大阪大学(阪大)は3月2日、銀河中心に位置する超大質量ブラックホール周辺の物質から放たれる鉄の「蛍光X線」の明るさが時間変動していることを発見し、従来のX線望遠鏡の解像度(約30光年)では識別できなかった、20光年よりも小さな空間スケールの構造の存在を明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大大学院 理学研究科の宮本愛子大学院生、同・川室太希助教、同・小高裕和准教授、同・松本浩典教授、国立天文台の泉拓磨准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
宇宙に存在する多くの銀河の中心には、太陽質量の数十万倍から数十億倍に達する超大質量ブラックホールが存在すると推測されている。そして、周囲にある膨大なガスや塵を飲み込む過程で強烈なエネルギーを放射し、母銀河全体の進化に影響を及ぼしているとされる。
ブラックホールは何でも無差別に飲み込むイメージだが、実は一般的に考えられているよりも容易には物質を飲み込めない。超大質量ブラックホールの周囲には、強い重力で引き寄せられた物質が多量に存在するが、それらは相対論的な速度で周囲を巡り、「降着円盤」を形成する。このガスや塵は超高速で回転するため、摩擦により高温化し、極めて強いX線を放つ。
さまざまな波長の光学観測から、降着円盤は「核周円盤」と「トーラス」で構成されていることがわかってきた。これまでのところ、高解像度の電波や赤外線観測から、分子ガスや塵でできた核周円盤が観測されている。しかし、これらの波長で見える物質の状態や分布する領域は限られるため、他の波長による観測が求められていた。
そこで、物質の状態に関わらず観測が可能なX線による手法が期待されるが、X線望遠鏡は解像度に限界があるという課題がある。X線は極めて浅い角度でしか反射させることができないため、可視光線や赤外線の望遠鏡のような高い解像度を実現することが極めて難しい。この解像度の限界により、ガスがどのような広がりや構造を持っているのかを捉えきれていなかったのである。
そこで研究チームは今回、米国航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」が、20年間にわたって蓄積したコンパス座銀河の公開アーカイブデータを極めて詳細に解析したという。
そして解析の結果、ブラックホール周辺から放たれる鉄の蛍光X線の明るさが、半年から数年の単位で激しく変化していることが判明。超大質量ブラックホールが物質を飲み込む過程で放出する強烈なX線が鉄などの原子に当たった際、その反応として特定のエネルギーを持つ「蛍光X線」が放出される。超大質量ブラックホールから放たれた光が周辺の物質に反射して届く「光のエコー」のような役割を果たすため(X線エコーと呼ばれる)、直接の観測が難しい超大質量ブラックホール周辺の物質分布やその動きを調査するための重要な手がかりとなるのである。
中心からのX線の明るさが変わると、鉄の蛍光X線の明るさも変化する。天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の周辺では、X線エコーの時間変動が観測されており、中心からのX線光度は過去の方が現在よりも明るかったことがわかっている。これまでは、このX線エコーの時間変動はいて座A*でのみ確認されていたが、今回、初めて別の銀河であるコンパス座銀河でも捉えることに成功した形だ。
X線エコーの時間変動を活用することで、中心からのX線を反射しているガスの塊について、大きさの上限値を見積もることが可能となる。上限値は、反射されたX線の時間変動のスケールに光の速さをかけることで求まる。解析の結果、この上限値はおよそ20光年であることが突き止められた。これにより、従来のX線望遠鏡の解像度では判別が不可能だった30光年よりも小さな構造が初めて明らかにされた。
さらに、アルマ望遠鏡が観測した分子ガスの分布と鉄の蛍光X線の分布との比較により、X線が強く照射されている領域で分子ガスが分解されている状況を可視化することにも成功。超大質量ブラックホールの活動が、周囲の環境に物理的な影響を与えている可能性が示唆された。
今回、ブラックホールが周辺の星の材料を分解・変質させるプロセスの一端が解明されたことで、今後、銀河の形成や進化の歴史をより正確に描き出すことが可能になるとする。今回得られた知見は、将来の超高解像度観測において、何を狙い、何を解明すべきかという観測戦略の策定に大きく寄与するといい、研究チームは今回の成果に対し、銀河の進化の鍵を握る超大質量ブラックホール周辺の物質の循環を理解する上で極めて大きな意義があるとしている。

