大阪公立大学(大阪公大)と大阪大学(阪大)の両者は1月20日、有機ラジカルとニッケルを組み合わせた「有機無機ハイブリッド磁性体」を用いて、量子スピンがネックレス状に連なる新しいタイプの「近藤ネックレス」の実現に成功したと共同で発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の山口博則准教授、同・冨永悠大学院生(研究当時)、埼玉医科大学の古谷峻介講師、阪大大学院 理学研究科の木田孝則助教、同・萩原政幸教授、防衛大学校の荒木幸治講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学を扱う学術誌「Communications Materials」に掲載された。
「近藤効果」とは、金属中の伝導電子が局在スピンと相互作用することで現れる特有の量子現象を指す。磁性や電子状態に大きな変化をもたらし、重い電子系や量子臨界現象といった複雑な物理現象を引き起こすメカニズムだ。この現象を純粋なスピンの自由度だけで捉えるため、1977年に提唱されたのが「近藤ネックレス」という量子モデルである。これは、局在スピンと伝導電子の相関を記述する「近藤格子」をさらに簡略化し、スピン間の相互作用をネックレス状の構造に絞ってモデル化したものだ。
近藤ネックレスは、量子相の起源を解明するための理想的な的枠組みでありながら、その理論を体現する実際の物質を合成することが難しく、長年の課題となっていた。しかし、山口准教授らの研究チームは2025年、このモデルを反映した物質を世界で初めて実現。量子物質研究に新たな展開をもたらした。
ただし、量子物質の世界では、スピンの大きさが変わるだけで基底状態が質的に変化するという特徴がある。局在スピンが直線状に並ぶ量子物質である「ハルデン状態」に象徴されるように、この性質は新しい量子相の発見に直結してきた背景がある。そこで研究チームは今回、スピンの大きさが量子状態を決めるという普遍的原理を近藤効果にまで拡張し、実験的に検証したという。
研究チームが活用したのが、有機ラジカルの空間配置と相互作用を精密に制御するための独自手法である「RaX-D」だ。この手法により構築された分子性磁性体は、無機物では実現が難しい多様な量子モデルを自在に組み上げられる強みを持つ。その成果の1つとして、先行研究では鎖状に並んだスピン1/2に「飾りとして」別のスピン1/2を結合させた近藤ネックレスを実現し、「近藤カップリング」によってスピンが非磁性化されることを解明した。
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今回合成された有機無機ハイブリッド磁性体「Ni(p-Py-V-p-F)(H2O)5]・2NO3」の結晶構造と、それによって形成されるスピンの相関である近藤ネックレス(出所:大阪公大プレスリリースPDF)
今回の研究ではこの成果をさらに発展させ、飾り部分のスピンを1/2から1へと拡張した近藤ネックレスの合成が試みられた。分子内のニッケル元素がスピン1を担い、主鎖の有機ラジカルと近藤カップリングを形成する構造で、設計通りに合成することに成功したとする。
熱力学特性を詳しく解析した結果、この系が低温で磁気秩序を示し、磁場で秩序が崩壊する量子相転移を起こすことが判明。また量子的解析により、飾り部分のスピンが1/2の場合とはまったく異なり、スピン1以上では近藤効果が磁性を抑えるのではなく、磁性を生成する方向に働くことが実証された。これは、スピンの大きさによって近藤効果の役割が質的に変化する量子物質の新たな境界線を示す成果であり、近藤格子系の理解を広げる重要な一歩となるという。
今回の成果により、スピンサイズを制御することで量子状態の安定性や結合の強弱を設計できることが明確となり、量子ビット設計など、量子コンピューティングとの親和性が極めて高い点でも注目されるとした。今回得られた知見は、量子物質科学に新たな境界線を引くと共に、量子状態を思い通りに切り替えるという新しい材料設計指針を与えるものであり、次世代の量子材料探索や量子技術への応用に向けた大きな前進となるとしている。

