町を象徴するブナと雪から共通してイメージできる「白」を基に、町全体を“白い森”と表現している山形県小国町。

同町は2023年6月にNTT東日本 山形支店とDX推進に関する連携協定を締結し、ICTなどの力で小国町が抱える課題の解決を目指している。この度、介護認定業務のDXを勧め、実証により 年間1,465時間を削減できることが明らかになった。以下、同町の取り組みを紹介しよう。

人材支援制度を活用してDXを推進

NTT東日本は協定の下、内閣府が推進する地方創生人材支援制度を活用し、週1日程度、小国町に社員を派遣し、デジタル化に向けた職員の意識改革および地域課題の解決を図る施策の推進を担った(連携協定は2025年12月現在も継続しているが、人材派遣は2025年3月で終了)。

小国町に派遣されたNTT東日本 ビジネスイノベーション本部 公共SE部の塩野将太氏は、町職員との打ち合わせや役場内のDX委員会への参加を通じて、デジタルデバイド対策として町全体のDX推進に関するアドバイスや研修を担当。

活動はそれだけにとどまらず、町や自治体の各原課が抱える課題を洗い出しを行い、DXを進める上での優先順位付けを行う。その過程で見えた介護分野の課題を整理・把握することで、最適な提案につなげることが可能になったという。同時期、NTT東日本ビジネス開発本部では自治体課題に対するマーケティングやモデル化の検討を進めており、小国町の課題がそれに合致したため実証を進めることにつながった。自治体の介護現場におけるDX課題については全国の自治体にとって共通の課題でもあるため、小国町モデルは今後の自治体における介護DXの試金石となる。

  • 小国町とNTT東日本 山形支店の連携イメージ(出典:NTT東日本)

    小国町とNTT東日本 山形支店の連携イメージ(出典:NTT東日本)

聞き取り調査で業務課題を抽出

DX化効果の高い業務の一覧を、NTT東日本が小国町へ提示して、その中から介護認定業務が選ばれた。

「介護認定は申請してから原則30日以内に通知を出さないといけないという国の規定があり、どの自治体に聞いても何とかこなしている状況です。医師に意見を聞いたり、市町村の職員やケアマネージャーが訪問して確かめたりする必要があります。このように認定までに多くの作業を要し、職員負荷も高いことから、DXのニーズが高い業務になっています」と、地方自治体DXにおける新規ビジネスモデルの検討をしているNTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当の林萌子氏は、介護認定のDX化はどの自治体もかかえる課題だと指摘した。

その後、NTT東日本は、実際に介護認定業務に従事している職員も交えながら、介護認定業務の業務フローを可視化し、どこのフローでどんな課題があるのかを細かい粒度で把握していった。

「NTT東日本さんからアドバイスをもらって町内のケアマネージャーさんに聞き取りをしました。そういう機会は今までなかったため、どの作業に時間がかかっているのか、どこを変えたら負担が少なくなるかが見える化でき、よい機会となりました」(井上氏)

そうして得た情報をもとにフローの中でどこをデジタル化したらいいのか、NTT東日本が案を検討し、実際に介護認定業務に従事している職員の意見も参考にしながら、解決策を検討していった。

  • 小国町における介護認定業務のフロー

    小国町における介護認定業務のフロー

オンライン申請と訪問調査のデジタル化を実施

介護認定のDXとしては、介護認定の申請のオンライン化と訪問調査のデジタル化の2つが行われた。

小国町では、申請の約8割をケアマネージャーが行い、残り2割はケアマネージャーが付いていない住民の家族が行っており、年間の申請(新規・更新・区分変更)件数は590件ほどあったという。

これまで介護申請は紙で行われ、提出する際は、開庁時間内に役場まで持参する必要があった。場合によっては、車で片道30分ほどかけて提出していたこともあったという。それがオンライン化されることで、ケアマネージャーは来庁せずに24時間365日、いつでもどこでも申請が可能になった。

「移動時間と開庁時間内という制約がなくなり、ケアマネージャーがいつでもどこからでも申請できる点は便利だと思っています。また、これまでは様式が紙だったので、オンライン化により、紙やコストの削減や環境負荷の軽減など、さまざまな課題が解消しました」と、NTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当 樋口絢大氏は語った。

  • 小国町のDXに取り組んだNTT東日本 山形支店のみなさん。右からNTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当 樋口絢大氏、NTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当 林萌子氏、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 公共SE部 塩野将太氏

    小国町のDXに取り組んだNTT東日本 山形支店および本社のみなさん。右からNTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当 樋口絢大氏、NTT東日本 ビジネス開発本部 開発マーケティング部 マーケティング担当 林萌子氏、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 公共SE部 塩野将太氏。

一方の訪問調査は、これまでは現地で紙に書き、それを庁舎に戻ってから清書するといった具合に、人により1時間~1時間半ほどかかっていたという。そこで、調査票をデジタル化し、表示されたチェック項目をiPadからその場で入力できるようにした。

「必須の項目を埋めないとオンラインでは提出できないようになっているので、記入漏れをなくすこともできます」(林氏)

「調査票は判断根拠となる特記事項を書く必要がありますが、これまでは調査員によって粒度が異なり、標準化できていないという課題がありました。それを汎用的に使われている例文を調べ、これまで調査員の方が自分の頭で考えていたところを、リストから選択する方式にしました。これにより、文章を考える時間や手間がなくなり、調査終了後の転記や文章を考える手間を削減するとともに、調査員の経験等に左右されない精度の高い調査を実現することができました」(樋口氏)

  • 特記事項の選択画面(出典:NTT東日本)

    特記事項の選択画面(出典:NTT東日本)

予想を上回る年間1,465時間の削減を実現

調査票入力アプリは、今年の4月から小国町の職員に聞き取り調査を行って仕様を固め、アプリ開発は今年の8月から約1カ月でサイボウズのkintoneを使って行われた。その後、9月から10月にかけて現場でアプリの効果検証が行われた。

その結果、1件当たりの申請から訪問調査までの作業時間は、新規が約135分から約77分に約58分(44%)の削減、更新が約289分から約91分に約188分(65%)の削減、区分更新が約160分から約78分に約82分(51%)の削減と、大きな成果を得た。年間では、トータルで1,465時間削減できる計算だという。

  • DXによる1件あたりの作業時間の変化(出典:NTT東日本)

    DXによる1件あたりの作業時間の変化(出典:NTT東日本)

「紙の無駄を省け、紙を印刷したり役所に提出したりする手間もなくなります。町内の事業所にいるケアマネージャーさんは役場まで車で片道30分かかることもあるので、窓口に行って出す必要がないのは効率が良いという意見をもらっています。地方自治体では特に、介護の人材不足が深刻化しており、ケアマネージャーさんの確保にも苦労していると聞いています。ケアマネージャーさんの稼働が削減できるということは、地域の介護を支えることにつながったと感じています」(林氏)

介護認定業務は多くの自治体が課題として抱えているため、NTT東日本は今回の仕組みを横展開できると考えている。

「予想を上回る稼働削減効果を出すことができたので、今回の検証に協力してくれた小国町さんには感謝しています。また、今回の実証では大幅な作業時間の削減とともに、少子高齢化や福祉の担い手減少といった社会課題解決の一助になったと実感しています。今回のモデルを同様の課題を抱える他自治体にも横展開していくとともに、そのほかの業務領域においても、当社のパーパスである「地域循環型社会の共創」に寄与する取り組みを広げていきたいです」(林氏)

DX成果が認められ奨励賞を受賞

小国町とNTT東日本の取り組みは成果が認められ、12月9日に行われた5G・IoT・AI コンソーシアム主催の「DX大賞2025」で奨励賞を受賞した。5G・IoT・AIコンソーシアムは、民間主導で立ち上げた山形県のDX推進組織で、県内の主要経済団体や企業、大学、金融機関、行政機関など42団体・企業が加盟し、地域や県民のデジタル活用意識の醸成に努めている。

  • 「DX大賞2025」の授賞式の様子

    「DX大賞2025」の授賞式の様子

  • 小国町の取り組みは5G・IoT・AI コンソーシアム主催の「DX大賞2025」での奨励賞を受賞(後述)。賞状と盾を手にする小国町 総務企画課 DX推進担当係長 木村明宏氏(左)と小国町 健康福祉課 地域保健担当 地域包括支援センター 主査 井上ひとみ氏(右)

    小国町の取り組みは5G・IoT・AI コンソーシアム主催の「DX大賞2025」での奨励賞を受賞(後述)。賞状と盾を手にする小国町 総務企画課 DX推進担当係長 木村明宏氏(左)と小国町 健康福祉課 地域保健担当 地域包括支援センター 主査 井上ひとみ氏(右)

そして、木村氏は小国町の今後のDXについて次のように語り、さらなる進化に向け意欲を見せていた。

「高齢化や人口減少が進んでいる中、庁舎内におけるkintone導入、職員の業務負担を減らす形でDXを進めて来ました。今後は、住民の皆さんに直結するような事業でDXを進めていきたいと思いますが、高齢者の方が多いので、最新のシステムを町民向けに提供しても使えない方がいらっしゃいます。そこで、デジタルデバイド対策も並行して進め、あらゆる年代の人がデジタル化の恩恵を受けられるようにしたいと思っています」

  • 小国町のDXを推進したチーム

    小国町のDXを推進したチーム