山口大学は3月6日、カブトムシ(Trypoxylus dichotomus)のメスが、生涯に1度しか交尾しないという、コガネムシ科の甲虫では例外的な「単回交尾性」を持つことを発見したと発表した。

同成果は、山口大学 理学部(大学院 創成科学研究科(理学系))の小島渉准教授、同・圓尾明日香学部生(研究当時)、同・大学院 創成科学研究科の山手颯太大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、動物の行動生態学と社会生物学を扱う学術誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」に掲載された。

知られざるカブトムシの生態に迫る

「昆虫の王様」として親しまれるカブトムシは、コガネムシ科に属する甲虫だ。これまで数多くの研究が行われてきたものの、その多くは角を用いた闘争などのオスの交尾前行動に集中しており、オスメス共に交尾後の生態やプロセスについては未解明な部分が多かったとする。そこで研究チームは今回、カブトムシのメスが一生のうちに何度交尾するのか、そしてその行動がどのように制御されているのかを、実験室での詳細な検証によって明らかにすることを目指したという。

同研究では、まず85頭の未交尾のメスを用意し、最初のオスとの交尾を受け入れるかどうかが調べられたところ、すべての固体が交尾に応じた。しかしその後、メスの公道は劇的に変化。初回の交尾から1~28日後に別のオスと引き合わせても、メスはオスを激しく蹴り飛ばすなどして交尾を強く拒否するようになったという。

野生下でのカブトムシの寿命を考慮すれば、28日間におよぶ拒絶は、メスが生涯に一度しか交尾しないことを意味する。本来、コガネムシ科の昆虫は複数回交尾を行うのが一般的であり、このような極端な単回交尾性は極めて珍しいとした。

続いて、メスが再交尾を拒絶するメカニズムが調査された。カブトムシを含め、一部の昆虫では、オスが精子や栄養を含む「精包」と呼ばれるカプセルをメスの交尾器内に送り込む。カブトムシのメスが拒絶する仕組みとして、この精包に含まれる化学物質が原因なのか、あるいは交尾時の物理的な刺激が原因なのかを探るため、2つの実験を行ったとする。

1つ目は、精包の抽出液をメスの体液中に直接注射する実験だ。他の昆虫ではこの方法で再交尾が抑制される例もあるが、カブトムシのメスは注射後もオスとの交尾を受け入れた。2つ目は、交尾を途中で人為的に中断させる実験である。オスの生殖器が挿入されてから15分後に強制的に引き離したところ、このメスも翌日には別のオスと交尾したという。

これらの結果から、単なる化学物質の移行や単純な生殖器への物理刺激だけでは、メスの再交尾を抑制するには不十分であることが判明した。メスの生殖器内が精包で物理的に満たされるといった、より複雑なプロセスが関与している可能性が示唆された。

さらに、精包のサイズが着目した検証も実施された。未交尾のオスは大きな精包を作るが、交尾直後のオスが作る精包はサイズが60%も減少する。この小さな精包を受け取ったメスは、再交尾率が15%へとわずかに上昇した。なお、この小さな精包を受け取ったメスであっても、大きな精包を受け取ったメスと産卵数や卵の孵化率、さらにはそのメスの寿命に至るまで、まったく変化がなかったとした。

  • メスの交尾率の変化

    メスの交尾率の変化。初回の交尾ではすべてのメスが交尾を受け入れたが、その1~28日後に別のオスと引き合わせても、再交尾率は15%だった。例外的に再交尾が見られたのは、直前に別のメスと交尾を済ませたオスから通常の60%も小さな精包を受け取ったメスのみだった。(出所:山口大Webサイト)

  • オスが形成する精包が体外に作られた様子

    オスが形成する精包(青線線内)は、精子やタンパク質などの栄養を含むカプセル。通常はメスの体内に作られるが、交尾中のオスを人為的に引き離し、体外に作らせたところが撮影された。(出所:山口大Webサイト)

このことから、カブトムシのメスは、縮小した製法であっても生涯の繁殖には十分すぎるほどの精子を受け取っていることがわかる。未交尾のオスが大きな精包を作る理由は、メスにより多くの精子や栄養を渡すためではなく、メスの生殖器を巨大なカプセルで物理的に占拠して他のオスとの交尾を阻み、確実に自身の子を残すためであることが考えられるとする。

  • 精包のサイズと繁殖成績の比率

    精包のサイズと繁殖成績の比率。通常の精包(大)と連続交尾後の精包(小)で、孵化幼虫数(A)と卵の孵化率(B)に有意な差は見られない。グラフ内の線は、同一オスによるデータの対比を示している。(出所:山口大Webサイト)

今回の研究により、身近なカブトムシのメスがコガネムシ科の中では希な「単回交尾性」を持つことが初めて明らかにされた。この成果は、身近な生物にも興味深い生態が隠されていることを示すと共に、メスの単回交尾性がどのように進化するのかという、進化生物学の重要な問いに答えるための大きな一歩となるとしている。