宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月4日、文部科学省の宇宙開発利用部会において、イプシロンSロケットの開発状況を報告した。燃焼試験で2回の爆発事故を起こし、スケジュールの大幅な遅延の原因となった新型の第2段については、いったん従来型に戻すことを決定。種子島で燃焼試験を行った後、2026年度内の打ち上げをめざす方針が了承された。

  • 従来型の第2段による燃焼試験を、JAXA種子島宇宙センターで実施する (C)JAXA

    従来型の第2段による燃焼試験を、JAXA種子島宇宙センターで実施する (C)JAXA

イプシロンSの開発計画は見直しが決定

固体3段式のイプシロンロケットは、まず試験機が2013年9月に打ち上げられ、成功。続く2号機からは強化型となり、2022年10月の6号機まで打ち上げが行われていた。イプシロンSは強化型の後継機として開発が進められてきたが、変更が最も小規模だったはずの第2段の開発が難航。完成のメドが立たない異常事態になっていた。

しかし、前号機の打ち上げからすでに3年以上が経過。打ち上げを待っている衛星もあり、空白期間をこれ以上、長くするわけにはいかない。そこで、完成時期が読めない第2段モーター「E-21」はいったん採用を見送り、強化型で実績がある第2段モーター「M-35」を搭載し、早期の打ち上げ再開をめざすことを決めた。

ただ、M-35は推進剤とインシュレーション(断熱材)の原材料の一部に枯渇品があり、まったく同じものをいま作ることはできない。設計や性能は変えずに、枯渇した原材料を代替したモーター「M-35a」を使うこととし、このM-35aを適用した機体は「イプシロンSロケットBlock1」と呼ばれることになった。

  • イプシロン各形態の比較。E-21→M-35aの変更により、ロケットの全長は40cmほど短くなる (C)JAXA

    イプシロン各形態の比較。E-21→M-35aの変更により、ロケットの全長は40cmほど短くなる (C)JAXA

JAXAでは複数のオプションの検討が進められてきたが、この案が「最も技術的成立性が高い」と判断。もともと、イプシロンSの開発当初には、第2段にM-35を用いる想定だったものの、打ち上げ能力を向上させるため、推進剤を増やしたE-21に変更した経緯がある。今回のM-35を搭載する案は、「元に戻しただけ」であるとも言える。

計画の変更で衛星によっては大きな影響も

しかし、この変更により、打ち上げ能力は下がってしまう。搭載予定の衛星への影響についても検討を行ったところ、NECが開発したベトナム向けの地球観測衛星「LOTUSat-1」など5機の衛星は、Block1でも対応できることが分かった。一方、高感度太陽紫外線分光観測衛星「SOLAR-C」は能力不足のため、対応については「別途検討する」とした。

  • Block1で打ち上げが可能か検討した結果。表に示されている5つのミッションは対応可能と判断した (C)JAXA

    Block1で打ち上げが可能か検討した結果。表に示されている5つのミッションは対応可能と判断した (C)JAXA

ただ、約590kgと、この中で最も重いLOTUSat-1については、対応可能と判断はされたものの、当初の目標軌道へ投入するには、打ち上げ能力が少し足りない。そのため、Block1で打ち上げが可能な範囲の楕円軌道に投入し、そこからは衛星側の推進系を使って高度を上げ、目標の円軌道へ到達させる、とした。

もちろん、これだと衛星の燃料を余分に消費することになるため、衛星の軌道上寿命に影響が出てしまう。いわば衛星側に迷惑をかける対応であり、ロケット側としては苦渋の決断となるが、M-35aならば、早期に打ち上げることができる。E-21の完成時期が見通せない現在の状況では、やむを得ないだろう。

ただし、前述のようにM-35とM-35aはまったく同じものではないため、打ち上げる前に、地上燃焼試験を実施し、E-21で発生したような燃焼異常が起きないことを確認する。この燃焼試験は、JAXA種子島宇宙センターのテストスタンドで実施する計画。ここはE-21の爆発によって激しく損傷していたが、設備の復旧は予定通り進み、ほぼ終わっているそうだ。

  • 計画変更後のスケジュール。ロケットの製造とM-35aの開発を並行して進め、燃焼試験と打ち上げを2026年度内に実施する (C)JAXA

    計画変更後のスケジュール。ロケットの製造とM-35aの開発を並行して進め、燃焼試験と打ち上げを2026年度内に実施する (C)JAXA

なお、イプシロンSの実証機(イプシロン7号機)に搭載するペイロードについては、「具体化を進める」という表現にとどめ、明確にはしなかった。システムが大きく刷新される機体のため、性能確認用のダミーウェイトを搭載するのが基本線ではあるが、それでも乗せて欲しいという衛星があれば、いきなり衛星が乗る可能性もあるだろう。

E-21が爆発した原因は特定できるか?

Block1以降については現時点で未定だが、E-21の原因調査の状況も踏まえつつ、段階的に開発を進めていく(=ブロックアップグレード)計画だ。E-21が爆発した原因を特定し、対策が完了すれば、Block2としてE-21適用形態が登場することになるだろう。

そのE-21の原因調査の状況についても、今回報告があった。現在、焦点となっているのは「なぜ燃焼圧力が予測値よりも高くなっていったのか」ということだ。この現象は、2回の燃焼試験で共通して見られており、ここで想定外の何かが発生していた可能性が高い。それが爆発につながったと見るのが自然だ。

  • 爆発に至った2回の燃焼試験では、ともに燃焼圧力が予測値(黒線)より高い側に乖離していった (C)JAXA

    爆発に至った2回の燃焼試験では、ともに燃焼圧力が予測値(黒線)より高い側に乖離していった (C)JAXA

ここで何が起きていたのか。それを突き止めるため、今は小型モーターを使った燃焼試験を行っているところで、まずは前半の第1シリーズとして、3ケースの試験が完了したという。

  • 小型モーターの燃焼試験は、A〜Fの6ケースを実施する計画 (C)JAXA

    小型モーターの燃焼試験は、A〜Fの6ケースを実施する計画 (C)JAXA

ケースAはE-21を模擬したもので、もしこれで燃焼圧力の予測との乖離が再現できれば、そのメカニズム解明が一挙に進む可能性があったが、今回の3ケース全てにおいて、これは発生しなかったとのこと。引き続き、後半の第2シリーズとして、これから残り3ケースを実施する予定だ。

  • 燃焼圧力のグラフ。予測(黒線)との大きな違いは見られなかった (C)JAXA

    燃焼圧力のグラフ。予測(黒線)との大きな違いは見られなかった (C)JAXA

もしこの現象がサイズに依存している場合、小型モーターでは再現しない可能性も十分考えられる。そのときは、実機サイズのモーターで燃焼試験を行うしかなく、その計画も検討中。問題となった現象が再現しても爆発しないよう、燃焼を途中で止める工夫がされており、現在、モーターの設計が進められているところだ。