音がどこから来たのかを感知する「音源定位」という機能は、脳内の中枢神経系に存在する「オリゴデンドロサイト」という細胞の多様性によって支えられていることを発見したと、名古屋大学の研究グループらが発表した。
名古屋大学大学院医学系研究科 細胞生理学の江川遼助教と久場博司教授らの研究グループと、京都大学の渡邉大教授らによる共同研究で発見されたもの。この研究成果は、国際科学誌『eLife』電子版に日本時間12日24日付で掲載されている。
人は音を聴くと、それがどこからきたのかを無意識のうちに認識している。車が後ろから迫ってくるといった状況察知のほかにも、たとえば映画やゲームなどの音響効果でまるで画面の中にいるような臨場感を味わえるのも、音源定位によるものだ。
音源定位は、左右ふたつの耳で聞いた“音のわずかな違い”を脳が検知することで実現している。その手がかりのひとつが「音の時間差」で、音源の方向によって左右の耳に音が到達する時間にマイクロ秒レベルの差が生じる。この「両耳間時差」を検知する神経回路は、「脳幹」と呼ばれる部位に存在する。
音源が頭部に対して正面にあると時間差は生じないが、音源の位置が真横に近づくにつれて時間差が増大することが分かっている。その時間差は左右の耳の間の距離にも依存しており、ヒトでは最大600マイクロ秒程度とされている。正面付近であれば、ヒトは約10マイクロ秒(角度として1〜3度)の精度で時間差を検出し、音源方向を知覚できる。一部の鳥類はこの検出能力が特に優れていて、たとえばメンフクロウは真っ暗闇の中でも、音の情報だけを頼りに獲物を捕まえられる。
こうした音源定位の能力は、「オリゴデンドロサイト」という細胞の多様性、領域差によって、神経回路の配線である「軸索」上の情報伝導速度が精密に制御されることで支えられている、ということが分かったのが、この研究成果のポイントだ。
オリゴデンドロサイトは、脳内に存在するグリア細胞の一種。軸索に突起を巻き付けて髄鞘(ずいしょう)を形成することで、跳躍伝導(神経回路を伝わる高速な電気信号)によって情報の伝導速度を最大100倍ほど高速化しているという。
跳躍伝導の速度は、髄鞘間の「ランビエ絞輪」と呼ばれる軸索区画の間隔によって変化するが、その間隔は脳領域間だけでなく、一本の軸索上でも異なる。その間隔の違いを生じさせる仕組みはこれまで分かっていなかった。
今回の研究ではこの仕組みを解き明かすため、軸索上のランビエ絞輪間隔に領域依存的な偏りがあるニワトリの脳幹聴覚回路に着目した。ニワトリの脳幹聴覚回路でも、両耳間時差の検出によって音源定位の機能を支えていることが知られている。
脳を透明化して回路の3次元構造を詳細に調べた結果、ランビエ絞輪の間隔の違いは、軸索そのものの構造(直径や分岐)によるものではなく、オリゴデンドロサイトの形態と密度の領域差を反映していることが明らかになった。
また、神経活動はオリゴデンドロサイトの産生を制御して領域間の密度の差をつくるのに関与しており、ランビエ絞輪間隔の違いは各領域のオリゴデンドロサイトに備わった髄鞘形成能力の違いによって決まることが示唆されたとのこと。
脳内のオリゴデンドロサイトは多様な集団であることが知られていたが、今回の研究により、その多様性が神経回路の情報処理において重要な意義を持つこと、さらに多様なオリゴデンドロサイトを適材適所に配置する未知のメカニズムが存在することが示された、としている。
