北海道太平洋沖の千島海溝南西部では、約400年に一度、超巨大地震が発生してきたと考えられている。海洋研究開発機構(JAMSTEC)や東北大学などでつくる研究チームは5年間にわたる海底観測の結果、同海溝付近のプレート境界が強く固着している直接的な証拠を得たと発表。「M8後半〜9級の超巨大地震と津波の再来が切迫している可能性がある」としている。
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北海道沖での過去の地震活動や、現在の地表面変位速度を図に表したもの。沖合の黒色ベクトルは、GNSS-A観測点で得られた水平変位速度とその2σ誤差楕円を、陸上の黒色ベクトルは、国土地理院F5解を用いて求めた陸上のGNSS観測点における水平変位速度を表す。左上の黄色の星は、変位速度の基準点、黄色のベクトルは太平洋プレートの運動方向・速度を示している。青色の破線の長方形は17世紀の超巨大地震の断層モデル、緑色の等値線は過去のM7〜8クラスの地震におけるすべり分布、実線と破線の緑色の長方形は1969年・1975年の千島海溝沿いの地震の大すべり域、紫色および橙色の円は過去の地震の震央、マゼンタの×印は微動の分布を示す 出所:JAMSTEC
この研究は、東北大学災害科学国際研究所、東北大学理学研究科、北海道大学、JAMSTECでつくる共同研究チームによって行われたもので、今回の成果は科学雑誌「Communications Earth & Environment」(2026年2月14日付)に掲載されている。
北海道の千島海溝沿いでは、太平洋プレートが年間約8cmという速度で陸側のプレートの下に沈み込んでいることが分かっており、過去の津波堆積物の研究から、この地域では17世紀にマグニチュード8.8級の津波を伴う超巨大地震が発生したことが知られている。同地域は、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の対象領域内であり、2025年12月には実際に注意情報が出されている。
同地域では約400年に一度、海溝軸まで断層破壊が及ぶ超巨大地震が発生してきた可能性が示されているが、陸域の測地観測網(GNSS)では海溝から遠すぎるため、「海溝付近のプレート境界が現在どのような状態か」を正確に把握することは難しかった。
また、同地域は地震活動が低調な“地震空白域”ではあるものの、これはプレート間の固着が「きわめて弱い可能性」と「きわめて強い可能性」の両極端なシナリオで生じることが指摘され、地震活動からこの海溝近傍の固着状態を推し量ることは困難だった。
そこで共同研究チームは、2019年から5年間にわたり、根室沖の海底3地点でGNSS測位(GPS測位などの総称)と音響測距技術を組み合わせた海底地殻変動観測(GNSS-A観測)を実施。その結果、海溝付近のプレート境界が現在は強く固着している直接的な証拠を得ることに成功した。
研究チームは、仮に前回の超巨大地震(17世紀)から約400年に渡って、現在と同じ速度でひずみ蓄積していた場合、前回の地震で解放されたすべり量(約25m)とほぼ同等のすべりを起こすだけのエネルギーが既に蓄積されていることが判明したと説明。もし、このエネルギーが巨大地震として解放された場合、海溝近傍での大きなすべりとそれに伴って巨大な津波が起きる、と考えている。
観測手法と研究成果
研究チームは、2019年7月に根室沖の海底に3つの海底観測点を設置し、約5年間にわたってGNSS-A観測と呼ばれる海底測地観測を繰り返し行い、海溝近傍での地殻変動を計測することに成功した。
GNSS-A観測とは、海底に設置した装置と、研究船やJAMSTEC保有の自律型海上航行機(ウェーブグライダー)といった海上にあるプラットフォームの間の距離を音響測距で捉えつつ、海上のプラットフォームの位置をGNSS測位で決定することで、海底に置いた装置の位置変化を計測するものだ。
5年間の観測データの解析結果からは、海溝近傍の陸側のプレート上と、太平洋プレート上の海底測地観測点が、年間約8cmの速度で西北西に変位していることと、海溝から離れた陸に近い海底測地観測点も、年間約4cmという速度で西北西に変位していることが明らかになったという。
研究チームは、これらの観測事実から以下の3つの事柄が示唆されると説明している。
プレート間の強固な固着を確認
海溝に近い観測点ほど、沈み込むプレートに引きずられて陸側への大きな変位速度が確認されており、プレート間固着による地表面変位速度を簡易なモデルを用いて計算し、観測値と比較した結果、海溝軸付近では強いプレート間固着による「すべり欠損」(巨大地震の発生につながる、プレート間の運動学的な固着)が生じていることが確かめられた。
なお「すべり欠損」とは、陸のプレートと海のプレートの境界でプレート同士がくっついて(固着して)すべっていない状態のことを指す。プレート同士がくっつかず(固着せず)、スルスルすれ違っている“安定すべり状態”に対する考え方であり、すべり欠損の蓄積は地震の発生や“ゆっくりすべり”につながると考えられている。
巨大地震を起こせる「ひずみ」が既に蓄積されている
現在の固着状態が、17世紀の地震以降続いてきたと仮定すると、蓄積されたすべり欠損量は20.5〜30.0mに達するという。これは、17世紀の地震の際のすべり量(一例として約25m)の82〜120%に相当し、17世紀の地震と同程度のマグニチュード8.8級の巨大地震を起こせるひずみが既に蓄積している可能性があることを意味する。
「地震空白域」の正体
地震空白域の存在は、「海溝近傍での強いプレート間固着によって巨大地震に向けてエネルギーを溜め込み続けている状態」を示している可能性が高いと考えられる。同様の地震空白域は、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)以前の、宮城県沖日本海溝近傍でも確認されており、千島海溝南西部でも東日本大震災と同じく、巨大なすべりと津波を伴う地震の将来的な発生が危惧される。

