携の恩恵を受けることができるようになるという。

今回の両社のパートナーシップは、ライフサイエンスと半導体の融合が、データの保存、センシング、データ処理における革新的な方法を切り開く可能性を示すもので、imecが近年、掲げているスローガン「Embracing a better life(よりよい生活を享受する)」の流れを汲むものとなりそうである。