中東情勢が緊迫の度合いを深めている。
2月末、米国とイスラエルがイラン国内の核関連施設や軍事拠点に対し、「エピック・フューリー」(Epic Fury:壮絶な怒り)という名の大規模な軍事作戦を実施し、イラン最高指導者アリ・ハメネイ氏が殺害された。
これに対し、イラン側も即座に報復を宣言し、湾岸諸国にある米軍基地やイスラエル本土へのミサイルやドローンによる攻撃を行い、双方の間で軍事的応酬が続いている。これによって、日本の製造業にも大きな影響が出ている。
地政学的な観点から最も懸念されるのは、物流の要衝であるホルムズ海峡の封鎖だ。現在、同海峡の通航は事実上の停止状態にあり、原油や天然ガスの供給が滞ることでエネルギー価格が急騰している。日本の製造業にとって、エネルギーコストの増大は製造原価を直接押し上げる要因となる。
特に半導体産業においては、影響はより多層的だ。
現代のサプライチェーンはきわめて細分化されており、わずかひとつの特殊ガスや希少金属の供給が途絶えるだけで、自動車や家電、通信機器に至るまでの生産ラインが停止する。また、ばく大な電力を消費する半導体ファブリケーション(前工程)においては、電力コストの上昇が収益性を著しく悪化させる。
中東情勢の緊迫化は、こうしたボトルネックとなる資材の確保を困難にする。
たとえば、半導体製造装置や材料の輸送において空路が利用される場合でも、中東上空の飛行制限や航空燃費の騰貴がコスト増として跳ね返る。さらに、イスラエルは世界有数のハイテク拠点であり、多くの半導体設計(ファブレス)企業やR&D拠点を抱えている。現地での非常事態宣言や学校・職場の閉鎖は、先端技術の設計・開発プロセスの停滞を招き、次世代チップの投入スケジュールに大きな狂いを生じさせる。
今回の事態は、長年国際政治の専門家たちが懸念してきた最悪のシナリオだ。米国・イスラエルとイランによる軍事的応酬は、もはや一時的な武力衝突の域を超え、中東全域、そして世界経済全体に大きな影響を及ぼしている。
日本の製造業は、これまでの中東依存のリスクを再認識し、サプライチェーンの多角化やエネルギー源の転換などをこれまで以上に考えていく必要がある。また、今回の事態が一過性のものではなく、中長期的問題になるということも強く認識する必要があろう。
