宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月6日、運用中のX線分光撮像衛星「XRISM」を用いて、太陽よりも桁違いに大きな恒星フレアを発生させることで知られる活動的な恒星「RS CVn型連星」2天体観測した結果、同衛星で初となる恒星フレアの観測に成功したと発表した。
同成果は、東京大学(東大)大学院 理学系研究科 天文学専攻の栗原明稀大学院生(JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 宇宙物理学研究系併任)を中心に、ISAS 宇宙物理学研究系の辻本匡弘准教授(東大大学院 理学系研究科 天文学専攻/関西学院大学 理工学研究科 物理・宇宙物理学専攻併任)、同・前田良知助教(総研大 宇宙観測科学講座 飛翔体天文学分野併任)らが参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は2本の論文にまとめられ、1本は日本天文学会が刊行する英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」の特集号に、もう1本は通常の号に掲載された。
超精密分光によるプラズマ診断を実行
現在は太陽活動が極大期を迎えており、ここ数年、太陽表面の爆発現象である太陽フレアの中でも特に規模の大きい「Xクラス」が頻繁に発生している。プラズマが惑星間空間に放出される「コロナ質量放出(CME)」を伴う場合、地球圏が直撃を受けると、人工衛星や地上の電力設備に障害をもたらすリスクがあるため、近年は世界中で警戒を強めている。
太陽のような恒星には、「コロナ」と呼ばれる高温プラズマの「大気」が存在する。太陽コロナの温度は約100万℃から数百万℃だが、活動的な恒星になると数千万℃にも達し、プラズマから高エネルギーのX線が放射される。こうした、太陽とは比較にならないほど活動的な天体の1つに、大型フレアを発生させるS CVn型連星がある。この天体は「りょうけん座RS星」に代表される分離型の近接連星系であり、公転周期が比較的短いことが特徴だ。
巨大フレアは規模が大きいほど発生頻度が低く、太陽では幸いなことに大規模な「スーパーフレア」は極めて希にしか起きないとされる。そのため、太陽では前例のないような巨大フレアを観測するには、RS CVn型連星など、ほかの恒星の観測が重要となる。巨大フレアの発生メカニズムや周辺環境への影響を調べられるからだ。
しかし、太陽に比べて他の恒星は距離が離れているため、太陽観測で一般的な撮像手法を利用することができない。そこで有効となるのが分光観測だ。分光観測を用いて、原子の最内殻であるK殻に電子が遷移する際に放出されるX線「K殻遷移輝線」を調べることで、プラズマの状態を正確に把握することが可能だ。
XRISMに搭載されたX線分光器「Resolve」は、鉄などのK殻遷移輝線を史上最高クラスの分光性能で分離し、特に高い温度のプラズマ成分を詳細に調査することが可能だ。この鉄のK殻遷移輝線で調査が可能なプラズマの温度帯は約1000万度から約1億度であり、まさに恒星巨大フレアの高温プラズマ成分に対応している。
これまで日本では、1981年2月から1991年7月まで運用されたJAXAの太陽観測衛星「ひのとり」をはじめ、過去の太陽観測において鉄のK殻輝線解析手法が培われてきた。研究チームは今回、それを引き継いで拡張し、恒星巨大フレアの現場におけるプラズマの温度、電離状態、加速電子、元素組成などの詳細な診断を行ったという。
性能実証フェーズにおいてXRISMは、RS CVn型星の「はえ座GT星」と「おうし座V711星」を対象に、鉄のK殻輝線解析手法を用いた観測を実施した。静穏時と超巨大フレア発生時に得られた分光スペクトルそれぞれに対し、適切にモデリングをすることで、微細構造線の強度が変化していることを示すことが可能だ。分析の結果、XRISMで初めて分離された輝線も含まれており、恒星巨大フレアの現場におけるプラズマの電子温度、鉄イオン温度、非平衡現象(「衝突電離平衡」からの逸脱や加速電子の可能性)、元素組成などの診断に成功したとする。
なお、恒星外層大気での原子の電離状態を変化させる主な素過程には、束縛電子を持つイオンや原子が運動する電子と衝突、束縛電子が引きはがされて価数が減る「(衝突)電離」と、イオンや原子が周辺の電子を捕まえることで価数が増える「再結合」がある。衝突電離平衡とは、単位時間あたりにこの電離と再結合が生じる割合が釣り合っている状態を指す。
今回得られた結果は、フレアの起こっていない静穏期における平衡仮定の妥当性、フレア期間における高温プラズマ成分の増加、そして太陽観測から提唱されたフレアの「標準シナリオ」に無矛盾な元素組成変化など、先行研究の知見と整合的だったという。これにより、恒星コロナに対する、XRISM時代の超精密分光によるプラズマ診断が適切に実証されたといえるとした。なお、フレアの標準シナリオとは、コロナ中で磁力線のつなぎ替えである「磁気リコネクション」によってエネルギーが解放され、加熱されたプラズマが下層からループ構造に供給されて軟X線で発光しているとする内容だ。
今回の観測ではフレア全期間が捉えられていたものの、X線光子量の制限からフレア期間中の時間進化を追うことはできなかったとする。非平衡現象の顕在化はフレア初期段階に期待され、また温度構造や元素組成の時間変化は理論モデルとの詳細比較を可能にする。今後、より規模の大きい、多くのX線光子を含む巨大フレアに対してもXRISMで観測を行うことで、恒星巨大フレアの時間発展を詳細に追うことが可能になることが期待されるとしている。
