東北大学と八戸工業高等専門学校(八戸高専)の両者は1月19日、コンクリート製品の製造現場に再生可能な環境調和型キレート剤を導入した「二酸化炭素(CO2)鉱物化プロセス」の適用可能性を検討すると共に、その環境負荷低減効果を評価した結果、製造時に発生する廃棄物「スラッジケーキ」の削減とCO2固定を同時に達成でき、地球温暖化を含む環境影響を大幅に低減できる可能性があることを明らかにしたと共同で発表した。

  • 植物由来の生分解性キレート剤(GLDA)水溶液を10回循環再利用した際の炭酸塩化されたカルシウム濃度の推移と、生成された高純度炭酸カルシウムの画像

    植物由来の生分解性キレート剤(GLDA)水溶液を10回循環再利用した際の炭酸塩化されたカルシウム濃度の推移と、生成された高純度炭酸カルシウムの画像および走査型電子顕微鏡像(出所:東北大プレスリリースPDF)

同成果は、東北大大学院 環境科学研究科のJiajie Wang助教、同・三山凌大学院生、同・Vani Novita Alviani特任助教(研究当時)、同・渡邉則昭教授、東北電力の進藤学主幹研究員、同・坂本和寛主査、八戸高専の土屋範芳校長(東北大名誉教授)らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

コンクリート製品の製造工程においては、大量の温室効果ガスであるCO2に加え、生コン工場で生じる汚泥を脱水処理し、固形化した廃棄物であるスラッジケーキが発生する。このスラッジケーキは現状、その大半を埋め立て処分や外部委託処理に頼らざるを得ないため、処理コストの増大や最終処分場の不足が深刻な課題となっている。

これらの課題を同時に解決する技術として、現在注目を集めているのがCO2鉱物化だ。同技術は、廃棄物中のカルシウムなどの成分とCO2を反応させ、安定した炭酸カルシウム(CaCO3)などの炭酸塩鉱物として固定することで、廃棄物を減らしながらCO2を資源として活用することができる。しかし、従来法では薬剤を大量に使用する必要があり、廃水の増加やコストの上昇といった、環境負荷や経済性の面で新たな課題となっていた。

こうした中、渡邉教授らの研究チームが2020年に開発したのが、植物由来で環境負荷が低く、繰り返し利用可能なキレート剤水溶液を用いたCO2鉱物化プロセスだ。キレート剤とは、金属錯体の形成に用いる配位子の一種を指す。同技術は、穏やかな条件でカルシウムを効率よく抽出・炭酸塩化でき、抽出液を再利用可能なことから、廃液や薬品使用量を大きく減らすことができる点が最大の特徴だ。そこで今回の研究では、同技術のコンクリート製品製造現場への導入可能性を実証すると共に、CO2排出削減と環境負荷低減を同時に実現し得る技術であることを実証することにしたという。

渡邉教授らの開発したCO2鉱物化プロセスは、100℃以下・常圧という温和な条件で実施可能であり、環境負荷が小さい。スラッジケーキの処理に用いるキレート剤は、植物由来の生分解性の「L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)水溶液」だ。GLDA水溶液を用いた結果、スラッジケーキの削減とCO2の固定化が同時に達成され、さらに工業原料として利用可能な高純度CaCO3の製造も実現した。抽出溶液を10回繰り返し使用する評価試験において、スラッジケーキ量を約25%削減できること、同時に1kgあたり156gのCO2を安定なCaCO3として固定可能であることが実証された。

さらに、ライフサイクルアセスメントの結果から、同技術をコンクリート電柱製造工場に導入した場合、地球温暖化係数を16.1%削減できる可能性が示されたとする。加えて、酸性化、資源消費など、他の環境影響カテゴリにおいても、1.2~10.0%の改善効果が確認された。これにより、環境負荷の多面的な低減に寄与する、包括的かつ実用性の高い環境技術であることが確認された。

今回の成果は、廃棄物削減、資源循環、CO2削減を同時に実現する優れたアプローチとして、コンクリート産業の脱炭素化を大きく前進させるものであり、今後の産業応用が強く期待されるとする。

研究チームは今後、同技術のスケールアップと長期連続運転試験を進め、実用化に向けた技術的課題の解決を図るとした。特に、反応プロセスのさらなる高効率化、残渣の有効再利用、システム全体のゼロエミッション化、省エネルギー化に取り組み、産業レベルでの安定運用の確立を目指すとする。

また、同技術の他のコンクリート製品製造拠点やセメント関連産業への展開も視野に入れ、実証フィールドの拡大を進めると共に、多様な産業廃棄物を原料とする応用可能性についても検討を行うとしている。さらに、産学連携を通じて社会実装を加速し、同技術によって製造される高純度炭酸カルシウムの建設材料・工業材料としての利用拡大を図ることで、資源循環型社会の構築とカーボンニュートラルの実現に貢献していくとした。研究チームは、環境負荷低減と資源創出を同時に実現する技術として、同技術の普及・展開を進め、工業生産における脱炭素化を力強く後押ししていく方針としている。