岡山大学と慶應義塾大学(慶大)の両者は1月7日、二次元半導体材料「遷移金属ダイカルコゲナイド」(TMDC)のマイクロリアクタ内部における「気相-液相-固相(VLS)成長」について、これまで困難だったリアルタイム観測と成長モードの解析に成功したと共同で発表した。
同成果は、岡山大大学院 環境生命自然科学研究科の千田祐太朗大学院生、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域の鈴木弘朗研究准教授、同・林靖彦教授、信州大学 先鋭領域融合研究群 先鋭材料研究所の久間馨助教(現・Preferred Networks所属)、慶大 理工学部物理学科の藤井瞬助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、多様な分野の基礎から応用までを扱う学際的な学術誌「Advanced Science」に掲載された。
次世代半導体材料の高品質化に期待
単層で原子3個分(約0.7nm)の厚みしかない二次元半導体であるTMDCは、優れた柔軟性や電気・光学特性を備え、次世代集積回路のトランジスタやフレキシブルセンサなどへの応用が期待されている。しかし、その実現には高品質な結晶の成長手法が不可欠だ。
大面積単結晶の合成手法であるVLS成長法は、液相原料(モルテン)と気相のカルコゲン原料の化学反応により固相のTMDC結晶を成長させるという手法だ。液相原料による多様な成長モードが存在するため、その制御が高品質化の鍵を握る一方で、成長過程における液相の動的振る舞いが複雑で、合成後の観察のみでは解析が困難だった。そこで研究チームは今回、成長中のリアルタイムなその場観測により、動的な液相原料の寄与や成長モードの解明を試みたという。
構築されたその場観測合成システムは、赤外加熱炉により基板を積層したマイクロリアクタを有機硫黄雰囲気下で約800℃に加熱し、上部観察窓から顕微鏡で内部を捉える仕組みだ。シリコン基板に原料の「タングステン酸ナトリウム」(Na2WO4)を塗布し、透明なサファイア基板の積層により観測が可能となっている。これを用いて単層「二硫化タングステン」(WS2)を合成した結果、サファイア基板側に単層WS2の成長が確認された。
原料供給量を変化させた観測では、供給量が比較的少ない場合は三角形の結晶が大きく成長し、多い場合には原料が液体状態(モルテン)となってそこから単層WS2が核生成し、大面積成長する様子が観察された。この成長モードを調査した結果、マイクロリアクタ端から供給される硫黄によってモルテン液滴の流動性が高まり、「マランゴニ効果」が生じて液膜が広がる様子が判明したほか、大面積成長にはこの液膜の形成が重要であることも明らかにされた。
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(a・b)その場顕微鏡観察による、原料供給が少ない場合(a)と多い場合(b)のWS2結晶成長の時間変化。(c)マイクロリアクタ内におけるモルテン液膜形成と結晶成長のモデル図(出所:共同プレスリリースPDF)
硫黄導入によるモルテン原料の流動性向上のメカニズムについては、サファイア基板上のNa2WO4粒子のシミュレーションにより、硫黄(S)原子がナトリウム(Na)原子との相互作用を通じてその拡散を促進されることが判明。S原子によってモルテンの拡散性増加の初期過程であることが推察された。
また、2種類のモルテン(Na-W-OとNa-W-O-S)の融点比較からも、S原子を含んだモルテンは含まないモルテンに比べて大幅に融点が減少することが確認され、S原子がモルテン液滴の流動性を高める要因となり得ることが示された。
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(a)分子動力学シミュレーションにおけるNa2WO4粒子のモデル(左:硫黄なし、右:硫黄あり)。(b)Na原子の分子平均二乗変位の時間変化。分子平均二乗変位は分子の拡散性を表している。(c)モルテン原料の示差熱分析。Na-W-O-Sモルテンを模擬するために、Na2WO4とNa2SO4が混合されている(出所:共同プレスリリースPDF)
さらに、原料供給量が極端に多い条件下では特殊な成長モードが現れることも解明された。有機硫黄原料の供給量が多い条件では、リボン状結晶の成長が観察されたことから詳細に解析したところ、WS2の三角形状の微結晶が連なったナノリボンが成長することが判明した。
WS2リボンのエッジにはモルテン原料が張り付くように存在していることがわかり、この高い濡れ性のモルテン液滴が、異常リボン成長の要因である可能性が示唆された。加えて、WS2リボンの成長方向はアームチェア方向であることも確かめられた。さらに、この異常リボン成長のその場観測の結果、単層WS2ドメインからリボン状の結晶が成長し、ジグザグに約60度、角度を変えながら軸方向に成長する様子が観測された。これらの振る舞いは、WS2リボンがサファイア基板に対してエピタキシャル成長していることを示唆しているとした。
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(a・b)WS2リボンの光学顕微鏡像(a)と原子間力顕微鏡像(b)。(c・d)WS2リボンの第二次高調波発生特性(c)と結晶モデル図(d)。(e)その場顕微鏡観察による異常リボン成長の時間変化(出所:共同プレスリリースPDF)
また、Na2WO4原料が極端に多い場合、マイクロスケールのモルテン液滴粒子が形成され、WS2ドメインとの接触によってモルテン粒子運動が駆動し、その軌跡に沿って単層WS2が成長する様子が判明した。この現象に対し、モルテン粒子とWS2ドメインとの接触によるモルテン粒子内接触角の非対称性の発現がトリガーとなり、モルテン粒子の運動が駆動されるモデルが提唱された。
今回の研究成果は、TMDC結晶成長の基礎的理解を深めると同時に、結晶成長の精密制御への大きな貢献が期待できるとしている。

